十周年記念式典 ⑤
「えっ、違うでしょ。葉流の力は」
それまで二人を遠目で見ていたリンが、そう静かに口を開いた。
「へへっ、まあいいじゃん」
葉流は照れ笑いを浮かべ、リンへそう答えてこう続けた。
「でも、おかしいな。今度は指先は光らなかったわ」
そうして舞台をよく見てみると、手袋をはめた観衆の中の一人がいとも簡単に持ち上げているところだった。
「おい、術じゃねえじゃん」
真純がそう呟くとリンもまた
「うん、そうねえ」
と、続いた。
葉流は首を傾げたままでいると、やがて舞台ではその観客が拍手を浴びながら降りた。上空には今も車の列が並んでいる。
「お父ちゃんみたいに皆が術を使えたら、この渋滞なんか一瞬でなくなるよね」
リンが上を見上げてそう言うと真純もそれに続いた。
「ま、そうだけどさ」
三人がそうこうしている内に舞台では再び綾子がマイクを握っていた。
「皆さん、私には昨今起きている不思議な出来事を説明することが残念ながらできません。そのため今日は輝来香純さんに詳細を伝えていただこうと思います」
すると、会場内は熱気に包まれた。
「ええっと、皆さんの中にはご存知の方もいらっしゃるかもしれませんが、香純さんは特殊な能力を持つ人でして・・・」
この時もまだ綾子の話は続いていたが、周囲の人たちはとにかく早く出てくれと迫っていた。
「綾子さん、あの術を皆にも早く教えるように言ってくださいよ」
そうした声を聞きながら綾子はそこで話を一旦止め、舞台袖にいる香純へ手招きした。それを見て香純は堂々と舞台の中央へ歩み寄り、綾子と握手して皆へお辞儀してから話始めた。十周年の祝いの言葉の他、直近での林松のことなども交えた。そしてその後に本題へと移ろうとしている時、集会場の明かりが急に落ちた。周囲がざわめいている中、司会進行が落ち着いてこう伝えた。
「連絡です。ただいま原因不明の停電が起きています。どうかしばらくそのまま静かにお待ちください」
それから数分後に再び明かりが灯ったものの、再び同じように消灯した。
子ども達三人は黙ってその話を聞いていたが、この時に頭上から威勢の良い声が聞こえた。
「おい、子どもたち」
その声は聞き覚えがあり、子供たちは途端に上を見上げた。
「あっ、これ。おいちゃんだ。おいちゃんの声だっ」
「いいかい、お父ちゃんはまだ舞台の上だ。お前たちはそこへ行ってこう言うんだ」
その声を受け取った子ども達はそれから歩いて壇上へ上がった。香純は彼らの姿を見た途端に話を止めた。
「おい、今はまだ話しているところだぞ。さっさと舞台から降りなさい」
しかし、子どもたちは首を横に降ってこう続けた。
「やだ。だっておいちゃんが言ったんだもん」
香純は瞬時に目を点にしてこう続けた。
「なんだよ、おいちゃんって。まさか林松さんの意識が来たって言うのか」
それに三人は何も言わずに、ただこくりとだけ頷いた。すると香純は、ここぞとばかりに力が漲ってきて皆へ言った。
「皆さん、どうやら林松さんがお見えのようです。盛大な拍手でお迎えください」




