地上と地底 ①
「ああ、やっぱり。僕のじゃ無理だったか」
イシはそう言うと肩をガクリと落としたが、すぐにこう呟いた。
「でも、ほんとに。あの時にこれからもリンちゃんと遊んでたいなって、ただそう思ったんだ」
この相手はイシだろう。リンはそう思ってはいたものの最終的に質問した。
「おしかったねえ。でも、おにぎりは正解。私が一番好きなのはお母ちゃんのおにぎりよ。で、イシ君確さ。確かあの警察署を出た後、純一おじさんと一緒だったんだよね」
「えっ、あ。うん」
「かなり前のことだけど、それからどうしてた」
「純一さんがこれからは人の役に立つものにでもなってみろって言ったんだ。実は僕、あの頃はまだその言葉の意味がよくわかってなかったんだ。でも、出来ることはしてきたんだ。あの空中で使えるパソコンとか。だから今、はっきり言えるんだ。これまで色々とやってきたけど、僕が本当にしたいのはリンちゃんと遊んでいたいってことなんだって。」
割烹着姿の若い男性姿で熱心にそう語るイシを見ながら、リンは静かにそれを受け止めた。
「わかった。ねえ」
イシはうんうんと首を立てに振って答えた。
「ん、なあに」
リンは数秒間は何も言わなかったが、次の瞬間に抱きついた。イシの首元へ両腕を絡ませて頭を抱えるようにして優しく抱き込んだ。
「実は私も。ずっと会いたかったわ」
その姿勢のままいたイシは声が詰まった。そして次第に目元が潤み始めたが、懸命に抑えながらもそれに答えた。
「ほんとうかい」
それにリンが首を立てに降り、数秒後にイシから離れると直立でこう叫んだ。
「お父ちゃん、私はこの人とは絶対に戦わないからね」
香純は二人の間に何があったのかわからないが、とにかく大声でそれに答えた。
「なら、不戦敗だな」
リンはその返答に黙った。周囲は固唾を飲んで見守る中、一度だけコクリと頷いた。
「あっそ、だったらそれで良いわ」
娘はこうして試合を放棄したので負けとなった。全く意味がわからないと憤る香純を横目に、肉体がある病室へ戻った林松は静かに安堵していた。
そしていよいよ決勝戦を迎え、対戦者は葉流対イシとなった。この二人が壇上に現れると割れんばかりの拍手と歓声が鳴り響いた。
「葉流、わかってんだろうな」
「きゃあああ、イシさんだわ。かっこいい」
そうした様々な声が届く中、二人は向き合った。
「これから決勝戦となります。では、握手を」
そう促された二人は軽く握手した。
「はい、ではこちらへ」
誘導係の声でそれぞれが壇上の立ち位置についた。
「さ、いよいよ決勝戦ね」
リンが何気なく言うと、隣に座るトクがこう言った。
「リン、いつの間にか大人になったのね」
リンはその意味を何度も心の中で繰り返した。大人になったとはどういう意味か。そう思いながらも先程あったことを伝えた。
「ほら、見て。イシ君がさっきおにぎりくれたんだ」
そう言ったリンの姿はいつになくそわそわしている。トクはそれを感じ取りながら
「へええ。で、それ食べたの」と尋ねるとリンは笑って答えた。
「うん」
トクは驚いた。
「珍しいわね。見知らぬ相手がくれたものを簡単に口にするなんて」
リンははっとしたものの静かに微笑んでいた。
母は続けて静かにこう語りかけた。
「リン、それって大切なことよ」




