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真の聖戦戦争  作者: ガネスー
第一章 目覚め(続き)
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第一章 目覚め

夢を見ていた…

暗黒の大地とでもいえばいいのだろうか?

空は黒い雲で覆われ、草や木が生えることない大地。

ひたすら目的もなく風景も変わらない場所を歩いていた。


「…………」


風の音すら聞こえない無音の世界。そこを歩いていた。


「…いっ…に…」


隣に小さな少女と一緒に歩いていた。


「拓也…ずっと……ね」


少女は微笑んでいた。

色白の肌に青色の髪と青い瞳を持つ少女、その少女を優しく抱しめ頭を撫でていた…

少女は頬を赤らめながらそっと目を瞑った。


「いつかきっと……」







「——拓也!!」


鋭い叫びとともに、男は目を覚ました。


冷たい汗が額を伝い、胸が苦しいほど早く打ち続けている。

息を整えようと深く呼吸するが、喉の奥が焼けつくように熱い。

見慣れた天井。硬い寝台。簡素な部屋。

ここは、“第六隔離区”の仮設宿舎——同盟軍の施設内だ。


「……夢、か……」


拓也は静かに起き上がった。

あの夢は、何度も見る。

名も知らぬ少女と、無音の黒い世界を歩く夢。

肌の冷たさ、髪の柔らかさ、瞳の青。

すべてが鮮明なのに、目が覚めるたびに少しずつ薄れていく。


——ただ一つ、忘れられないのは彼女の声だ。


『拓也……ずっと一緒に……』


なぜそんな夢を見るのかは分からない。

だが、その夢の中だけは、不思議な安らぎがあった。







部屋を出ると、そこは異常なまでの緊張感に満ちていた。

警報は鳴っていない。だが兵士たちの足音がいつもより速い。

誰も口にしないが、“何か”が起きている。


「拓也、いたか!」


声をかけてきたのは、同盟軍の戦闘中隊長、北村圭吾。

四十代後半の軍人だが、拓也には一目置いている数少ない上官だった。


「さっき、南端の監視塔で異常魔力反応が検知された。数値から見て、A級悪魔と断定された。急行しろ」


「了解しました」


A級——つまり、殲滅対象。

だが、拓也はもう知っている。


「A級」と呼ばれる存在の中にも、“人間に手を出さない悪魔”がいることを。


(また、か……)


命令に従いながらも、拓也の胸の奥には、葛藤が渦巻いていた。

彼は、知ってしまったのだ。

悪魔たちは、すべてが“敵”ではないという事実を。


そして——


あの夢の中の少女も、もしかすると、“悪魔”なのかもしれないという可能性を。






「——目標地点、南端監視塔区域に到達」


拓也はヘッドセット越しに通信を入れ、慎重に周囲を確認した。

焼け焦げた地面、倒れた監視塔、溶けかけた鉄材。

ここに何かが“降りた”のは間違いない。


彼の後ろには、共に任務にあたる仲間たちが控えている。

全員、「灰翼グレイフェザー」と呼ばれる秘密部隊の一員。

同盟軍に所属しているように見えるが、その実態は——


悪魔との共存を探る、非公式組織だった。


「……熱反応、奥の廃倉庫。1体、確認」


拓也の右腕に埋め込まれた感知装置が、脈動する魔力を感知する。

だがその魔力は、先程の報告ほど“殺気”を感じさせない。


(この反応は……戦う意思がない?)


拓也は手を上げ、部隊に合図を送った。


「突入は待て。俺が単独で接触する」


「は?危険だろ。好戦的な悪魔だったら——」


「もしそうなら、その時は俺が止める」


それが拓也のやり方だった。

何度も、自分の判断で“対話可能な悪魔”を保護してきた。

そしてそのたびに、組織内外から批判も受けてきた。


だが——それでも、彼は信じている。


「……俺たちは、戦うために生まれたわけじゃない。共に生きる道を探すために、ここにいるんだろ?」


そう呟き、彼は廃倉庫の扉を静かに開けた。



そこにいたのは、傷ついた一人の少女だった。

白い肌、青い髪、青い瞳——


(まさか……!)


彼の脳裏に、夢の中の光景がよぎる。


「……誰?」


少女は怯えたように身体を縮こませている。

その体には、戦闘の痕が残っていた。

だが、その瞳には敵意はなかった。ただ、ひたすらに——


「……助けて……」


その声に、拓也は確信した。


彼女は、夢の中の少女だ。

この現実に存在する、“悪魔”の少女——

そして、この戦いの“真実”に繋がる鍵を持つ存在。


拓也の物語は、今、静かに動き出した。







少女は、無言で拓也の顔を見上げていた。

その表情は、何かを訴えかけるようで——悲しみに満ちていた。


「大丈夫だ。俺たちは……お前を殺しには来ていない」


拓也がそう語りかけると、少女の体から青い光がふわりと浮かんだ。

それは魔力の波。

だが攻撃でも威嚇でもなく、まるで“言葉”のように、感情を伝えてくる。


(……共存を……求めている?)


