近況
この頃、国の外へ出てちょっとした散歩をするだけでも、怪物に襲われそうになる事が多々あった。俺が小さかった頃は、母親とよくピクニックに行っていたものだ。そんな思い出の地に、怪物が増えている。
「神官たちも冒険者も皆、手を焼いてるんだって」
「そうか……最近は物騒だな」
「特に僕みたいな、戦うのが苦手な商人なんかに影響があるんだよねぇ……困ったなぁ」
「大丈夫だ、俺はいつかその怪物どもを全員ぶっ倒してやる」
「ほんと?さすがニクス君!」
ジョリーと暫く談話していたが、そんな時間も長くは続かない。
「おい、ニクス、お喋りもこの辺にするぞ。いい加減にせんと、そのお友達の仕事が進まんでぇ」
「あ、そうか……分かった」
「んでも、こっから荷物持って歩くのも……相当疲れるやろなぁ」
「丁度、リンカ国から追加の馬車が到着するみたいです」
商人の小隊に紛れていた、神官の女性が言う。
「お?そりゃえらい用意周到やなぁ」
「はい、馬車が襲われた時点ですでに、ヨナス様の方には魔法で連絡いたしましたので」
「……そんな力があるのか、貴女」
まるで灯台のような形をした杖を持つ、神官の女性。ヨナス様と魔法でのやり取りができる者は、そうそういない。
「名前は?何て言うんだ?」
「マルーシャ……マルーシャ・フェイムと申します」
「おぉ、君だったのかマルーシャ!久しぶりだな!」
真っ先に反応したルカは、俺より早くマルーシャに近づいた。
「あら、ルカじゃないの、元気してた?」
「うむ!私はいつも元気だからな!」
「そう……そういえば、ルカが同行してる人って――」
「ヨナス様から命じられた、かの冒険者だ!」
「そうだったんだ……じゃあ、貴方がニクス様ね?」
二人の会話をぼけっと聞いていたが、急に話を振られては困るしかなく、
「えっ、俺?」
「そうよ、そんな素敵な名前は他にいないでしょう?」
素っ頓狂な声を出してしまった。
「な、何故知ってるんだ?」
「ルカが誰かと冒険に出るって聞いてて、そのついでに相手の名前まで教えて貰いましたので……」
「ほ~う、これがハーレムって奴やな?ん?」
「……ま、まぁ知ってるからって別にないけど……」
どう会話を弾ませるか悩んでいた時、助け船が丁度到着したらしい。マルーシャが不意によそ見し、その先には新しい馬車が見えた。
「皆さん、丁度応援が来たみたいですよ」
「よ、良かったぁ~!」
「ほんとに助かったんだな?俺たち!」
「もう肉すら食べられないかと思ったぜ!」
「……ふむ、全員無事なようだな」
見覚えのある赤い神官が、馬車を商人たちに引き渡す。仕事があるから、と、そそくさとその場を移動しようとした彼らを、赤い神官は呼び止めた。
「この先、間違いなく怪物の数は増える。どうせ暇だろう、お前ら。旅行ついでに同行しろ」
俺と砌、ルカを指さし、半ば強引に”ゲイトニア”へ行くこととなった。
「いや~ひっさしぶりやな!俺の故郷!」
「は?お前、リンカ国出身じゃなかったのか?」
「んぁ?あぁそういや言ってなかったな。俺とあの赤神官はゲイトニアの出身やで」
「あいつもそうなのか」
「せや、何なら俺とアイツは昔からの馴染みや」
「……それにしては、そんなに仲よさそうには見えないけどな」
「はっはっは、昔の俺はちょいとワルやったからのう」
「む、何をやったんだ!白状しろ!」
「ま、待て待て!流石に時効や時効!」
そんな会話を交わしながら、何事もなくゲイトニアに着いた。簡単な入国審査を済まし、中に入る。煌びやかな建物と、全くといっていいほど存在しない自然。まさに”娯楽の国”である。初めて見た光景、俺は少し興奮していた。
「こ、こんな街見たことないな……」
「同感だ!全てが目新しいぞ!」
「いつ見ても変わらんなぁ~ここは」
「でも、なんだか懐かしい気がしますね……」
聞き馴染んだ声の直後、新しく聞いたばかりの声がした。マルーシャだった。
「私もゲイトニアに観光へ行きたかったので……ついでに乗せて貰っていただけです」
どうやら彼女も、俺たちと一緒に観光するみたいだ。