頂上決戦
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将軍の居城の前、大通り。
ここでは『八百万の壱』雲雀アシュナと『八百万の弐』鵺野天神が激闘を繰り広げていた。
……この国の頂点に立つ者どうしの戦い。その戦いが熾烈を極めたことは言うまでもない。
天は揺れ、大地が震え、人々の心を動かした。
身・技・体、全てにおいて忍の頂点。見目麗しい外見からは想像もできぬほどの戦闘力。
雲雀アシュナが強いのは、今さら述べるまでもないことであった。
だが、驚くべきはその相手である鵺野天神。
アシュナの一方的な勝利になると目されていたが、戦いは互角。技術ではやや劣るものの、膂力だけなら上回っているほどである。
「雲雀アシュナぁっ! カッコいいなぁ、『八百万の壱』ってのは! その座を俺によこせよ、ゴルァッ!!」
……『八百万の弐』鵺野天神、雷撃系最強の忍。
彼は固有スキル『賦戴天』により、自身の肉体を瞬時に電子に切り替え、雷電そのものと化して戦うことができる。
その動きの速さは電気の速さ、すなわち光速に等しい!
(ただし、あまりに長い時間置換しつづけていると元に戻れなくなる)
両手に着けた鉤爪は彼の固有武器『激雷爪』であり、一撃一撃がまさしく雷のごとき威力。
あたりには雷鳴が鳴りひびき、息つく間もなく繰りだされる連擊はあたかも雷嵐のような激しさであった。
しかし、天神がこれだけの速さ、威力をもった連擊を繰りだしていても、アシュナは対応してみせていた。
一流の忍は体内をめぐる『導』を操作することにより、人間の神経の伝達速度をはるかに越える超反応を可能とするのである。
まばゆい雷光のなか、アシュナはまばたきすることなくその黒き瞳を見開きつづけ、天神の攻撃を躱しつづける。
そして、天神にわずかに生じた隙を狙って、反撃の一撃を振るった。
「ゴフッ!!」
実体化していた天神の喉元を、『導』をまとわせて強化したクナイでかき切る。
雷属性を強制断絶しており、抵抗することは不可能。
天神は人体の急所を断ちきられ、一撃にして致命傷を負ったはずであった。だが……。
天神は自身の喉元を斬りさいたアシュナのことを、ギロリとにらみつけた!
「いってぇな。このクソアマ、ゴルァッ!」
「!!」
かき切られたはずの天神の喉元は一瞬で塞がり、すぐに元通りになってしまった!
……鵺野天神は、半人半妖。
人間と妖怪のあいだに生まれた、ハーフなのである(肩に載せた干からびた猿の頭と、身にまとう虎の毛皮は父親の亡骸から剥ぎとったものだ)。
その生命力は人間の域をはるかに超越しており、皮1枚でもつながってさえいれば、医療忍術なしで再生できてしまうのである。
意表を突かれたアシュナは、逆に反撃後の隙を狙われる形となってしまった。
天神は一気に力を全開に練りあげ、自身の究極技を放った!!
「喰らえ、ゴルァッ!! 『烙雷鳴衝』ォッ!!!」
それは、1億ボルトあると言われる雷の電圧の、さらに数百倍もの電圧を一挙に解きはなつ技。
その轟音は『塒国』の端から端にまで届き、あたかも不吉を告げる妖の鳴き声であるかのように響きわたったという。
「……チッ! 生身で受けたらさすがに焦げっちまうわね」
至近距離で放たれた超極電圧の絶技に、さすがのアシュナも舌打ちをした。
彼女は天神の動きを先読みし、すでに両手で複雑な術印を組んでいた。
「結界忍術、『宙塞羅生門』!!」
アシュナがとっさに展開したのは、空中戦における最上級結界忍術。土台のない空中でも、絶対防御領域を展開することが可能。
アシュナと天神は戦いの流れのなかで、宙へと舞いあがっていたのだ。
完全なる空間の断絶。地獄の雷でもビクともしないと言われる『宙塞羅生門』。
だが、天神の究極秘技『烙雷鳴衝』は結界の強度をも上回り、『宙塞羅生門』にヒビを入れてみせた!!
「んぐっ!!」
結界を撃ちやぶられ、アシュナは地へと叩きつけられた!
彼女は身を翻して巧みに着地したものの、服は焦げ、身のあちこちに電撃傷を負っていた。……あの最強・雲雀アシュナが、である。
放電しきった天神も、遅れて地へと降りてきた。
アシュナは彼にピッと指を差し、怒りもあらわに怒鳴りつけた!
「オイ、天神お前! 2番目のクセに思ってたより強いじゃないか! 卑怯だぞ、ごるぁっ!!」
「はああああぁ!? 正々堂々と戦ってるだけだろうが、どこが卑怯だふざけんなよゴルァッ!!」
「切った首が勝手にくっつくんだから、卑怯に決まってんだろぉ~がっ!!」
「そういう体質だ、文句あっかゴルァッ!!」
「だいたい、そんだけの強さがあんのに、なんであのバカ将軍におとなしく飼いならされとるんだ!?」
「……ハッ! まぁ、ガキのころに拾われた恩はあるがな。別に将軍のために戦ってるわけじゃねぇよ!」
大妖怪であった天神の父親は、当時の『八百万』によって討伐されている。
まだ幼子であった天神は人の血が混じっていることもあり、捕縛されて将軍のもとへと連れてかれ、処遇を問われることとなった。
周囲から天神を処分する向きの声が強まるなか、当時の将軍(阿比留元徳の父の父の父)は彼を許し、重用することを決断した。
以来、天神は阿比留家に仕えることとなったのであった。
「今の将軍家がロクなもんじゃねぇことは分かってるし、俺のようなハンパもんの存在を認めてくれたことには感謝してる。だが、俺は人と妖の子である自分の身の上を卑下するつもりはさらさらねぇ!」
今度は天神が、アシュナを指差した。
指から生えているのは人間のものとはとても思えない、獣のように鋭く、長い爪。
「人間の力をはるかに超越した存在であるはずの俺が、人間より弱いことにされてるのが気に食わねぇ! 雲雀アシュナ、てめぇが俺より強ぇことにされてるのが許せねぇんだよゴルァッ!!」
「んほぉ~? 戦う理由がシンプルでいいじゃないか。よかろう、胸を借りるつもりでかかってきなさい!」
「その減らず口を、利けなくしてやらぁッ!!」
天神はますます荒ぶり、彼の身をさらに激しく雷電が包みこむ。
対して、アシュナが身にまとう力は……かつてないほどに静かで、底知れぬ気配を醸しだすものであった。
「格の違いってのを見せつけてやるよ。あたしの、『固有スキル』でな」
『塒国』最強、雲雀アシュナ。彼女の真の力が今、明らかとなるーー。




