第二章 罪と祈り(終幕)
―優奈の過去と「悪魔の願い」―
月明かりが差し込む静かな一室。
そこは、同盟軍本部・黒羽司令室。
白を基調とした冷たい空間の中央で、優奈はひとり机に向かっていた。
彼女の手には、あるペンダントが握られている。
中には、小さな魔石が埋め込まれていた。
そしてその魔石は、かすかに青く、今も淡く光っていた。
優奈は静かに目を閉じる——
⸻
あれは、5年前のこと。
優奈は同盟軍の訓練所で、命令通りに“悪魔の残党掃討”任務に就いていた。
その中で、ひとりの異質な悪魔に出会った。
彼は戦わなかった。
武器も持たず、逃げもせず、ただ傷ついた体でこう言ったのだ。
「人間の少女よ……私の“心臓”を捧げよう。
どうか……仲間たちを……我らを……止めてくれ……」
優奈は目を見開いた。
「なぜ……?あなたは、悪魔なのに……!」
「——だからこそ、止めねばならぬ。
人の怒りと、悪魔の怨念がぶつかれば、いずれ世界は破滅する。
君の中には、“優しき力”があると、誰かに聞いた……」
彼は、彼女の手を取り、微笑んだ。
その笑顔は、兄・拓也が守ってくれたあの日の悪魔に、どこか似ていた。
「私は敵ではない。ただ、“終わらせたい”だけだ」
その言葉と共に、悪魔は静かに自らの胸に手を入れ、
——その心臓を、優奈の胸へと捧げた。
⸻
優奈の中には、今もその悪魔の記憶が眠っている。
怒り、哀しみ、愛……そして、「希望」。
だが彼女はそれを、誰にも話していない。
たとえ兄にさえも。
なぜなら——
「……兄さんはきっと、“私が悪魔の力で戦っている”と知ったら、止めようとする。
でも私は……止まれない。
“あの人”の願いを、叶えなければいけないの……」
優奈はゆっくりと立ち上がる。
「たとえ……兄さんと敵になるとしても。
私は、この世界を……もう、誰も喪わせない」
風が静かにペンダントを揺らし、魔石が淡く光った。
それは、**人間と悪魔が本当に「共に願った祈り」**の光だった。
——だが、それが兄・拓也に伝わる日は、まだ遠い。
彼らが再会し、想いを交わすとき——
それは、戦場の只中になるかもしれない。