第三章 ―刃の狭間に立つ者たち―
―追手・黒羽部隊、接近―
廃墟の町を離れて一晩、森の中で野営をしていた拓也とエリシア。
風に葉がざわめく静かな夜。だが、空気がどこか張りつめていた。
「……来るな、これは」
拓也がそっと腰の短剣に手をやる。
エリシアの瞳が光を帯び、視界の“未来”が脳裏に流れる。
「人数は……五人。でも、そのうち一人は“悪魔の心臓を持ってる”」
「……優奈の部隊か」
拓也の声が低くなる。
そして——
「見つけたぞ、“共存派の裏切り者”」
森の奥から声が響く。
木々を割って現れたのは、黒羽部隊・第三小隊。
漆黒の軍装に身を包み、魔導銃と刃を携えた精鋭たちだ。
先頭に立つのは、鋭い目をした女兵士。
「元・戦闘班長、拓也。貴様を拘束する。抵抗するなら殺す」
「相変わらず物騒だな……“クロエ”。優奈の犬になったか?」
「お前が妹の名を口にするな。あの子は、国のために命を懸けて戦ってる」
クロエが指を上げると、背後の兵士が動き出す。
その中のひとりの男が、左手から雷の魔力を走らせた。
「“D級雷魔”の心臓を移植した……本部直轄の強化兵だ」
拓也はすぐに前に出て、エリシアを背にかばう。
「エリシア、頼む……“少しだけ時間を止めてくれ”」
「うん。——“刻の鎖”」
エリシアのスキルが発動し、雷を帯びた兵士の動きが一瞬だけ遅れる。
その隙を拓也は逃さない。接近して一気に組み伏せ、気絶させる。
「……殺さないのか?」クロエが問う。
「俺は“敵”を殺す気はない。ただ……信じてくれる奴がほしいだけだ」
その言葉にクロエの表情が揺れるが、すぐに鋭く言い返す。
「甘すぎる。それで守れる命なんて、ない」
「なら、お前のやり方で守れたのかよ……優奈を、悪魔の心臓で戦わせることが?」
一瞬、クロエの動きが止まった。
が、すぐに後方へ指示を出す。
「……撤退する。“あの方”の命令だ。まだ、ここで潰すな、と」
そう言い残し、黒羽部隊は闇に紛れて消えていく。
残された拓也とエリシア。
「やっぱり……優奈は私たちを“完全に敵とは思っていない”んだよ」
「……そうだな。あいつは、いつも本気で人のためを思ってた」
拓也は夜空を見上げる。
「だがこのままだと、いずれ俺たちは戦うことになる。避けられねぇよ、たぶん」
その背に、エリシアは小さく呟いた。
「……その未来、私の力で変えられるなら……」
彼女の瞳に、再び青白い光が灯った。