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友達の友達  作者: 長篠金泥
第4章

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37 はれときどきカイナ

 二歩、三歩と進んでいくと、ひざが抜けそうになってよろける。

 やっと、病院の外に出られた――晃は夜空を見上げながら大きく息を吸う。

 服役囚が数年ぶりに感じる娑婆しゃばの空気にも等しい、自由の味がした。

 十秒ほど呼吸を止め、巨大な溜息を深々と、そしてゆるゆると吐く。


 肌を包んでくる夜気やきは、真夏とは思えないほどに涼やかだ。

 だが、緊張状態が生じさせている汗は、止まる気配がない。

 振り返れば、優希とダイスケも空を見上げていた。

 月明かりが照らす二人の様子から、ストレートな歓喜や安堵あんどは伝わってこない。

 各種感情が複雑に混ざり合った、表現の困難な表情が浮かんでいる。


「外、じゃん……」

「ああ、外だな」


 声の震えたダイスケのつぶやきに、晃はなく返す。

 トンマな発言と気付いてか、ダイスケは誤魔化ごまかすすような咳払いを二つ。

 窮地きゅうちから解放されて気が抜けた、というのもあるんだろうか。

 晃も「逃げられた」のを改めて実感しているし、優希もたぶん似たような心境だ。

 しかし、ここでヘラヘラと突っ立っているワケにもいかない。


「どこ行くにしても……とりあえず、ココから動こう」

「どっちに、晃?」

 

 優希の質問に指差しで応じ、正門へとつながる前庭の方へ歩き出す。

 数分と経たずに、病院の正面入口付近へと到達した。

 行きには不気味の極みと感じた光景も、今では特に何も感じない。

 幽霊や怪異なんかより、狂人や暴力の方が遥かに恐ろしい、と実体験させられた今となっては。

 そんなことを考えつつ晃が病院の建物を眺めていると、唐突に男の声が響く。


「いよぉ、遅かったじゃねぇか。あんな目に遭っといてダラダラできるたぁ、アレだ。オメェらはマジモンのノロマでマヌケ、略してノロマヌケなんだなぁ、オイ!」


 無駄に通りのいいのが腹立たしい――この声は、クロのものだ。

 二階か三階の窓から顔を出してそうだが、地上からは姿が見えない。

 向こうからは、コチラがハッキリ見えているように思える。

 暗視スコープとか、そういう装備でも使っているのだろうか。

 晃はミニライトを上に向けたが、光量不足で何も照らしてくれない。


 何はともあれ、関わっても絶対にロクなことにならない。

 この場にとどまれば、漏れなく、確実に、不愉快な目に遭わされる。

 それは予定や仮定ではなく、ほぼ確定と言っていいだろう。

 なので晃は、クロの雑言ぞうごんを無視して立ち去ろうとした。

 すると、相手は聞き捨てならない感じの話を始める。


「テメェらの仲間にな、キチンとお別れさせてやろうかと思ったんだがなぁ……こう暗くちゃココから手を振られたって、全然わかんねぇだろ? だから逆にな、ココから手をふらせてやるわ! 直接バイバイできるのを喜べよ、なぁ!」


 言っている意味が、サッパリわからない。

 元からコイツはアホな発言ばかりだが、今回は特に酷い。


「えっ、どゆこと?」

「いや、ちょっと、何が何だか……」


 疑問を呈する優希に、自分もわからんとしか返せない晃。

 クロがいるであろう辺りをにらんでいると、何かが落ちてきた。

 三人から少し離れている背後に、重量感あるかたまりが「どちゃっ!」と。

 見ない方がいい、と直感的に理解はしていた。

 だけど晃は、反射的にライトを向けてしまう。


「ん、うぅうう!? ばっ――あああああああおぉん!」

「えっ? うそっ、やだっ、ふぁあ! やだやだやだっ!」


 ダイスケと優希が、疑問から驚愕きょうがくに至って、ほぼ同時に叫声を上げる。

 整備されず、波打っている石畳の上に転がった物体。

 それは、ヒジで切断された人の腕だった。


「うぉ、お、おっ……」


 叫んでいない晃は、自分でも不思議なまでに冷静でいられた。

 人間の腕だけが地面にゴロリと投げ出された絵面は、非日常にも限度がある。

 リアリティがありすぎるのか、それともなさすぎるのか、人体の一部ではなく『肉』と認識してしまう。

 現実感に欠けるイベントの連続で、脳が思考停止しているのかもしれない。

 そんなことを考えつつ、ゆっくりと落下物に近づいて行く。


「手を『振らせる』じゃなくて『降らせる』、かよ……」

 

