とりあえずの休息
「あ。もうついたのか…」
「ええ、5分ほど前に到着したばかりです。立ち上がるのはもう少し後にしてください。今、ルコーニアが、オメトル・イフニとオメトル・ホムンクルス、それに、メフィストフェレス神の死亡を確認したところです」
「再び、太古からの神が去ったか…いや、今となってはどうでもいい事だ。それよりも、あの虚数時空間は、どうなっているんだ?」
「あの空間は、こちらと真逆の時間の進み方をしています。こちらが1秒進めば、向こうは、1秒戻る。そんな感じの空間です。しかし、他の物理法則は、通常通りの空間として、存在しています」
「つまりは、物理法則の中に出てくる時間が全て虚数、2乗したらマイナスになる、そんな数になっているという事か」
「まさにその通りです。昔、なぜそのような事になったかと言う事を考えた人がいました。その人が出した答えと言うのは、宇宙の始まりの瞬間が、今なお続いていると言う事でした。現在も、おそらく、これから未来永劫。この虚数時間がある影響で、我々は、宇宙を生み出し続ける事ができるのです。虚数時間が消滅する事があれば、その時、全ての宇宙が崩壊すると言う事になります」
「なるほど、宇宙の最初の瞬間で、あの空間は止まってしまっているんだな。そして、何かのきっかけで、実時間になると、宇宙が成長し始める」
オメトル・スタディンはうなずいた。
「その通りと考えられております。ただ、虚数時間の空間の正確な大きさ、エネルギー量、さらには、誰が、どのような目的で作ったか、そのような事は、宇宙文明に遺されている全ての文献の中にも載っていません。例外は、宇宙文明の中で最も古い本として残っている、1冊の本だけです。そこには、ホムンクルス神の由来がかかれています。さらには、どのような契約を、宇宙文明の当時の指導者達とホムンクルス神が結んだかも…」
「その本は、この図書館にあるのか?」
「ええ、しかし、劣化が激しいので、現在、電子本としてのみ存在しております」
「…降りたら、その本を見てみよう。何か載っているかもしれない」
その横で、クシャトルが寝ぼけ眼で起きた。
「あ、おはよう…」
「おそよう。とりあえずは、起きろよ。船から降りるぞ」
「ふぇ、分かった…」
そのままもう一度寝ようとするのを抑えさせて、無理やり、引きずりおろした。
雪野達は、元の空間に先に戻り、アダム、イブ、スタディン神、クシャトル神は、その、最も古いといわれている本の電子版を見に行った。
「これが、その本だ。題名は…読み取れないな。発行年月日…初版は、3878年4月1日…だな。どこを読みたい?一応現代語訳もあるから、読めない事はない」
「虚数時空間の大きさとか、そんな物が載っているところなんだが、どこにあるか、すぐ分かるか?」
「ああ、もちろん」
アダムは、すぐに作業を始めた。
「あった。ここだな」
アダムの周りに、3人が集まる。
「読むぞ。「古来より、虚数時空間と言うものは、一般的にも不思議な空間として知られている。その空間は、この宇宙ができる以前より存在しており、いずれ、収斂を迎えるはずだが、それまでの間、ゆっくりとエネルギー量を変化する事なく、拡大を続けている。我々が、宇宙外跳躍技術を獲得して以来、数千年間たつが、我々以外の生命体には、未だに出会う事がない。複数の宇宙空間が同時に存在しているこの虚数時空間上には、理論上、複数の生命がいても不思議ではない。しかし、実際は、存在をしていないのだ。そもそも、虚数時空間と言うのは、時が定められた、3878年4ヶ月前、つまり、ちょうど、1年1月1日午前0時を基準として、そこから逆向きに時が流れているのが観測されている。我々が初めて設置した時の計りは、常に一定の早さで1秒を刻む。それを利用し、まったく同様な物を、虚数時空間上に設置した。しかし、その時の計りは、こちら側に置いた時の計りと精確に逆に動いた。さらに、その間隔は、ぴたりと一致したことから、虚数時空間は、時間のみがこちら側と違う空間と推測される。こちら側の物理法則が、虚数時空間上でも通用するのは、そう言う訳だろう。現在、虚数時空間は、大きさが定まっている気配がないが、密度は、一定の速さで薄くなっている。遠からずして、宇宙斥力によって、加速度的に密度は薄くなるだろう。そうなると、虚数時空間は、薄くなり、そして、破れるだろう」と、書かれているね」
「空間が破れるって、どういう事だろう」
「分からないな…でも、空間も破れたいんだろうね」
「意味が分からないよ、イブ。とりあえず、次は、ホムンクルス神のことについてだ」
「分かった、ホムンクルス神については…ここだな。読み上げるよ。「ホムンクルス神については、紀元前1000年前後に即位した王の末裔であると言う説が濃厚である。その王は、最初に生命が生まれた、オメトル中央惑星の最初の全土統治者である。彼がいたからこそ、この宇宙へと、生命は動く事ができたのだ。その一方で、その王は、神通力とも言える力を持っていたと言われている。一日で、山を横に動かした。手も使わずに、巨石を動かした。彼の足元には、生命が踊り、通った後には、死しか残らないという、伝説だ。ホムンクルス神にも、似たような力があり、人々は皆、神として崇めた。こうして、ホムンクルス神は、オメトル空間の中で、最高権力者として、采配をふるい出した。初期の頃は、それでも、人気があった。しかし、時がたつにつれ、人気がなくなっていった。しかし、現在でも、支持率は4割を超えている。オメトル中央議会は、ホムンクルス神の息子である、ムカメイグルを、中央評議会長とする、正史委員会を設立した。さらに、正史委員会に強大な権力を付与し、一つの惑星で構成されている宇宙空間に本拠地を設けさせ、さらに、周囲には、中央評議会長のみが許可するもの以外を通さない目的で、巨大な包囲網を築いた。ホムンクルス神は、それに対し、強行とも言えるほどの行為をし、オメトル中央議会が強制的に契約を結ばせた。それこそが、神々の契約書として知られているものであり、それにより、ホムンクルス神は、全世界正史委員会中央評議会の空間に一切の出入りが禁じられ、一方で、オメトルの最高権力者の地位を確固たる物にした。現在、徐々にエネルギーが減少している原因の一つとして、ホムンクルス神が独自に設けた民族、オメトル神族に対するエネルギーの注入が理由と考えられている。対して、その他の人々、宇宙文明人は、この空間から脱出するために、他宇宙へと永住移動する事が進んで行った。現在、人口は、誓約書の前の半数に激減しており、これより、さらに減るものと見られている」と、書いている。これが本当か分からないけどね」
「でも、ホムンクルス神の息子、ムカメイグルは、どこにいるんだろう」
「さあ、そこまでは、この本にも書かれてないから、分からないね…」