第三章 旅のはじまり
「ねぇ拓也。人間って、なんであんなにすぐ“決めつける”の?」
夕焼けに染まる荒野を歩きながら、エリシアが問いかけた。
その声は風に混じって、少しだけ寂しげに響く。
「……恐怖だよ。理解できないものを、敵って決めれば安心する」
拓也は歩みを止めず、視線だけをエリシアに向けた。
「それは悪魔も同じか?」
エリシアはふっと笑った。
「違う。悪魔は“人間に裏切られる”ことを、恐れてる」
そして、ふたりの旅は続く。
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―遭遇:E級悪魔群―
北の廃村。
放棄された集落に、E級悪魔が群れをなしていた。
「ギシャアアアッ!!」
唸り声と共に、牙をむき出した黒い獣が地を駆ける。
「数は10体。こっちは2人か……エリシア、援護頼む」
「了解。……“時の檻”」
エリシアが指を鳴らすと、3体の悪魔が突如、空中で静止した。
まるで時間が止まったように。
「おいおい、便利すぎるだろ、そのスキル……!」
拓也は短剣を構え、残る7体に向かって一気に駆け込む。
鋭い動きで首筋を断ち、背を取って心臓を貫く。
「……B級と違って、E級は“ただの獣”だな」
「でも、放っておけば人間の村が襲われる。だから……やるしかないんだよね」
ふたりは、黙って残りの悪魔を片付けた。
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―廃墟の町とC級の叫び―
翌日、ふたりは廃墟と化した町に入る。
そこには、知能を持ち、言葉を話すC級悪魔がひとり、倒れていた。
「にん……げん……殺さない、で……くれ……」
エリシアが駆け寄り、悪魔の手を握った。
「……大丈夫、私は敵じゃない。名前は?」
「……オルグ。もと、は……村、の……まもりて……でも……仲間、ぜんぶ、ころされた……」
エリシアはそっと彼の目を閉じた。
彼は、かつて村を守っていた悪魔——人間に裏切られた者だった。
拓也は黙って、空を見上げた。
「共存なんて、やっぱり幻想かもな」
「それでも私は……あきらめない。だって、オルグみたいな悪魔が……まだ、生きてるかもしれないから」
ふたりの旅は、少しずつ、「戦うため」から「知るため」へと変わり始めていた。