十周年記念式典 ⑥
皆の拍手が鳴り響く中、葉流は何も言わずにただ天井を見上げていた。するとそれに気づいたリンが隣で声をかけた。
「どうしたの」
葉流はその声に軽く頷いたものの、それでもじっと一点を見つめていた。リンはやや首を傾げた瞬間、天井が一度だけ強烈に光った。
「うわっ」
子どもたちも皆がそれに気づいて後方へ一歩のけぞったが、壇上の香純は微動だにせずこう呟いた。
「いよいよか、林松さん。こちらですよ」
小声でそう言うと、今度は香純たちがいる中央部に一点の光の柱が現れた。それは煌煌と光を放っており、さすがの香純も数歩たじろいだ。綾子はハンカチを手しながら既に壇上から降りたところ、再び強烈に光った後に現れたのはあの幼い姿だった。
「よっ、みんな元気だったかい」
舞台下にいる皆は腕や手で目を擦りながら、その声のする方へ目をやった。
「えっ、誰だ。いや、しかしこの話し方はもしかして・・・」
そうしていると大きな声が壇上に届いた。
「ほら、やっぱり。おいちゃんだよっ」
そうしてはしゃぐリンたちの声だけが場内へ響いた。
林松はそれに気づき、その場で手を降りながら隣にいる香純へ目配せした。すると香純は驚きもせず、黙って片手を差し出して互いに握手しようとした。しかし、当然のように感触は伝わらない中で林松は微笑みこう言った。
「香純、悪かったな。思った以上に時間がかかっちまった」
何となく察した香純は落ち着いてこう返した。
「そうですか、しかしそれよりも早く綾子さんに・・・」
林松はじっと頷くと静かに両手を合わせ、何やら口にし始めた。
「warutusanerugan、watugerun・・・」
すると舞台袖へと歩いていた綾子がふと姿を消し、次の瞬間は再び壇上へ現した。驚いた綾子は周囲をきょろきょろしていると、眼の前にはアルバムで見たことがある幼い頃の林松がそこにいた。
「もしかして・・・、あなた。あなたなの」
その見慣れているはずの横顔を見て、林松は一瞬だけ目を伏せて言った。
「綾子、苦労させちまったな」
その声を聞いた途端、綾子はその小さな胸元へ飛び込んだ。
「お、おいっ」
「ああ、あなた、あなたよね。会いたかったわ」
「綾子、どうして俺だとわかったんだ」
「わかるに決まってるじゃない、もう何年一緒にいると思ってるのよ」
「でも、この姿だぞ」
「もう、見た目じゃないの。一瞬でわかったわ、ありがと」
そうして林松の胸元へ飛び込んだものの見事にすり抜けてしまい、綾子は転ばないように何とか踏みとどまった。林松は抱き止めようとしたが、そうして通り抜けた姿を見て再び微笑みこう言った。
「ははっ、俺は今も病院にいるからな」




