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真の聖戦戦争  作者: ガネスー
第一章 目覚め(続き)
8/11

幕間 ―黒羽部隊・作戦前夜―


―心を隠し、剣を握る少女―


夜、黒羽部隊の仮設拠点。

厚い鋼鉄で囲まれた作戦室の隅で、優奈は一人、無音の闇に沈んでいた。


机の上には、次の作戦資料。

「B級悪魔出現。捕獲不能と判断し、排除優先」

その文字が、淡々と紙に並んでいる。


(……まただ)


部屋の片隅にある小さな窓。

優奈はそこから、星ひとつ見えない黒い空を眺めた。


(私がレギオスの心臓を受け取ってから……何度目の任務だろう)


“共存”という言葉は、表では決して口にできなかった。


黒羽部隊は、「対話など無意味。悪魔は徹底排除すべき」と信じる精鋭で構成されている。

そして、彼らの多くは、悪魔によって大切な人を失った者たち。


(……もし彼らに知られたら。私が、悪魔の力を使っていることを)


彼女の心臓に宿る、あの優しい悪魔——レギオスの力。

それは、炎を浄化し、怒りや憎しみを静める“癒しの火”。


だが、そんな力を使うたびに、仲間たちは口を閉ざす。

明らかに異質なその魔法を、「見なかったこと」にする。


(私は、ただの道具なんだ。悪魔を殺すための……)


「……優奈」


静かに声をかけてきたのは、副隊長の冬馬とうまだった。

かつて妹をD級悪魔に殺され、冷徹な判断を下す男だ。


「明日の任務、準備はできているか?」


「……はい」


「今回の目標、“ルド・グライア”。

B級の中でも知性が高い。会話してくる可能性があるが、惑わされるな」


優奈は、無言でうなずく。


「お前が迷えば、他の隊員が死ぬ。

黒羽部隊は、“情を捨てた者たち”の集まりだ。忘れるな」


「……はい」


冬馬はそれ以上何も言わず、部屋を出て行った。


(“情を捨てた者たち”……か)


優奈は小さく笑った。


(だったら、私はこの部隊にいてはいけない)


胸元に手を当てる。

そこには今も、鼓動を刻むレギオスの力が宿っていた。


(あの日、彼は言った——“怒りを焼き尽くす炎を託す”と)


(でも今の私は、それを人を殺すために使ってる。……私は間違ってない?)


ふと、窓の外に影が動いた。

一瞬、黒い羽が揺れた気がした。


優奈は立ち上がり、小さな声で呟く。


「拓也……あなたなら、どうする?」


答えは、どこにもない。

だが、彼女の手はそっと、自分の胸を抱いた。


(私は、“悪魔の心”と一緒に生きてる。

それを隠して戦うのが、正しいことなの……?)



次の日の朝、作戦が始まる。

優奈はまた、冷たい仮面をつけ、黒羽の名を背負って戦場へ向かう。


だがその瞳には、もう一つの想いが宿っていた。


「……私は、いつかこの部隊を裏切るかもしれない」


誰にも聞こえない声が、風に消えた。







―作戦宵、暗き森の対話―


森は静まり返っていた。


黒羽部隊は、南西第3拠点に潜む“B級悪魔ルド・グライア”の掃討作戦を開始。

隊員たちは銃と魔導器を手に、森の中を徐々に包囲していく。


その中で、優奈は“単独行動”を命じられていた。

——それは彼女が信頼されている証でもあり、同時に「一人で片をつけろ」という無言の圧力でもあった。


「……気配が、違う」


森の奥、かすかに煙の匂いがする。


歩を進めると、そこにいたのは、一本角の悪魔。

痩せた体躯、鋭い目。だがその背中は、どこか疲れていた。


「おまえが、“黒羽の魔導剣士”か。噂よりも、静かな目をしているな」


「……あなたが、ルド・グライア?」


「そうだ。そして、おまえのことも知っている。“心臓を食らい、力を得た少女”」


優奈の瞳がわずかに揺れた。


「……何を言っているの?」


「しらを切るのか。構わない。

ただ、私は話しに来ただけだ。——戦いに来たのは、君たちだろう?」


優奈は剣を構えながらも、すぐには動けなかった。


ルドは、敵意を見せなかった。

その代わりに、静かに言葉を重ねていく。


「私の親友は、君に“心臓”を与えた。

レギオスという名の悪魔だ。……彼がどんな想いで君にそれを託したか、君は本当に知っているか?」


「……! なんで、その名前を……!」


「彼は、最後まで人間を信じていた。

君のような者がいると信じて、“自らの命”を贈ったのだ。

なのに——今の君は、何のために剣を振るっている?」


優奈の手が震える。


「私は……私には……それしか、方法がなかったから……!」


「なら、今ここで私を殺せばいい。

私は戦う意思はない。けれど、“優奈”という人間が、この剣で私を殺すのなら——」


ルドは腕を広げた。

自分の胸元を無防備にさらす。


「……その時、レギオスの魂は泣くだろう。

だが、それもまた、君の“選択”だ」


優奈は叫びそうなほど、胸が痛かった。

目の奥に、あの日のレギオスが浮かぶ。


——君は、怒りで誰かを殺すために、この力を使ってほしくない。

——“癒しの火”で、未来を灯してくれ。


「……私は……っ」


震える手を、剣から離した。


ルドの目が、優しく細まる。


「……それでいい。君が、まだ“誰かの言葉”に耳を傾ける人間で良かった」


「私は、ただ……間違っていたのかもしれない……!」


「間違いではない。ただ、“選ばされた”のだろう。

そして今、君は自分で“選ぼう”としている。それが大事だ」


その時、通信機から割り込む声。


『優奈、応答しろ! 接触したか?』


優奈は少しだけ目を伏せ、深く息を吐いた。


「……いない。接触は確認できなかった。……周囲に痕跡だけあったと報告する」


『了解。付近を捜索しろ』


通信が切れ、ルドが微笑んだ。


「君の中に、レギオスは生きている。……その火を絶やすな、優奈」


そしてルドは、音もなく闇に溶けるように姿を消した。


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