少女の魔力に共鳴するように、拓也の心の奥で何かが震えた。


だがその瞬間——


ドンッ!!


爆音と共に廃倉庫の一部が爆ぜた。

外部からの砲撃。それは、同盟の精鋭部隊による強襲だった。


「くそっ……なんでこんなタイミングで……!」


煙の中から、黒い戦闘服をまとった男が姿を現した。

その胸には、同盟軍上層部直属部隊“黒羽ブラックウィング”の紋章が刻まれている。


「対象確認。A級悪魔1体、速やかに排除。心臓の損傷は避けろ」


(……心臓?)


拓也は耳を疑った。


その言葉は、まるで「殺したあと心臓を“使う”」ことを前提としているかのようだった。


「待て、彼女は——!」


拓也が叫ぶ間もなく、黒羽の隊員たちは容赦なく攻撃を開始した。



少女を守りながら、拓也は必死に戦った。

だが心のどこかに、疑問が残り続ける。


——なぜ、心臓にこだわる?

——なぜ、彼女が非戦闘意思を示しているのに、排除を優先する?


その夜。

共存組織“灰翼”の隠れ家に少女を連れ帰った拓也は、ひとり資料室にいた。


そして、そこで見つけてしまう。


封印された文書——

【「悪魔心臓適応実験報告書 No.17」】

その中には、こう記されていた。


“悪魔の心臓を摂取した第13被験者、対象魔法:火炎、適応成功。人間への魔力移植が可能であることを確認。”


(……どういうことだ?)


彼の手は震えた。

自分たちの上に立つ者たちが、

共存ではなく、“悪魔の力の収奪”を目的としていたのだとしたら——


そして、少女。

彼女はその“力の源”として狙われた存在なのかもしれない。


拓也は、今まで信じてきた世界が静かに崩れはじめていることを、初めて実感していた。







隠れ家の地下にある医療室。

少女は毛布にくるまれて、静かにベッドに座っていた。


その青い瞳は、かすかに光を湛え、拓也の姿をじっと見つめている。

彼はそっと椅子を引き、彼女の前に座った。


「……君の名前を、教えてくれないか?」


少女は、しばらく沈黙していた。

だがその瞳に、ふっと影が走ったあと、柔らかく唇を開いた。


「……名前は、“エリシア”。」


「エリシア……」


「……私は、“最古の悪魔の血族”……この世界がまだ、均衡と混沌に満ちていた時代から生きている……」


拓也は言葉を失った。


「最古の……?」


「ええ……あなたたち人間が“悪魔”と呼ぶ存在の中で、最も古く、最も危険とされた者たち……

人間界では“厄災級”と呼ばれている存在。あなたたちはそれを“A級”と定義しているけれど……」


エリシアは、かすかに首を振った。


「——実際には、その上がある。“S級”。」


拓也の呼吸が止まった。


「それが……君なんだな」


「……私は、時間を司るスキルを持っている。

止める、戻す、進める。完全ではないけれど……」


彼女が手を上げると、空気がきらめいた。

一瞬、部屋の時計が“巻き戻った”ように秒針が逆転し、また元に戻る。


「君の力は……そんなに危険なのか?」


エリシアは小さく笑った。


「私自身は、誰かを傷つけたいと思ったことはないわ。でも、力を欲しがる者は違う……

同盟の上層部は私の存在を知っていて、私を“心臓”ごと回収しようとしている」


拓也は拳を握りしめた。


「そんな……それが目的だったのか……!」


「……あなたは、私を……“悪魔”として裁く?」


その問いに、拓也は迷いなく答えた。


「いや……君は俺を助けた。君が“悪魔”かどうかじゃない。君が“誰”であるか、それだけだ」


少女の瞳が揺れた。

そして、まるで夢の中で見たときのように、そっと微笑んだ。


「……あなたの中に、“あの時の記憶”が少しだけ残ってるのかもしれないわね」


「……え?」


「また話すわ、いつか。

でも今は……時間がないの。近くに、また“黒羽”の追跡部隊が来ている。気配で分かるの」


拓也は立ち上がり、背後の壁にかけられた剣を取った。


「——なら、もう一度、君を守る。何度でも」


エリシアは目を細め、小さく頷いた。


そして、ふたりの逃避行と戦い、

——世界の“真実”を暴く旅が始まろうとしていた。


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