エピローグ ー月への誓いー
◇
将軍家による国民の精神支配が解け、『慶鶯の乱』で革命軍が勝利し、この国に真の意味での『天下泰平』が訪れた。
慶兆さんは新たな国の元首となった。
そのカリスマ性をもってして、国民からの受け入れは良好。これからは幕府制度を取りやめ、慶兆さんは将軍ではなく宰相を名乗るそうだ。
とは言え、早急に藩政を崩すと国が崩壊するため、廃藩置県は地方の大名と相談しながらゆっくりと進めていくらしい。
まずは、バカ将軍によって弱体化していた国家の基盤を整えるのが最優先とのことだ。
鶯囀さんは『慶鶯の乱』での活躍を評価され、この国のご意見番となった。資本提供など、財政面でも大きく貢献してくれるそうだ。
慶兆さん・鶯囀さんの強力なツートップで、この国が飛躍的に強い国になっていくことは確約されたも同然であろう。
『八百万』は此度の戦いで対立することはあったものの、個人個人に明確な政治的主張があったわけではないため、慶兆さんのもとで従来どおりの体制が維持されることとなった。
なかには『八百万の弐』の鵺野天神さんがアシュナさんに協力的になるなど、戦いを通して関係性がよくなった人たちもいるようだ。(下半身がぶっ飛ばされて生きてるなんて、バケモノすぎじゃないか?)
そして最大の変更点は……俺が、『八百万』の一員となったことだ。
ーー『宵食みの翼』。『八百万の漆』、鳴瀬夜鷹!!
う~ん、なんてステキな響き。我ながら思わずウットリしてしまう。
ただし、俺の大昇進を快く祝福してくれる人ばかりではないようで……。
「ちょっとオオオォッ!! なんであんたがこの私をすっ飛ばして『八百万の漆』になんのよ! 私が『漆』に繰りあがってあんたが『捌』になるのがスジってもんでしょおがぁっ! ムキぃーッ!!!」
「いえ、あの、たまたま『八百万の漆』と戦って勝ってしまったからでして……スミマセン」
「もうっ! ……あんたじゃなかったら、絶対に許してなかったんだからねッ!」
アリサは俺の胸ぐらをつかんでブンブン揺さぶるので、首がガクガクしてしまった。
彼女の怒ってる顔は近くで見ても可愛い。
……そうなのだ。俺が自身の手で華羽孔成を討ってしまったので、そのまま『漆』に収まることとなってしまったのだ。
お上が決めたことなので、仕方ないことなのだけれど……。
今までの上下関係がひっくり返ってしまったので、俺自身も違和感しかない。
なんだか、アリサには悪いことをしてしまったなぁ。
ちなみにアリサと湖水さんは王鵡さんとスザクさんにボコボコにされて、あと少し遅かったら死ぬとこだったらしいが、湖水さんが挑発したことが吉に出たらしい。
王鵡さんたちが意固地になって個別に戦闘を展開したことで、得意の連携が崩れたのだそうだ。さすが湖水さん、頭脳派だぜ!
でも、アリサにとっては散々な戦いとなってしまったようだなぁ。
またいっしょに遊びに行って、仲良くしなければ。
ちなみに俺は『八百万』に任命されたのと同時に、ISRR・Aランクへと昇格した。
昇格への報酬はドッサリ、いよいよ国民から向けられる視線は特別なものとなった。
「夜鷹さま。抱いて……♥️」
ギルド本部のおねいさんからは、受付のカウンターでこんなことを言われるようにまでなった。
う~ん、初めて彼女と出会ったときのことを思い返すと、感慨深いものがあるなぁ。
……ちなみに、ギルド本部長の相副籠喜さんは、副ギルド長のミミズクさんの裏切りを聞いて、大変悲しんだそうだ。
籠喜さん自身の輝きによって、心を焼きつくされてしまった、哀れな直弟子の末路。
彼の心の闇を救ってあげることができなかった自身の愚かさを嘆いていた。
俺も、ミミズクさんの裏切りによって大切な恩師を失ってしまったから複雑なところはあるけれど……。
またみんなで頑張って、忍者ギルド『輩』を、以前よりもっともっと盛りあげていきたいところである。
ちなみにアカデミーのみんなからは、俺とヒナは勝手に『付き合ってる』認定をされてしまった。
どうやら華羽孔成との戦いでヒナの想いが暴露され、俺もそれを受け入れたということになっているらしい。
俺とヒナが話していると、誰かしらが「ヒューヒュー♪」と冷やかしてくるのだ。
実際には、ちゃんと付き合いはじめたわけではないのだけれど……。ま、嫌な感じはしない。
