神の捜索
「問題は、この機械の動かし方なんだ」
そこにおかれていたのは、球体の機械だった。
「この機械の中に、そのやり方が封じ込められているらしいんだ」
「…らしい?」
「ここに併設されている図書館の中に、そんな事を書かれた本があるんだ。ちょっと前にあった宇宙空間にいた人の者らしいんだが、彼の名前は、残っていない。ただし、この、当時、存在していた政府が作ったと言われている、人工知能と思われる球体の物体を除いてだ」
「じゃあ、この中に…」
「そう伝わっているんだが、実際のところは分からない。そもそも、捜索電波と言っているが、本当の所、どんなものかも分からない。その上、この機械の動かし方自体が分からないからどうしようもない」
「そう言う時には、うちの出番だね」
宮崎が、一歩前に出て、冠神輪を光らせた。すると、中から、何か白く薄い影のようなものが浮き上がってきた。
「ここは?あれ、あなた達は?」
「ここは、全世界正史委員会中央評議会がある空間だ。君の名前は?」
「私の名前はルコーニアって言うの。ファイガン・ネビスは、どこにいるの?」
「ファイガン・ネビスは、もうこの世界にはないよ。そもそも、彼がいた世界でもないから、ファイガン・ネビスがした行為は一切伝わっていない」
「そう…で、あなた達は、何者なの?私をどうしようって言うの?」
「君が知っていると思われる情報が欲しい」
「…どんな情報?」
ルコーニアは、困惑した顔をしていた。スタディン神がさらに話しかける。
「実は、どこかの空間にいる神を探して欲しい。君達がいた時にいたか分からないが、メフィストフェレス神と言う名前だ。彼は、我々と敵対している。この神が権力を握っていたとき、彼は、全ての生命を滅ぼそうとした。今では、ホムンクルス神と言う、消滅した神の後を継いで、現在、どこかで我々の命を狙っている」
「…問題があるの。実は、その捜索する事自体はたやすいけど、彼のどのような波長かと言うのが分からないから、捜しようがないのと、私自体の消費する電力の影響で、私自身が消滅するかもしれないと言う事」
「電力の問題は気にしなくていい。自分達がどうにかしよう。彼自身の波長は、全て君の中に送り込む事にするから、それを基にして、捜索をしてもらいたい」
「…分かった。本意ではないが、仕方ないようね」
「じゃあ、やってくれるか」
スタディン神が、彼女を見ていた。
「準備があるから、10分後に、再び来てもらってもいい?」
「ああ。では、10分後に」
それを言ってから、彼女の姿が、消えた。他の神達は、この部屋から出て行った。
きっかり10分後、ルコーニアは、再び姿を現していた。
「準備はできた。あとは、するだけ」
「じゃあ、頼んだ」
そして、瞬間的に、何かが体を通り抜ける感覚があった。それは、膜のようであり、瞬時に感覚は消えた。
1分ぐらいしてから、ルコーニアは言った。
「見つけた。今まで観測していなかった新しい宇宙空間の中にいる。でも、そこはとても危険な場所。良く分からない世界になっている。他に、2人の未確認の波長が感知できる。片方は、相当強い。その強さは、恐らく神々に匹敵するぐらいだろう。だが、もう一人の方は、その力の3分の2ぐらいしかない」
「それでも相当強いな…方向とかは分かるか?」
「本宇宙空間を絶対座標の原点とした場合、X=6089、Y=8076、Z=7820の方向」
「すぐにその方向に向かう事はできるか?」
「船があるから、可能ですが、燃料がありません」
「どんな燃料なんだ?」
「純粋なダウンクォークが必要です。それに、純度95%以上のフォトン、残りが全てグラビトンです」
近くにいた、オメトル・クシャトルに聞いた。スタディン神が、少し考えてから言った。
「そんなもの、この空間どころか、どこにもないぞ」
「そもそも、ダウンウォークとか、フォトンとか、グラビトンとかってなに?」
雪野が聞いた。
「ダウンクォークと言うのは、中性子や陽子などの粒子の中に入っている、
素粒子の一つだ。フォトンもグラビトンも素粒子の一つなんだが、フォトンは、光子と言われて、光の粒を構成している。グラビトンは、重力子で、重力を伝える事に役立っている。だが、重力子は、平面的にしか動けない代わりに、高次元を使って、他宇宙に移る事ができる唯一の粒子だ。空間移動の際、特に宇宙空間から宇宙空間へと渡る際に、重力子に全ての素粒子を変更する事を余儀なくされるのは、他宇宙に移動する際の必要不可欠な措置なんだ」
「なるほど…」
宮崎が雪野の横でうなずいていた。
「で、なんでそんなものが必要になるんだ?」
平水がオメトル・クシャトルに聞いた。
「ダウンクォーク2つとフォトン2つを作用すると、それぞれの周りを回るような状態、共鳴状態と言うのがおきる。その状態の時に、グラビトンを入れると、ダウンクォークとフォトンが、超対称性粒子と呼ばれる、ほとんど逆のような状態の粒子が生まれる。ダウンクォークの場合は、ダウンスクォーク又は、スカラーダウンクォーク。フォトンの場合は、フォティーノとなる。さらに、フォティーノとダウンスクォークは、素粒子融合を起こし、一つの粒子として振舞う。その時に、質量減少を起こし、エネルギーを放出する。そのエネルギーを利用して、虚数時間中、この宇宙の周りは、全て虚数時間と呼ばれる空間で満たされているが、その中を通る事ができる。グラビトンは、この場合反応せず、少量でも構わない。と言う事で、直接フォティーノやダウンスクォークを採用しようと試みた人もいた。しかし、全ての場合において失敗した。原因は分からないが、おそらく、この世界に存在するものでは貯蔵する事が出来ないのだろうと予測されている。現在の所、ダウンクォーク、フォトン、グラビトンの3種混合燃料が、最も一般的な他宇宙航行用エンジン燃料となっている」
「いや、そんな専門的な言葉ばかり並べないで、もっと分かりやすく説明してもらえる?」
加賀が聞いた。
「ダウンクォークとフォトンとグラビトンがいろいろ作用しあって、エネルギーを出すからそれを使う。こんなものでいいかな?」
「…うん、多分大丈夫」
加賀は弱々しく言った。
「とりあえず言えるのは、この世界に、ダウンクォーク、フォトンはあっても、グラビトンをためる物がないんだ。その方法以外で行くことはできないのか?」
スタディン神が聞いた。
「一つだけ、古来から封印されている方法があるわ」
ルコーニアが言った。
「でも、その方法は非常に危険を伴うの。それでも構わないのなら、教えるわ」
「とりあえず、それでいくしかなさそうだな。別に、死が怖いわけではない。怖いのは、宇宙空間と宇宙空間の狭間である虚数時間中に放り出される事だ。そうしたら、二度と戻ってくる事ができないだろう」
「………分かった。それでも、やってみる価値はありそうだ」
こうして、ルコーニアが教えたのは、神ですら知らない方法だった。