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駆け出した戦闘

※補足…神官は、冒険者のように雇う事ができる。冒険者より非力な場合が多い(例外有)が、雇う額が安く済む。

「くそっ、この辺りは安全じゃなかったのか?!」

「おい!囲まれてるぞ!」

「こ、こっちくんな!」


 惨たらしく惨殺された馬と、惨めなほどに破壊された馬車を、およそ六体の魔物が囲む。文字通りの鬼のようなその魔物は、今日の晩餐の事を考えながらじりじり近づいてるようだった。怯え切った数人の商人と、それを守ろうとする神官たちの姿が見えた。


 真っ先に啖呵を切ったのは、砌だった。


「おぅい!こっち見ぃや!」


 自慢の刀を床に叩きつける動作をし、魔物はこちらへ気づく。面白い奴が来たな、とでも言いたげな顔でこちらへ近づいてくる。もう神官と商人には目もくれない。


「ニクス、来るぞ!構えろ!」

「指図すんな……俺一人でやれるってんだ!」


 すでに魔物とやり合ってる砌に続いて、俺も砌を横から狙う魔物に斬りかかる。この魔物どもは、俺が数日前相手した魔物、鬼と呼ぶことにするが、それと同じだ。声は聞いたことがないが、他の鬼と意思疎通を取っている所は度々見かける。そしてこいつらの問題点は、壁の周りに居を構えていることだ。


 先ほどの馬車も、あれはリンカ国ともう一つの国、”ゲイトニア”との貿易馬車だ。あの国は唯一、ヨナス様の手が届く距離にあった。だから保護することができたのだ。ゲイトニアでは、互いの国民に娯楽を提供することが基本的な存在意義となっていて、代わりにこちらは防衛能力と食料の提供が交換条件となっている。俺の国では、ヨナス様の魔法によって飢える心配がない為、娯楽は非常に貴重な存在だ。俺自身はそれが一体何なのかは知らないが、歴史ではそう言われている。


 そして、そんな国との貿易路が鬼によって邪魔されるのは、つまり関わりが絶たれる事に他ならない。この道は唯一、鬼の少なくて比較的安全な道となっている。ここを失う訳にはいかない。


「くたばりやがれってんだ!」


 剣を振るい、鬼はそれを丸太で弾く、続けて振るい、弾く。鬼は頭上から丸太を振り下ろし、それを躱して懐に入り込んだ。ダガーを抜き、俺は体当たりで吹き飛ばされた。


「ニクス殿!!」


 足を上げた鬼の顔目掛けて、ルカの光線が飛ぶ。怯んだ鬼の隙を逃すことなく、かろうじて手放さなかったダガーで左胸を抉った。


「ははっ、三人居ってよかったやないか!」

「……っち」


 鬼の首を撥ねた砌は、俺を見て笑った。俺は何か言い返したかった。でも鬼がまだ残っている。


「次はええとこ見せてくれや!」


 複数の鬼を纏めて相手する砌は、どこか楽しそうだった。あれがスキルを持つ者の景色なのか?それでも俺は負けじと、次なる鬼を狙った。振るってきた鉄棒を躱し、躱し、躱し、躱す事しか出来ない。素早く繰り出される攻撃に、それだけが精一杯だった。後ろに強く飛びのき、俺は手を真っすぐかざす。



「人体には、みんな一定量の”力”があるんだ」


 ヨナス様はニコニコ笑顔で語りかける。僕たちは皆、ぽかんとしてみていた。


「何言ってるか分からないでしょ?だって、何も知らないと気づくことはできないからね」


 両手を開き、何も持っていないのを見せる。その手を握り締め、開いた窓に手を向ける。いつかの記憶で見た物と同じ、光の矢が放たれる。


「一度使った魔法は、身体が馴染むんだ。枝も羽もなくたって、身体が出し方を覚えて、材料の代わりに”力”を使って放つんだ。ほら、お外に向けてやってごらん?」


 皆、掌を窓に向けた。僕も向けてみた。



「くたばれってんだ!」


 身体が仰け反る程強い勢いで、魔法の矢が放たれた。着弾した矢は鬼の頭を大きく削り、図体が俺の前までずりずり滑る。


「おお、やるやんけぇ兄ちゃん!」


 鬼を両方とも始末した砌は、今度はご満悦そうな顔をしていた。それに対しても何か言い返したかった。でも、まだ鬼が居る。こいつを殺したら絶対、何か言い返してやる。



「本ッ当~に助かりました!」

「あんな奴らに囲まれて、もうダメかと思ったぜ!」

「命の恩人だ~!」

「はっはは、褒めても何も出ぇへんで~?」


 一番派手に始末していた砌が、馬車の人たちから一番感謝されている。なんとも言えない気持ちで満たされたが、ルカは俺の様子に気付いたのか、声をかけてくれた。


「ニクス殿もよく頑張っておったぞ!私は見ていたぞ!」

「……そうかよ」

「あーっ、ニクス!ニクスー!」


 懐かしい声が俺を呼ぶ。馬車に乗っていた一人であり、俺の唯一の友達だった。


「ジョリー!お前も乗ってたのか!」

「そうだよー!もうダメかと思ったよ……」

「なぁに、俺は冒険者なんだからあんな奴ら、へでもねぇ!」

「うわーん!ありがとー!」


 学園時代に、一人で居た俺の元にやってきた奴だった。あまり積極的ではなく、一緒のクラスに居たというのに俺は気づかなかった。一緒に魔法の練習をする相手を探してたらしく、一人で居た俺に目星を点けたらしい。魔法もそこそこ得意だった俺は、彼に付きっ切りで教えてあげた。どんどん成長する彼を見て、俺も俺の存在理由が見いだせた気がした。卒業してからというもの、連絡すら取っていなかったが、こんな所でばったり会うとは思いもしなかった。


「ニクスもすっごい強くなったんだねぇ……僕とは大違いだ」

「お前だって、見た感じ成功してるんだろ?」

「あ、分かっちゃった?実はゲイトニアとの貿易で結構儲けちゃって、それでね~……」

「ははは……ま、元気そうで良かったよ」

「ニクスもね。あ、そういえば……こんな噂知ってる?」

「噂?」


「最近、魔物の数が異常に増えてるんだって」

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