ヒナと街に買い物に出掛けることがあって、俺は彼女の体調を尋ねてみた。
「ヒナ、手首の調子はどうだ?」
「うん。もうすっかり元通りみたい。綾乃ちゃんもあのあと、すぐに手当てしてくれたから」
「そっか。よかったぁ」
「夜鷹くん」
「ん?」
「あのとき、私のために本気で怒ってくれたんだよね。しかも、あんなに強い相手に向かって……ありがと」
「お、おぉ。そりゃあモチロン怒るさ。俺の大切な仲間なんだからな!」
「……フフッ、そうだよね」
俺はなんだか照れくさくなって、あさっての方向を見ながらそんな風に答えた。
ここは「俺の大好きなコなんだからな!」とでも答えるべきなんだろか。
でもまぁ、ヒナはなんだか嬉しそうにほほえんでいるし、良しとしておこう。
街頭のてれびからは、めでたく無事にアイドル復帰した宮野絵心有ちゃんの歌声も聞こえてくる。
昨夜放送されていた歌番組の、再放送である。先日の暴動中のパフォーマンスで、彼女の人気はいよいよ絶頂に達していた。
と、そのとき、目深に頭巾をかぶった女の子が俺のそばをスッと通りがかったような気がした。
「夜鷹くん。あなたの心も、私が絶対奪ってみせるなの♥️」
「へっ……!?」
俺が後ろを振りむいたとき、すでに女の子の姿は雑踏に紛れて見えなくなっていた。今の口調って、もしかして……。
「夜鷹くん、どうしたの?」
「えっ!? いやー、なんでもないよ! 空耳でも聞こえたのかなー、アハハハ……」
そんな風にして、俺はその場をなんとか誤魔化したのであった。
◇
その日の夜。俺はアシュナさんの邸宅の屋根に登って、月を見ていた。
Aランク昇格の報酬金を使えばそれなりの家は建てられるくらいにはお金が貯まっていたのだが、このままアシュナさんの邸宅に居候して修行を積むことにしていた。
「キレイな月だなぁ」
霞みにけぶる月はなんとも言えず美しく、思わずこうして屋根にまで登ってしまったのだ。
……この世界に来て、いろいろなことがあって。なかには本当にシンドくて、死にそうになることもたくさんあったけど……。
それを差っ引いても余りあるくらいに、楽しかった。
そんな風にシミジミと月を眺めていたら、『魂珀の腕輪』から画面が投影され、ひづきの顔が映しだされた。
『フフ。ご満悦かしら?』
「ああ、その通りさ。元いた世界も悪くなかったけど、こっちの世界に来てこんなに楽しいとは思わなかった。それもこれも君がいてくれたおかげだよ、ひづき」
『ちょっ……! なによ、急にそんな殊勝なこと言っても、何もしてあげないんだからね!』
そんなことを言いながら、ひづきは頬を赤らめている。
あれ? すっげぇ今更だけど、もしかしてこのコ、チョロいんじゃ……?
まぁ、いっか。それはそれとして、俺には気になることがあるんだ。
俺は再び月を眺めて、思わずため息を漏らしてしまった。
「沙耶と風太は、今ごろ天国で幸せに暮らしているのかなぁ……」
『あら。あのふたりも、この世界に来ているわよ?』
「え! そうなの!?」
『ええ。時間・場所・境遇はみんなバラバラだけどね。それぞれの魂に相応しい形で、この世に転生して新たな人生を送っている。もちろん、元の世界にいたころとは別の人物としてね』
「そっか。みんな、この世界に来ているのか。会ったら分かるかなぁ」
『あなたが成長して世界に活躍の場を広げていけば、いつかまた会えるかもしれないわよ?』
「有名になればなるほど、活動範囲が広がれば広がるほど、再会できる可能性は高まるってわけか……!」
そう考えたら、ますますやる気が出てきた。こっちの世界でもまたあのふたりと仲良く過ごせたら、最高だなぁ……!
「ひづき、俺はやるよ。もっともっと強くなって、でっかくなる。あのふたりが俺の存在に気づいて、自分たちから来てくれるようになるまで」
『頑張ることね。フフ』
そうして、俺とひづきはいつまでも美しい月を眺めていた。
胸に宿った、新たなる希望。友との再会と、自身の成長を、この月に誓ってーー。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました!
ここから先、また章を積みあげさせていただきます。次回からは沙耶編です。のんびり進行ですが、よろしくお願いします!




