駆出しの魔法
・スキルとは?
主人公の住む国「リンカ」にて、毎年7歳になる子供たちが大神官ヨナス・エンゲラから授かる能力。
ヨナス曰く「精霊との繋がりを通し、我々の身体に力を与えてくださる凄まじい契約」とのこと。
身体能力が強化され、本人も知らない奥底で眠る才能を引き出してくれる。
つけ直すことも、貰わないことも、選ぶことも出来るが、1人につき最大3つまで。
また、付与・剥奪・変更ができるのはヨナスだけ。
国の外には、魔物が大勢はびこっていた。悪鬼の様な怪物、この世のものとは思えない存在、数を上げたらキリがない。周辺から少し離れただけで、最早命の保証は無かった。そんな状況を省みた大神官ヨナス・エンゲラ様――この国の長――が、いつの間にかスキルを配るようになっていた。誰もがお散歩気分で街の外を、国の外を歩けるようになるために、と。そうしてスキルを配られた者の多くは「冒険者」という、魔物たちを倒して平和に貢献する役職に就く。なお、冒険者と呼称したのはヨナス様が最初だった。
それがこの国、リンカ国の歴史である。
俺は今、生まれて初めて、一人で魔物と相対している。凶悪な仮面を被った屈強な鬼が目の前に立ちふさがる。武器こそ持っているけれど、体格差で敗北しているのに剣を抜くのは絶対にありえない。俺はなんとかして隙を作ろうとしていた。
「魔法とは、自然と共存する存在……」
子供の頃に教わった魔法の話を思い出していた。ヨナス様は、統治者でありながら同時に教育者でもあった。
「魔法とは、自然と共存する存在なんだ。言ってる事、分かるかい?」
ヨナス先生は、ポケットから小さな木の枝と羽、ビンを取り出し、机の上に置く。
「枝。羽。こんな、探せば簡単に見つかりそうな、道端に落ちてる物が――」
枝と羽が光になって消滅し、その光はヨナス先生の手に移る。
「――魔法を構成する一部なんだよ」
その光る手を振り下ろすと同時に、魔法の矢がビンに向かって飛んだ。ビンは粉々に砕け散り、先生は何かしらの魔法で破片が飛ばないように静止させた……らしい。
「おっと、違う魔法も出しちゃったね、アッハッハ!」
皆は感動したように先生を見て、中には拍手する子供もいた。
「まぁ、とにかく……魔法を使いたいなら、先ずは性質を理解すること!以上!」
動かない俺目掛けて、鬼は武器を振り下ろす。俺はそれを躱し、さらなる攻撃を躱す。その過程で石を拾い、鬼から距離を取る。
「飛べ!」
石を強く握り、手をかざす。その瞬間小さな光弾が鬼に飛んだ。銃創のような穴を腹に開けられた鬼は怒り狂い、無茶苦茶に武器を振り回した。その大きな隙を見て鬼の背後に回り、足を短剣で斬る。痛みに悶えながら鬼は跪き、俺はその首に長剣を当てた。
「ほ……本当に勝てた……」
正直、最初から呆気なくやられることは覚悟していた。しかし、あんなに大きな化物相手でも勝てるというのだから、少し自惚れの気持ちが出てくる。再びボケっとしていた自分の背後から、男の声がした。
「おうおう兄ちゃん、やるやんけぇの」
「……どちら様でしょうか」
「俺ぁ楔 砌、スキル3つ持ちの実力者や」
ニッと笑って白い歯を見せる砌という男は、そのまま嫌な笑顔へと変貌していく。
「兄ちゃんは俺を知らんやろけど、俺はよぉ~~~く知っとるでぇ?アンタ、入学式で1個もスキル貰っとらんやったやろ?」
「……よくそんな事、それも面識がない他人の情報、覚えてますね」
「はっ!当ったり前や!タダで貰えるモンは貰っとかな損や!んでだ、そうじゃねぇ。俺が言いてぇのはなぁ」
男は目の前まで近づき、俺を見下す。
「スキルが要らんほど、兄ちゃん、強ぇんか?」
腰に携えた刀に手を添えている。正直な所、別に誰かと果し合いをしたい訳ではない。俺の目的は、強くなって、この危険な世界を少しでも安全にしたいだけだった。
「……いえ、別に」
「ほう?その割には仲間も付けずに、その上鬼を仕留めてたようやけどな?」
「その分努力してるので」
「はっ!そうかそうか!」
ガハハと笑って手を叩くその男から戦意のような何かを感じ取る。
「そんな強ぇんなら……俺と手合わせ願いたいねぇ」
「……断ります」
「あ?なんでや?別に命までは取らんで?」
「俺は別に他人と争いたいわけではないので……あくまで、この世界から魔物を滅ぼしたいだけです」
「んなもん、もうこの世界に生まれ落ちた連中は皆そうやろ!」
俺のお父さんは昔、俺が生まれる前に魔物に殺されてしまった。この男と同じようにスキルを3つ、最大まで持っていた。かなりの努力家で、でも頑固で、なのに変に抜けてる所がある人だってお母さんは言ってた。だから俺は、そのお父さんみたいに強くなって、俺の住む場所を安全にしたいと願ってた。……スキルを貰わなかったのは、少し、プライドが高かったから。
「ま、俺はどっちかって言うと強くなりてぇだけやけどな」
「俺はそんなに強くありませんから、お勧めしません」
「そんなん実際に戦ってみな分からんねん!」
刀を意気揚々と抜いた男は言う。
「兄ちゃんも抜きな!それともその剣はお飾りか?」
俺は渋々剣を抜いた。
多分続きます。