 ギャグにもなってない悪ふざけに、血圧を急上昇する感覚があった。

 晃は投げ落とされた腕を照らし、詳細に観察してみる。

 小指と薬指に銀色の指輪をめた、体毛の薄い男の左腕だ。

 桃色の肉を晒した切り口は刃物によるもの、だろうか。

 骨までは断ち切れなかったのか、関節で強引にもぎ取ったらしい。


「ね、ねぇ晃……それ、って……」

 

 慶太も玲次も、こんな指輪はしていなかった。

 腕回りも二人よりだいぶ細くて、それで佳織より全然太い。

 となると、これの持ち主は――


 どしゃっ! とっ、たぱっ


 再びの落下音が、晃の右方向から発せられた。

 前回は左腕だから、今回は右腕だったりするのか。

 そんな冷めた気分で、落ちてきたものにライトを向ける。

 予想した通り、そこにあったのは右腕だった。

 小指と薬指のない、少し日に焼けている、筋肉質の太い腕。


「ケイ、ちゃん?」


 ここにあるが、ここにいない相手の名を呼ぶ晃。

 当然ながら、返事は返ってこない。

 固まった晃を心配し、ダイスケと優希が駆け寄る。

 そして、ライトが照らしている先にあるものを見た。


「うぁっ、またかよっ!」

「ヒィッ、うっ、えっ!? あのさ、これって……」


 ダイスケは吐き気を堪えるように右手で胸を押さえる。

 優希は両肘を抱え込むように、身をちぢめて訊いてきた。

 腕の持ち主を察し、引き攣った表情を浮かべる優希に、晃は無言で頷き返す。

 これは間違いなく、切断された慶太の右腕だ。 

 理解の許容量キャパシティを超えたのか、優希はうつろな目で腕を見つめるばかりで、もう悲鳴も泣き言も漏らさない。

 

「うぐっ! この、指輪っ……これ、翔騎んだ」

「あぁ……」


 一本目の腕を確認したダイスケが、持ち主の名前を告げてくる。

 翔騎は既に死んでいる――だが、慶太はどうなのだろう。

 既に殺されたのか、それとも生きたまま腕を斬られたのか。

 麻酔もせず生きたままで可能なのか、との疑念がチラつく。

 しかし、リョウの規格外な怪力ならば、大抵の問題を力ずくで解決しそうだ。

 三人を衝撃からますように、クロの品性ゼロの笑い声が降ってきた。


「ぱっひゃっひゃっひゃっひゃ! テメェらのリーダー的存在の思い出に、そのゴミでも持って帰れや! ただし生ゴミだからよぉ、冷蔵庫に入れるの忘れんなよ!」


 糞みたいなアドバイスを語ると、また楽しげに不快な笑い声を上げた。

 その声がフェードアウトした後、晃とダイスケは顔を見合わせる。

 互いの目に、数分前までの感情とは別物の色合いが宿っていた。

 恐れやおびえに染まった心に、怒りが急速に拡がっているようだ。


「……どうする?」

「俺に、考えがある」


 ダイスケの断言ぶりは、今度こそ何らかの腹案がある様子だ。

 それを信じてみようと決めた晃は、走り出したダイスケを追う。

 優希は虚ろな雰囲気のまま、だけど意外にシッカリとした足取りで、遅れながらも二人について行った。


 曲がりくねった下り坂を小走りで戻り、閉じたままの正門を乗り越える。

 着いた先は、正門脇の駐車スペースに停まっている、ワゴンRの前だった。

 荒い呼吸を整えながら、晃はダイスケに訊ねる。


「なぁ、それで、考え、ってのは」

「そっ、そいつは、こうだ」


 やはり息を切らせたダイスケは、その辺に落ちていた拳大の石を拾う。

 そして大きく振りかぶり、石を助手席側のドアウィンドウへと叩き込んだ。

 思ったより小さな破砕音はさいおんだけ残し、ガラスが粉々になって割れた。

 意図がわからず戸惑う晃と優希に、ダイスケは出来損できそこないの笑顔で宣言する。


「あいつらに、反撃開始だ」

更新ペースが破滅しており申し訳ありません……

「面白い」「やっと反撃のターンか」「年が変わる前に更新できてえらい!」などと思ってくれたなら、評価やブックマークをお願いします!

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