十周年記念式典 ⑦
「皆、本当に心配かけて悪かった」
幼い姿の林松がそう伝えたところ、未だ多くの人は半信半疑だった。
「これってさ、さっき見た術の続きをやっているんだろ」
「おいっ、子どもたちはさっさと引っ込まんかい」
などという声に溢れていた。しかし壇上にいる香純が眉間に力を込めてこう口にすると、次第にそうした声は止まっていった。
「皆さん、その時が来たようです。そのことについてこれから林松さんよりお話頂こうと思います」
その声でそれまで好き勝手に言っていた人達は急に口を塞いで黙った。そして林松は小さな綾子を横目に壇上の中央へと躍り出て大きく深呼吸して皆へこう伝えた。
「今、どうして俺がこの姿でここにいるのか。今も病院で寝ているはずの俺がなぜこうして皆の前にいるのだろうか、疑問はもちろんあると思います。しかしそれは夫婦間でさえそのようでして、これをどう説明すれば良いかと思っている次第ですが、まずは一つだけご理解いただきたい。この不思議な出来事についてそのまま素直に受け取ることが出来る人はそう多くはないとは思いますが、それでも伝えたいのは・・・」
小さい体を前後に揺らしてそう言った林松は、ここでリン達を指差してこう続けた。
「おい、お前ら。そうだ特にリンだ。この十年間、よくその力を使わずに過ごしたてきたな。でも、今日からは自らが持つ力の最大限を出す時が来たんだ」
まさか直接話があると思っていなかったリンは、ただその目を丸くしながら答えた。
「えっ、どういうことよ。今まで術を皆の前で使わないようにって言ってたけど、その意味も本当はよくわかってなかったんだけど」
「ま、そうだろう。でもな、既に動き始めたんだ。今日はそのことを伝えよう」
そして幼い姿の林松は次に綾子の方を見てこう言った。
「この世界の裏側には、実はもう一つの世界があるんだ」
それを聞いた全員は、ただ絶句した。
「は、えっ。どういうことですか」
壇下からも自然にそうした声が上がると、林松はゆっくりこう答えた。
「実は今。我々は日々こうして地上で当たり前のように生きているが、この地底に生存しているものがいるということを始めに伝えなければならないんだ」
その声に会場内がどっと湧いたが、林松は言葉強めにさらに続けた。
「俺は昔、心からこの大地と一体となりたいと願ったことがある。そしてやがて大地の守りという称号を得ることになったが、それはつまり同時にこの地底での守りを他に誰かが得たという瞬間だったんだ」
リンはこの時、それがあの時のことだったのかと思い知った。
どうして林松が変幻自在に姿を変えられるのだろうか。かつて父である香純へ質問したことがあるのを思い出した。
「ねえ、お父ちゃん。おいちゃんってさ、何ものなの」
すると香純は苦笑でそれに答えた。
「そうだな、大地の守り様・・・らしい」
「えっ、どういうこと」
「ま、そういうことだ」
大地の守り様とはこの地上にあるもの全てを守る存在であり、一方で地底の守り様も存在する。
「だから、俺がこうして就任したらあちらの世界でそうなったわけだ」
「要するに地上と地底でいうこと、ですね」
「そう。簡単に言えば、ここまで努力して得てきた能力。それはあちらでも既に得ている可能性がある。そしてやがてはこの地上へその力が到達する日もそう遠くはない・・・」
林松はそう言うと少し考えた後、声を渋りながら続けた。
「しかし今のところそれも単なる予測でしかなく、絶対にそうだとは言い切れない部分もあるんだ。そこでこの式典で皆が披露する力を見てどれくらい有効か、まずそこを見てみようかと思っているんだ」




