駆け出しの苦難
国の外、壁の裏側。程々に人が少なくて、誰かと喧嘩するにはうってつけの場所。怪物もあまり来なくて、平和で危険な場所。そこに男が2人と、女が1人やってきた。刀を持った男は、そこそこに興奮した面持ちでもう一人の男を見る。見られている男は、静かで一触即発な雰囲気を醸し出す。残った女は、そんな二人を凛々しい目つきで見ていた。
「ニクス」
刀を持った男は、自信満々のニヤケ顔をもう1人に向ける。
「スキルを持たない奴がどうなるか、知っとるか?」
「急になんだよ」
「……俺はな、去年もお前みたいにスキルを拒んだ奴を見たんや。だけどな、そいつは自分のありもしない力に見蕩れて調子に乗っとったんや。鍛錬もせず、ダイヤの原石で作った指輪なんかを誇りにしとった」
「……それで?」
「結局、1人で怪物に挑んで死んどった」
「それを俺に教えてどうなる?」
「別にどうにもならん。でもな、兄ちゃんは違うと思っとるんや。しっかりと、1人でも鍛錬を繰り返してる。スキルがなくても大成する。そんな気がすんねん」
「……そうかよ」
剣を握りしめ、ゆっくり引き抜く。俺の手には怒りだけが篭っていた。
「でもな……俺はそんな簡単にやられねぇ。昨日は偶然負けただけだ」
「皆、そう言うもんや」
「……鍛錬してくれるってんなら、さっさと始めるぞ!」
鋒を男の顔に向け、素早く突進する。あっさりと刀で弾かれ、峰打ちで頬を叩かれる。
「おう、何時でもええで?」
「っぐ、お前ッ……」
上から、横から、下から剣を振る。全て空振りするか、弾かれて終わる。辛うじてかすめることが出来そうでも、結局は”見切り”されて終わる。俺は、学園で体を鍛えていたから、身のこなしには自信があった。でも実際には、どうやら大したことも無かったようだ。相手は俺以上に素早く、そして最小限の動きで避けていた。
上には上がいると、身をもって実感した。
「はぁ、はぁ……っく」
「ニクス殿、そろそろ休むのはどうだろうか?」
「ま、まだやれる……1発も当てられずに終わるか……」
「いんや、嬢ちゃんの言うどおりや、ニクス。そのまま続けとっても無駄や」
「うるっせえ!」
大きく振りかぶった剣。下ろす暇なく、鳩尾を強くどつかれた。
「兄ちゃんに足りないのはな、まず冷静さやな」
「私もそう思うぞ!」
「ふん……」
「スキルの力は人智を超えた能力だからな!あれを超えるには、相当の精神が必要だ!」
「せやなぁ。肉体だけが鍛えられても、全く足りんからの」
「………」
俺が今までやってきた事は無意味なのだろうか。だんだんとそんな気持ちが芽生えてきてしまった。
そんな時だった。俺たちの居る場所から少し離れた地点、怪物が何かを囲んでるのが見えた。その囲まれた場所からは、黒い煙が上がっている。
「おっと、鍛錬がどうのこうの言っとる場合やないな」
「……クソッ、俺が行く……」
「いいや、三人で行くぞ、ニクス殿!」