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友達の友達  作者: 長篠金泥
第1章
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02 心霊スポット

 慶太の話が終わると、車内は四人分の溜息で満たされた。

 晃は半ば無意識に、顔の右側をさすってしまう。

 どうせ既視感バリバリの怪談だろうと油断していたら、思いがけずオリジナルネタ、という嬉しくない不意打ちだ。


「何なんですか、慶太さん……いきなり怖い話を始めるとか」

「ホントだよケイタ。いくら夏だからって、エンジンかかり過ぎでしょ」


 女性陣がクレームを申し立てるが、慶太の表情には反省の色がない。

 それどころか、ほんのりと喜色が浮かんでいる。


「そうは言っても、今夜これからのイベントを考えるとな。やっぱある程度、場をあっためとかないと」

「は? いきなり何言ってんのケイタってば――」

「え? 夜景を見に行くドライブなんじゃ――」

「第二十五回! ドッキドキ心霊スポット探検ツアァアアアアアッ!」

「イェア! あざらしショーもあるよ!」

「ねぇよそんなモン!」


 戸惑う佳織と優希を置き去りに、テンションを爆上げする慶太と玲次。

 そこにツッコミを入れながら、晃は今日の夕方からの流れを思い返す。



          ※※※※※※※※※※



 玲次の部屋でゲームをやっていると、勢い良くドアが開かれた。

 そして、わざとらしくドスドスと足音を立てながら慶太が入ってくる。


「おぅ! ヒマぶっこいてるか、お前ら?」

「だから、ドアは静かに開けろって毎回言ってんだろ、バカ兄貴!」

「細かいコトはどうでもいい。お前ら、今夜もヒマか?」

「も、って言うな。ヒマはヒマだけどさ……晃は?」

「特に用はないけど」


 晃と玲次の答えに、慶太は片手で小さくガッツポーズを作る。


「うし、じゃあ決まりだな。今夜は肝試しやんぞ。英語で言うとレバーテストだ」

「んん? 英語だと『テスト・オブ・カーレッジ』とかじゃね?」

「そんな優等生的な答えは求めてねぇんだよ、晃! 俺が車出すから、お前らは光速を超えてマッハで準備しろ!」


 これもまた、いつも通りの流れだった。

 勢いと思い付きのみで、唐突に何かやろうとする慶太。

 晃と玲次は、そこに問答無用で巻き込まれる。


「しかし兄貴、野郎三人で行く肝試しとか、罰ゲームに近い気が」

「そこは抜かりねぇよ。佳織と、その友達にも声をかけてある。何なら、真琴マコトちゃんも呼んでイイぞ」

「あの車に六人は流石にキツいだろ。大体マコは今、兵庫ひょうごのバアちゃんち行ってていねぇし」


 慶太には佳織、玲次には真琴という恋人がいるのに、何で俺だけ独りなのか。

 そんなことを思って晃がテンションを下げていると、それを察知したのか慶太がズイッと顔を寄せてきてささやく。


「晃――今回呼んだカオリの友達のユキちゃんな、メガネで、巨乳で、背は低めで、髪はショートで、お前の二つ上になる女子大生だ。さて、何ストライク?」

「……エイトかな」

「投球数よりもストライクが先行してんぞ」


 慶太からの耳寄り情報を聞かされ、晃の気力は急速に回復する。


「それでケイちゃん、その子カワイイの?」

「そいつは会ってのお楽しみ袋だよ」

「袋……?」



          ※※※※※※※※※※



 そんな胡乱うろんなやりとりを経て出発した三人は、途中で佳織と優希を拾って合流。

 現在は東京から北上して埼玉へと抜け、更に隣の県へと向かって車を走らせている、という状況だ。


 初対面の優希は、カーキ色のゆったりしたボタンシャツにジーンズという色気のないコーデと、メガネじゃなくコンタクトだったこともあって、晃が何となく想像していたおっとり系キャラとは印象が違っていた。

 とはいえ、美人であるのは想像――というか願望の通りだ。

 ただ、普通車の後部座席に三人が詰め込まれた状態は、物理的には席が近いのを通り越してほぼ密着で、優希はかなり居心地が悪そうだ。


 それをやわらげようと、色々と優希に話を振ってみる晃だが、慶太と玲次のない馬鹿話に妨害されイマイチ盛り上がらない。

 そんなタイミングで慶太の怪談が唐突に始まり、その終了と共に真のイベント内容の発表へと至ったのだった。


「えぇー、ちょっと、心霊スポットって……オバケとか出るやつ?」

「そうそう、その心霊スポット」


 運転席と助手席で、何だか分からない会話が行き交う。


「あのぅ、慶太さん……私、ホラーっぽいのとか、ちょっと苦手なんですけど」

「まぁまぁユキちゃん。夏と言えば怪談、怪談と言えば心霊スポット……じゃあレイジ、心霊スポットと言えば?」

「きもだめし……きもだめしと言えば、岐阜県の黄萌田きもだ町に伝わる郷土料理で、ココナッツミルクで炊いたもち米と、半冷凍で混ぜ込まれたサバのシャキシャキした歯応えが特徴」

「地名の段階から創作されてる創作料理じゃねぇか!」


 慶太のフリを受けた玲次のデタラメな返しに晃は笑うが、佳織はちょっと引きった笑いを、そして優希は強張った表情を浮かべている。


「そんなビビんなくて大丈夫だっての。何か出たとしても、コッチは屈強な男が三人もいるしな」

「おう」


 格闘技をやっていた慶太と玲次はともかく、自分はどうだろう――と思いつつ、晃も不安げな優希に重々しくうなずいてみせる。


「でも……」

「大丈夫大丈夫、幽霊が出たら逃げるし、危なそうなヤツがいても逃げる。それで何も問題ナシだよユキちゃん」

「危なそうって、悪霊とかそういう?」

「いや、そういうトコって時々、イキッたヤンキーみたいなのがウロついてること、あるから。そんなん見かけたら、トラブルになる前に即撤退で」


 眉根まゆねを寄せた心配顔が崩れない優希に対して、慶太はいつもより早口気味に安全性をアピールしている。

 そんな慶太の左肩を、助手席の佳織がポスッと軽く正拳で突く。


「えー、ぶっ飛ばしちゃえばいいじゃん」

「それでもいいけど、そんな連中とケンカして怪我させて、こっちが逮捕されたりなんかしたら馬鹿馬鹿しいだろ」

「あー……確かにね」


 いつの間にか慶太と佳織の話になり、優希の心配はスルーされている形だ。

 それに気付いた晃は、点数稼ぎの意味も含めてフォローに回っておく。


「あの、優希さん……ケイちゃんも言ってるけど、ヤバそうならすぐ引きあげるし、そんな深刻にならなくても」

「うん、それはそうなんだけど……」

「ひょっとして、霊感があったりとか、そういう?」

「ううん、別にそういうのじゃなくて……昔から幽霊とか、あんまり好きじゃないの」

「なるほど。でもアレじゃないかな、心霊スポットなんて基本的に『それっぽい』だけで、実際に何かあるとかは――」

「いやいや。あそこな、マジであるぞ」


 優希への説得を軽やかに粉砕した、空気の読めない男の後頭部を晃は睨む。

 だが、ミラーの中の慶太は意外にも大真面目な顔をしていた。

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