十周年記念式典 ④
「皆様、本日はようこそお越しくださいました」
綾子の後に続いて数分ほど歩くと、スピーカーからの大音量が聞こえてきた。陽気な音楽と共に会場にはすでに多くの人たちで溢れかえっていた。上空では交通整理が行われており、地上へは車一台づつ順番に降下しているところだった。その時に聞き慣れた声が後方から聞こえてきた。
「やっ、元気だったかい」
リンが振り返ると笑顔の親子三人がいた。
「あっ、こんにちは」
優と美穂、男の子一人がこちらを見て微笑んでいた。
「葉流」
リンも笑顔で手を振ると綾子や家族も足を止めた。綾子は三人を見るなり疲れたと言い、すぐ近くにある金属製の椅子へと腰掛けた。優は中年の温かい雰囲気を持ち、美穂も以前さながらの存在感が際立っていた。
「葉流も今日、出るんでしょ」
「もちろん、リンちゃんもでしょ」
「うん」
「真純兄ちゃんは」
「出るよ、あっ、そうだ。あれ、出来るようになったんだよ」
「すっげえなあ、今見せてよ」
「えっ、今は無理だよ。お父ちゃんもいるし」
「・・・、じゃあさ」
そうして葉流はリンへ耳打ちした。するとその後ろから
「へええ。で、リンちゃんをどこへ迎えに行くの」
その声に驚いてリン達が振り返ると、美穂が笑顔で覗き込むようにしてそう言った。
「美穂姉ちゃん」
聞かれてしまったと思いながらもリンがそう挨拶すると、美穂は笑顔で葉流の頭を右手で鷲掴みしながら答えた。
「リンちゃん、よく来たねえ」
「イテテテ。ちょっと母ちゃん、手、手をどけて」
そこへ真純もやってきた。
「姉ちゃん、こんにちは」
一方の香純達は優と何やら真剣な表情で話しているところだった。綾子は先に行くと言い、迎えに来た係の女性と中へ入って行った。
「じゃ、みんなまた後でね」
それからは郷大と梅川夫妻にも再会して互いに喜び、そして式がいよいよ始まった。すると少し前までそこにいた綾子が、いつの間にか和装姿で壇上へ上がり挨拶していた。
「皆様、本日は式典へお出でいただきまして誠にありがとうございます。主人に代わりまして心より感謝申し上げます」
その後も話は続いた。林松の病状は変わらずも日々、穏やかに過ごしていること。また昨今の技術の進化、それに子どもが持つ能力の開花に驚いていることなどを伝えた。リン達はそうして真剣に話している綾子の姿を、ただじっと静かに聞いていた。
「そこで本日はその素晴らしい能力を披露してもらおうと思います。皆様も一緒に楽しんでいきましょう」
その後に数人が挨拶を終えると、式執行部推薦というある人物の紹介が始まった。
「これは一見すると普通の手袋ですが、その力を見ればきっと驚くでしょう」
そうして一人の中年男性がそう言い、自らそれを両手にはめて皆へ広げてみせた。全体が黒くて指先が赤く染まっており、男性の隣にある幅二メートルの金属製のテーブルへ手をかけた。
「では、今からこれを片手で持ち上げてみましょう」
と言い、すぐ右手で端の方を掴んだ。すると次第にテーブルが次第に浮き始め、周囲は驚きと歓声を上げた。そして男性が右手を頭上へ掲げると、やがてそれは完全に宙に浮いた。リン達はそれを楽しそうに見ていたが、真純はどうも不自然だと思ってこう尋ねた。
「リン、あれは術を使っただろ」
「ううん、どうだろなあ。でも、なんかちょっと違う気がする」
「じゃ、あの手袋かな」
「そうねえ、どうだろ。わかんないな」
二人が小声でそう話ていると葉流も入ってきた。
「俺、知ってるよ。あれは術だよ」
「葉流、なんで知ってるんだ」
「あの指先をよく見ててごらん」
もう一度やってほしいという皆の要望を聞き、その男性は再びテーブルを持ち上げた。
「ほらね。今、一瞬だけ色が変わったでしょ。間違いないよ」
「本当だ。しっかしこの距離でよく見えるなあ」
「へへっ、それが俺の特技だもん」




