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友達の友達  作者: 長篠金泥
第3章

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25 ハンディキャップ・マッチ

「えっ、は? 俺ぐぁ!?」


 唐突に指名を受け、ワケのわからないリアクションを見せてしまう晃。

 訊き返された霜山は、アホな犬の相手をするような態度で、もう一度頷く。

 床に倒れて変な動きをする翔騎を見ながら、晃は湿しめった両手を強く握る。


 俺が、今から、コイツを、殺す――

 

 頭の中でそうとなえてみても、絶望的なまでに現実感に欠けていた。

 ちょっと前に会ったばかりの同年代の少年を、自分が殺害。

 ここまでも、相当に普通じゃない出来事の連続だった。

 だがそれが、いよいよ意味不明な領域にまで達した感がある。

 呆然ぼうぜんとしていると、リョウの声が短く響く。


「ホラよぅ」


 何かが足元に放り投げられ「ガラン」と硬質の音を立てる。

 一メートほどの細い鉄の棒――というか鉄筋てっきん

 これを使って殴り殺せ、ということなのだろうか。

 翔騎の様子を再確認すると、いつの間にか変な動きを止め、晃のことを見ていた。

 状況は理解できているようで、翔騎の瞳には恐怖と困惑が宿っている。


「なーに見つめ合ってんだ! 初恋気分かよボケァ!」


 翔騎から視線を外せずにいると、クロの耳障みみざわりな声が。


「あづっ――」


 晃のほほに、熱をともなった痛みが走る。

 どうやら、吸いかけの煙草を投げられたようだ。


「やり方わかんねぇなら、体験学習してみるかぁ!? んん?」


 ヨタヨタ歩み寄ってきたクロは、鉄筋の端をダンッと踏みつけ、跳ね上がった鉄筋を空中でキャッチする、無駄にスタイリッシュな動きを披露。

 それから、鉄筋の先で晃の肩、腹、ももを順繰りに軽く突いて、最後に側頭部を前後にそっとでた。


「うひっ――」


 殴る予告をされてるのかと、晃は慌てて身をかがめる。

 クロはつまらなそうに舌打ちし、無造作に鉄筋を放り捨てた。

 床を転がるそれを目で追っていると、霜山が苦笑を漏らしつつ言う。

 

「殺したら、それで終わりだから」


 終わり、とはどういう意味だろう。

 そのまま解放してくれる――いや、そんな都合のいい流れになるのか。

 様々な可能性を思い浮かべ、混乱した頭をどうにか整頓せいとんしている内に、晃はある推測へと辿り着いた。


 こいつらは、俺たちを殺人の共犯者にするつもり、じゃないか。

 警察沙汰に出来ないように、保険をかけるとかそういう意味で。


 いくら何でも、この場にいる全員を皆殺しにするのは、無理がある。

 殺人が表沙汰にならなくても、十人近い人間が一度に行方不明になれば、どれだけ巧妙な隠蔽いんぺい工作をしたところで、いずれ犯行はバレるだろう。

 クロは今の状況を存分に楽しんでいる様子だが、霜山やリョウにはこの「遊び」と人生を引き換えるほどの熱量はないように思えた。


「殺せば……終わり?」

「さっきから、そう言ってるでしょ」


 霜山からの苦笑は、冷笑に変わりつつあった。

 推測が正解ならば、生きて帰れるかも知れない。

 しかし、殺人の重圧は晃の精神状態をグラつかせる。

 仲間を助けるために、これから人を殺すのか。

 何の恨みもない相手を、鉄筋でブン殴って。


 いや、仲間がどうこうじゃなくて、自分が死にたくない。

 だから、殺して、逃げる――晃は再び、翔騎の方をそっとうかがう。

 さっきと同じくコチラを見据えているが、明確な変化がある。

 恐怖は居残っているが、困惑の色はすっかり消えていた。


 翔騎は血走った目を見開いて、晃を凝視ぎょうししていた。

 あいつだって、そりゃ死にたくないに決まってる。

 だけど、モタモタしていたら連中の気が変わるかも。

 処刑の対象が、自分や仲間たちに移動するかもしれない。

 そんな不安に駆られた晃が、鉄筋に手を伸ばそうとすると――


「待て、待ってくれ! 俺が……俺が代わりに、やる」


 膠着こうちゃく状態を見かねたのか、晃の重荷を引き受けようとしたのか。

 唐突に代役を申し出た慶太に、一人を除いて全員の視線が集中。

 それを聞いても、晃だけはうつむき加減になって目をらしていた。

 慶太の言葉に安堵あんどしてしまう、情けない自分を見せたくなくて。

 しばらくの無音の後で、霜山がジッと慶太を見据えて問う。


「へぇ……あんたがやんの?」

「ああ。誰がやっても一緒だろ……残酷ショーを見物したいんなら、俺がド派手にやって楽しませてやんよ! おぉ!?」

「おぅおぅ、威勢のイイこったなぁ」


 キレ気味に吼える慶太に、腕組みをしたリョウが半笑いで応じる。

 直後、ライターの蓋が開く音がして、クロが新しいガラムに火を点けた。

 そして甘ったるい煙をゆっくりと吐いた後、妙な提案を口にした。


「どうせならよぉ、勝負させねぇか。そのデコボコ面と、金髪小僧」


 クロは指に間に挟んだ煙草で、慶太と翔騎を順に指し示す。

 要するに、一方的に殴らせるのではなく、殴り合わせようという話か。

 更なる悪趣味を重ねてくるクロに、晃は薄ら寒い気分に陥った。

 どう転んでも暗い未来に絶望してか、翔騎は目が泳いでいる。


「勝負、ね……だとすれば、どんな?」

「やっぱ素手喧嘩ステゴロしかねぇべ」

「つっても、ウェイト差ありすぎじゃねぇの、あれだと」


 乗り気になったのか、霜山を中心にルールの検討に入っている。

 殺し合いの手順を決めているとも思えない、和気藹々(わきあいあい)な雰囲気だ。

 そんなものを見せられている晃たちは、戦々恐々(せんせんきょうきょう)とするしかない。

 

「じゃあ……ハンデでダメージ、入れとこうか」

「お、いいんじゃね? それのがアツいわ」

「目? 指? 肩?」

「玉いっこうぜ、タマキン」


 どうにも不穏な単語が多くて、胃がムカムカしてくる晃。

 何かしてくるのを予期し、慶太も不安げな様子だ。


「ま、指でいいか。頼むよ、リョウ」

「了解でーす」

 

 霜山から何かしらの指示を受け、軽い感じで応じるリョウ。

 慶太の襟首を掴むと、部屋の中央まで軽々と引きずって行く。


「ちょっ、んだよ! 自分で歩くって!」

「うるせぇ」

「あがっ――」


 うつ伏せに転がされた慶太の背中に、リョウが硬そうな尻を落とす。

 それから右足にくくりつけてあるシースから、刃の厚いナイフを抜いた。


「動くと、余計なトコが切れるぜ」


 警告を発しつつ、慶太の両手を縛っているタイラップを切断。

 そしてスッと腰を上げた――かと思えば、なめらかな動作で慶太の右腕をめにかかる。


「なっ――ぐぉあああああっ!?」

「動くと、余計なトコも切れるぜ」

「っ! ぅあああああああああああああああああああああああっ!」


 先程とわずかに違う警告をリョウが発すると、慶太は一瞬息を詰まらせる。

 その直後、聞いたことのないボリュームの絶叫を発した。

 リョウが何かを放り投げ、晃の額にぶつかって床に跳ねる。

 それは、根元から切断された血塗れの小指、だった。

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