表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/10

駆出しと特訓

 次の日の朝、いつも通りだが少し遅めの目覚めから戻り、朝食を作って母親と一緒に食べた。今日こそは何もない朝だったが、気分はそわそわしていた。


「ニクス、どうしたの?」

「……なんでもない」


 昨日の約束通り、俺は今日の昼から”特訓”を受けることとなる。あの砌とか言う、おせっかいな奴から。

 俺はあいつに傷一つ付けられなかった時から、ずっとライバル意識を燃やしていた。今まで俺は、誰にも負けたことが無かったのに、初めての敗北を味わったから、ずっと腸が煮えくり返るような思いだった。そんなアイツに復讐したいという思いから、直接あいつに特訓してもらう事に決めたのだ。

 ……分かってはいるんだ、相手の方が強くて、人格も良いということを。だがどうしても、俺のプライドは俺を締め付けてくる。訓練を受ける自分の姿を想像して、嫌気がさす。

 太陽が上まで昇った頃、俺は重い足取りと気が乗らない手つきで玄関を開けた。


「おはよう、ニクス殿!」

「……え?な、なんでお前が――」

「今朝からずっと待っていたのだ!チャイムを鳴らされるのは煩わしかったのだろう?」



 胃もたれするような気持ちでバーへと到着。扉を開けると、中には大勢の人々がいた。魔物を討伐するには、やはり仲間が居た方が安全で、確実だ。その仲間を募るために、バーにはよく人が集まる。俺はその中から砌を見つけ出し、意を決して隣に座る。


「おぉ兄ちゃん、来たか」

「あぁ、来てやったよ」

「ま、来るとは思ってたんやけどな」

「……またジュースを頼んでたのか」

「ん、ミルクの方が良かったか?」

「別に何も要らねえ、それより鍛えてやるって言ってたよな?何すんだよ」

「チャンバラや」

「は?チャンバラ?」

「せや、剣と剣で斬り合う。それだけや」

「……それの何処が特訓になるんだ」

「おいおい、よう考えてみ?お前、自前の力は強いやろ。ほんなら足りんのは実戦経験やろ思うてな、せやから、まずはそっから鍛えてみいひん?ってな」

「………」


 なるほど、と思った。しかしそれを顔には出さないように我慢した。


「ま、勿論それだけやない、他にも――」

「別にいい、寧ろお前を気兼ねなく斬れる。好都合だ」

「はっはっは、ええやんええやん!」


 砌は思い切り立ち上がり、またカウンターにお金を置いた。


「俺はちょいと肩慣らししてくるわ、店の前で待っとるで」


 そう言って、俺とルカを残して先に外へと出ていってしまった。


「ニクス殿、大変なことになってしまったな」

「別に俺が自ら選んだ道だ、別にいいさ。それで強くなれるなら」

「ニクス殿は向上心が強いな!」

「……俺は父親みたいになりてぇんだ」

「ほう、父親?」


 俺には父親がいた。産まれる前に死んだから、声も知らないし顔もよく分からない。写真で見たことがあるが、それだけだった。そんな父親は、この国では英雄として評されていた。

 魔物を最も多く討伐した者は、英雄の称号を与えられる。それはヨナス様直々からの、特別な証だ。最も、表彰されるだけで特別なことはない。ただ名声を得られるだけだ。父親はその名声に縛られる事もなく、最後まで魔物を討伐しに出かけるだけだった、らしい。

 討伐すればするほど、お金になる。それが冒険者の仕事だから。そして俺もそんな父親に習って、英雄となって母親に楽をさせたかった。

 そんな話を、ルカに聞かせた。ルカは大袈裟なまでに号泣して俺を褒めちぎってきた。


「そんな立派な理由があるなんて!ヨナス様はよき人を見つけたの〜〜!」

「ルカ、頼むから落ち着いてくれ……」


 こいつが落ち着くのを待ってから、ようやく俺たちは店を出た。砌はバーの入口から少し離れたところで、ダミー人形相手に刀を振ってた。


「おい、砌……来たぞ」

「おぉ?!やぁ〜っと来よったか!」


 刃が風を切り、そのまま鞘に収めてこっちを向く。相当気合いが入っていたようで、既に疲れているような顔をしている


「おっっっそいねん!お前ら!」

「待ってるって言ったのはそっちだろ、それに俺だって好きで遅くなったわけじゃない」

「はぁ、はぁ……まぁなんでもええわ!」


 砌は興奮冷めきらぬ様子で、俺の肩を掴む。


「ほな、国の外行くで!そこなら気にせずやり合えるわ!」


 俺の返答待たずして、そのまま腕を引っ張ってくる。思わず俺は抵抗しようとしたが、呆気なく引っ張られていった。ルカは慌てるように追いかけてきた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