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駆出しの仲間

 次の日の早朝、家のチャイムを鳴らされる音に起こされた。眠い眼を擦りながら、母親が起きるより先に玄関を開けると、そこに居たのは昨日の神官だった。


「おはよう、ニクス殿!早く冒険に出かけるぞ!」


 頭が痛かった。準備をするから待てと言い、彼女は渋々同意した。


 簡単な身支度をして朝食を摂り、外に待たせたルカと集合した。小さい背丈に見合わない巨大な杖を肩に担ぎ、今直ぐにでも怪物と戦ってみたいといった様子だった。しかし俺は砌との約束を覚えていた為、まずはバーへと向かうことにした。


「私は知っておるぞ!怪物は人間とは比にならないぐらい大きくて、それでいて力も物凄いのだろう?」

「概ねそんな感じだけど……というか具体的に、冒険者の何を学ぶんだ?」

「怪我の種類――毒や創傷などを、身体を張って調べるのだ!」

「な、なるほど……」

「そうすることで治療の技術も上がり、知識も増える!そしてその学びの最中に心理的な外傷の知識も得る!それが私の目的なのだ!」

「……神官も、思ってたより結構大変なんだな」

「あ、それとここだけの話……ヨナス様は、一人で旅しようとする君を心配しておったぞ?」

「えっ?」

「あの人は、ニクスには力はあるが、それでも一人は危ないと言っておったぞ!」

「…………」

「でも私も感じるぞ、そなたの奥底に眠る力!きっと輝く!」


 ヨナス様は俺にとって心の支えだった。常に俺の事を気にかけてくれて、それでいて偉大な教育者で、”目標”だったから。冒険者としての名を広めたいと思いながら、それと同時にあの人の様な教育者になりたいとも、常々思っていた。教えるのは重要だが、教える技術は生半可な気持ちでは獲得できない。それに、俺のプライドの高さは自覚していた。だから、素直に冒険者だけを目指すことにした。


「……でも、俺は父親みたいになりたいんだ」

「ほう、父親とな?」

「母親から聞いたんだ。一人で何万体もの怪物を蹴散らし、この国の英雄になったって」

「ふむ……うむ、きっとなれるぞ!」


 他愛のない会話をしてると、妙な三人組と出会った。いわゆる”チンピラ”という者たちだ。


「よう、兄ちゃんと神官の姉ちゃん。ちょっと頼みたい事があるんだけどさぁ~……」

「俺らさ、ちィ~ッとばかり小遣い足んねンだわ。すぐ返すから貸してくんね~かなぁ~?」

「素直に貸してくれたら、俺らも楽なんだけどなァ~?」


 スキルを貰った者が皆、怪物退治や仕事の為に使う訳ではなかった。邪な考えを持つものは、その力を悪用して犯罪を繰り返す者も一定数居る。


「お主ら、それが”カツアゲ”に値する行為だとわかってて口を開いているのか?!」


 しかし、それでも治安が保たれているのは、神官の存在がかなり影響している。


「あァん?んだガキ……神官だからって舐めてっと――」


 ルカは手に持っていた杖を高く高く掲げ、自信満々に答えた。


「私は大、大、大魔導士『ルカ・プライド』だ!」


 杖の先端が力強く輝き、チンピラ達を光が包む。


「うわぁっ!?な、なんだコレぇっ?!」

「目、目がっ!目がぁぁぁッ!!」

「ちくしょっ、がァっ、っあ、頭がわ、割れるっ!!」


 騒ぐチンピラ達の声を聞いて他の神官が駆けつける。そしてチンピラ達は捕まり、どこかへと連れ去られた。


「い、今のは……?」

「私の十八番である!光で相手を怯ます究極魔法!」

「そ、そんなのが使えたんだ……君……」

「私は誰かを手助けするのが好きであるからな!わっはっは!」


 最初、この子を見たとき、俺は何とも言えない気持ちだった。突然教え子が出来て、それを大神官様から頼まれたのだから。でも、その気持ちの正体が今、明かされた。


 きっと、俺はこの子の力に嫉妬している。


 日が少しだけ昇って来た朝、俺たちはバーに着いた。店の中では、一人のチンピラもどきがオレンジジュースを飲んでいた。


「お、やっと来たんか!……おっ?なんや、その嬢ちゃんは」

「私の名は大――」

「……ルカ・プライドって言うんだ」

「ニクス!大魔導士が抜けておるぞ!」


 ほっぺを膨らませ、拘りの抗議をぶつける。


「おうおう、こんな朝っぱらから年ごろの嬢ちゃん連れなんて、兄ちゃんも案外マセてんやなぁ?」

「ち、違ぇ!ヨナス様に言われたから一緒にいるだけだ!」

「ほな、大神官直伝のカップルやな?」

「茶化すのもいい加減にしろ!」


 砌と仲の良さそうな店主は微笑みながら、オレンジジュースを二本追加で出してくれる。


「ま、それはそうとして本題や。――ニクス、ここに来たって事は、ほんまに俺でええって事やな?」

「あぁ、そしたらお前を殴れる」

「はっ!ええ神経しとるな」

「む、ニクス!喧嘩は良く無いぞ!」

「違う……俺はワケあってコイツに稽古をつけて貰う事にしたんだ。それだけだ」

「せやなぁ、そしたら俺も手加減なく兄ちゃんに武器振れるわ」

「なぜ稽古を着けてもらうことにしたのだ?ニクス、君は今でも十分に強いみたいじゃないか!ずっとヨナス様は褒めておったぞ!」


 その言葉を聞いて、俺は少し顔が引きつった。


「……今より強くなれるなら、それに越したことはないだろ」

「むぅ、それもそうじゃのう」

「だから……兎に角だ、砌」


 俺は机に手を乗せ、奴の顔をじっと睨む。


「俺はいつか、お前をブッ飛ばしてやる」

「なら、俺は兄ちゃんのケツをはったいてやるわ」


 その後、朝の出来事で疲れた身体を椅子に腰かけて休めた。砌との修行は、明日の昼間から始まる。

多分続きます。

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