駆出しの序章
笑顔デフォルトのお兄さんっていいよね。
「さぁ~皆さん!今から『入学式』を行いますよ!集まってくださ~い!」
朝8時の事だった。今日は僕の入学式の日。大神官ヨナス・エンゲラ様――この街の統治者――の声が街中に響く。入学式とは、この街で7歳になる子供にスキルを与えるという祝典だ。
「ニクス!早く起きなさい!」
僕は母親に起こされ、強引に準備を進めて家を出た。
この街唯一の学校、聖ジョセフ学園に僕を含めた子供たちが集まった。皆、これから付与されるスキルに胸を躍らせている。
「なんのスキルがいいかな~?」
「俺、どんな魔物もやっつけられるスキル!」
「じゃあ私は皆を守れるスキルがいいな~」
スキル授与と一口に言っても、実際はそこまで一方的な事ではない。
「それでは皆さん、一列に並んで下さ~い!あ、こらこら!横入りしちゃめっ、ですよ!」
ヨナス様が一人一人に様々なスキルを与えてくれる、それだけだ。
「君は……うんうん、『騎士の誇り』!」
それに、そのスキルも勝手に決められるわけじゃない。
「誰よりも強い力……なら、『正義の均衡者!』
その人の魂にあったスキルを、必要なだけ付与してくれるのだ。
「ふむ……君なら、そうだね……『守護者の鑑』と『退魔の法』!」
皆が様々なスキルを貰う最中、僕が願ったのは、これだった。神官様が僕を見てニヤっと笑う。
「……君はぁ~……う~ん……」
「僕、何のスキルも要らないです」
「……おや、それはどうしてかな?」
「僕は僕の実力で、強くなりたいんです!」
神官様は呆気に取られて、直ぐにいつもの笑顔に戻った。
「はははっ!それも一つの選択だね!いいよっ、欲しくなったらいつでもボクのお家においでね?」
そうして僕以外のほとんどはスキルを貰い、入学式は無事に終わった。家に帰った後、僕は母親にスキルを貰わなかった事を話した。怒られるだろうと思ったけど、母親は呆れ顔を見せるだけだった。
「……もう、あの人とホントそっくりね」
3人の家族写真を一瞬見て、また僕の顔を見た。
「勉強にも鍛錬にも、励むのよ?」
そんな事があった日の10年後、俺は冒険者となった。勿論、スキルのある皆より劣ってはいる。だけど、俺はそんな事気にしない。家族や友達を守るため、今日も俺は街の外へと出かける。
多分続きます。