プロローグ
六年前——世界は、一斉に“目を覚ました”。
それは、ただの自然災害ではなかった。
南米のアンデス、アジアのヒマラヤ、アフリカのキリマンジャロ、ヨーロッパのアルプス、そして日本の富士山。
世界中に点在する山々が、まるで何かに呼応するかのように同時に噴火したのだ。
大地は裂け、空は赤く染まり、火山灰が太陽を覆った。
そして——灰の中から現れたのは、“悪魔”と呼ばれる異形の存在だった。
彼らは人とは異なる姿をしていた。
黒く光る角、燃えるような瞳、宙に浮かぶ者、触れずに物を動かす者。
その力は人智を超えており、どこから来たのかも、何を目的としているのかも、誰にも分からなかった。
人々は恐れた。
恐怖は憎しみに変わり、世界各国は協議を重ね、ついにある決断を下した。
——「同盟」結成。
それは、“悪魔の完全排除”を目的とした、世界最強の軍事組織だった。
容赦なき討伐、焼かれる村、泣き叫ぶ子ども。
どれほどの「悪魔」が消されようとも、彼らが人類に牙をむいた記録は一つとして存在しなかった。
やがて、少しずつ広まっていく一つの問い。
「……本当に、悪魔は“悪”なのか?」
事実、悪魔たちは攻撃を仕掛けることはなかった。むしろ、人の言葉を学び、文化を受け入れようとすらしていた。
共に生きる道を探す者たち——少数派の人間が、彼らの真意に気づき始める。
だがその選択は、同時に国家からの「裏切り」として扱われた。
そして今、人類の敵はただ一つの“種族”ではない。
悪魔と手を取り合った者と、恐れと憎しみの名の下に戦う者。
人類は、分断された——“共存”と“排除”という名の戦争へと。
これは、「悪」と「正義」の境界が崩れる世界で、
選ばれた者たちが運命を変えてゆく物語——。