十周年記念式典 ③
そして迎えた式の当日、これから家族総出で式典が行われる村へ向かおうとしていた。香純は最近使えるようになった大人数での瞬間移動を試みているところだった。
「おっかしいなあ、これで足元が浮いてくるはずなんだけどな」
そう言いながら何度も術を繰り出そうと言葉を唱えている。そうした中で家族は香純の背にそれぞれ片手を載せて微笑んだ。
「お父ちゃん、あんまり無理しなくていいよ。なんならリンに一人づつ送ってもらえばいいわけだし」
真純がそう言うと急にその隣から声がした。
「お父ちゃん、お父ちゃん。ほらほら、もっと頑張ってよ」
と、次女が大きな声で額に血管を浮かばせそう言った。また、それに続けとトクやリンも互いの手を取って応援していたが、真純は何やらぶつくさ口にしていた。すると急に目の前が強烈に白く光り、やがてじわりと家族五人を包み込み始めた。
「うわ、何だ。リン、上手くいったか」
兄の尋ねにリンは強く首を一回強く振った次の瞬間、それまで見慣れた景色が一変した。明るすぎて何も見えないが、それでも互いの声は聞こえた。
「うわっ、眩しいな。おい。皆、大丈夫か」
直後に父の声が聞こえた後、いつしか聞いた女性のアナウンスがあった。
「お疲れ様でした、到着まであと十秒です」
その声に皆の驚きが漏れた後、リンは現在上空にいることが次第にわかってきた。そしてその視線を真下へやると、家々や大きな集会場に池などもあるのがやがて視界に入ってきた。これはきっとHAYASHIMURAだ。そう理解してこれから降下するのかと思っているとき、再びその声が聞こえた。
「お知らせします。ただいま大地の守り様から連絡があり、こちらではない場所をご提示されました。これから移動しますが、よろしいですか」
淡々と伝えている声だがどこか懐かしいような気もする。香純はそう思いながらも疲れた表情のままこう答えた。
「大地の守り様か。いいだろう、おっしゃる通りで」
「かしこまりました・・・。それでは」
直後に再び眩しくなったものの、ほんの一瞬だった。
「到着しました」
「どこだ。ああ、滝がある村の裏山辺りか」
まずは父がそうしてゆっくりと降り立った。そして、
「おい、リン」
と、小石や砂利の上に立った直後にそう声をかけてきた。
「ん、なあに」
「おまえ、林松さんの意識と最後に話したのはいつだ」
何を突然にと思いながらも、リンはじっと眉間にシワを寄せて数秒ほど後に答えた。
「そうねえ、私が小さい頃に警察署へ意識を飛ばした時、だったかな」
「十年前だな」
「うん、その頃だね」
「この間、夢を見たんだ。それでもしかしたらと思ったが・・・。本当だったんだな。おい、どうしてこれまで言わなかったんだ」
リンは対して構わないといった自然な表情でそれに答えた。
「だっておいちゃんがさ・・・。というか、おいちゃんの意識が術を家族以外に見せるなって言ったから・・・」
香純も次第に語気が強くなる。
「そうかい。ただ、俺はお前の父親だぞ。どうして今まで黙ってたんだ」
リンはそう聞いて、何だか申し訳ないと思いながらも続けた。
「ん、ううんとねえ。な、なんかその時はさ。もう余計なこと言わないほうが良いかなと思って」
「何が余計なんだ」
香純は齢をとったのか、娘の声がやや遠く感じ始めていた。すると、しびれを切らして
「ああ、もうめんどくさいな。だったら後はお母ちゃんに聞いてよ。ほら、リーシャ。行くよ」
と、リンはそこから一歩踏み出した。するとそれまであった白い幕は途端に消え、次第に近くの音が耳へ入ってきた。この声は確か前にも聞いたことがある。そう思ってふと顔を見上げると、そこには優しく微笑む一人の女性がいた。
「あ、綾子おばあちゃん」
二人は手をつなぎながらその懐を目掛けて走った。
追い着いてきた家族もやがて綾子と再会し、会場が変更となった理由も含めて話した。
「よく来たね。皆、随分大きくなったねえ」
綾子はいつもの屈託ない笑みを浮かべてそう言うと、香純やトクもそれに続いた。
「綾子さん、ところで林松さんは・・・」
「うん、今も病室よ。元気かどうかわからないけどね」
綾子が浮かない声でそう言った後、すぐにトクが尋ねた。
「えっ、どうして。どうしてわからないんですか」
「なんだかね。最近は手を握ってもあまり返ってこないし・・・」
そこで香純が急に声を強めてこう言った。
「綾子さん、きっと大丈夫ですよ。俺達はこれまで何度か林松さんの意識とやり取りしてますし。あとは体の回復を待ちましょう」
「そうねえ、でも私は皆のように特殊な能力はないからよくわからないけど」
「大丈夫ですって。林松さんはきっと綾子さんを悲しませるようなことはしませんよ」
すると、次女も綾子の右手を取ると、すぐに笑いながら前後に揺さぶってこう言った。
「おばちゃん大丈夫だよ。リーシャがずっと一緒にいる」
その時、綾子は空を見上げてじわりと微笑んだ。これはいつしか見た空に似ている。その時、確か隣にいたのは優だった。そう思いながら話を続けた。
「でもさ、どうして私の意識に問いかけてくれないんだろうね。何か理由があるのかもしれない。ま、この話はまた後にしましょっか。よっこらしょと。それじゃあ、式場へ行きましょっか」




