新旧対決① ー夢えがき、想いうたふー
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続いて、花街。
ここでは現『八百万の漆』・華羽孔成に対して、前『八百万の漆』・宗方啄木と『忍術マスター』慈猿鳶とが対峙していた。
積年の因縁を示すかのように、三者のあいだでは痺れるほどの緊迫感がただよっていた。
「コホ、コホ、コホ……」
「大丈夫か? 啄木」
「コホ、コホ。ええ、大丈夫です先生。……いや、孔成を止めるまではこの命、もたせてみせます」
「クフフフ、『八百万』となってより美しさを増したこの私に、死に損ない風情が勝てるとでも思ってるのかな?」
「ああ、止めてみせるよ。罪を重ねる前に、君の野望を阻止する。それが、アカデミーの同期として僕が君にやってあげられる最後の仕事だからね」
「この私がいることも忘れるなよ、孔成。お前の野心に気付いていながら、更正してやれなかったのは私の手落ちだ。かつての師としてこの責任、今果たしてくれよう!」
最初に動きだしたのは、慈猿鳶であった。
猿鳶はすでに年齢的にはとうに全盛期を過ぎているはずであったが、まったく年齢を感じさせぬ敏捷な動きで駆けぬけていく。
『多重影分身』の術!!
猿鳶が術を発動すると、10人を超える分身が現れ、同時に孔成へと襲いかかった!
猿鳶の分身は鍛えぬかれた体術で孔成へと攻撃を仕掛けている。
通常、分身というものは本体より能力が劣るというのが常識だが、猿鳶の分身は身体能力の制限を解除しているので、瞬間的に本体以上の戦闘力を発揮するのだ。
しかし、孔成は猿鳶の分身による同時攻撃を単身でなんなくいなしている。
自身の背中から広げている飾り羽根と同様、華美な装飾のほどこされた鉄扇を得物としている。
「クフフフ! 醜くなった老害が、表にでてくるものではありませんね。見苦しい限りです。早々に引退されてはいかがですか?」
「誰にでも衰えは訪れる。だが、時の流れによる変化を醜さとしか思えぬお前に、未来などない!」
猿鳶の分身のうち、後方で控えた3人が印を組みはじめた。
目にも止まらぬ勢いで組まれていく、複雑な印。3人は正三角形の配置に位置取り、それぞれ火遁・水遁・雷遁の上級忍術を繰りだそうとしていた。
……『忍術マスター』・慈猿鳶の強さは、基本忍術を徹底的に極めたことによる。
まったく同じタイミング・出力で発動された上級忍術は彼らの目の前で混じりあい、極大破壊忍術と化して撃ちはなたれた!!
『統合威斗』!!!
3つの属性の上級忍術は互いにぶつかりあうことなく調和し、超強力な破壊光線となった。
猿鳶の他の分身たちが光線に巻き込まれる覚悟で戦いつづけ、孔成をその場に留めさせている。
光線は大地を抉りながら突き進み、孔成を消滅させるべく飛んでいった!
「クフフフ! 分身を利用しているとはいえ、属性の異なる上級忍術を3種同時に発動させるとは、どんな頭の構造をしていたら可能となるのか。だが悲しいかな、私の技の美しさにはかないませんねぇ!」
孔成は身を翻すと、背中から広がる飾り羽根で自身を覆い隠した。
光線は飾り羽根に接触すると、油面に弾かれる水のように分散され、受け流されてしまった!
光線を分散させるのとともに羽根の表面は光を乱反射し、妖しく光り輝いた。
……『忍術マスター』・慈猿鳶の極大破壊忍術ですらなんなく受け流す、驚異の防御性能。
この飾り羽根こそ『八百万の漆』・華羽孔成の固有武器にして固有スキル。
『艶孔雀』!!
「クフフフ、いかがですか? 久々に見る『艶孔雀』の美しさは。この私に傷をつけることなど、許されぬのですよ!」
「コホ、コホ。ああ、だから僕がいるんだよ。君のその狂気じみた『美しさ』を、正すために」
啄木は自身の手に、1本の筆を具現化させた。
流麗で、繊細な意匠のほどこされた絵筆。女性の指のように細い彼の指先にピタリと合うように、筆軸に溝や穴が彫りこまれている。
宗方啄木の固有武器、『夢幻の絵筆』。
そして、彼の固有スキル『天衣夢想』はその絵筆によって描かれた生物・物体・事象を全て具現化するというチートスキルであった。
しかし、死を目前として彼のスキルは更なる進化を遂げていた。
……美しさはたしかに、若々しさ・生命力の象徴かもしれない。人は美しさを失うことを恐れ、死が近づくことを恐れる。
だが、死期が迫るほどに研ぎ澄まされていく、自身の人生に懸ける想い。その想いは結晶となり、いまだかつて見たことがないほどの輝きを放ってみせていた!
そのとき啄木が描いたのは、なんの変哲もない日常の景色と、感謝の言葉だけ。
道を行き交う人々の笑顔、無邪気に生きる可愛らしい小鳥や犬猫、ふと遠くを見渡したときの美しい景色。
そのどれもが愛おしくて、かけがえのない風景。
自身に与えられた寿命は常人よりはるかに短いものであったが、だからこそ自身が生きた世界への感謝を、強く感じることができた。
彼の澄みきった想いは純度の高い精神結晶体となり、邪な心をもつ者を滅するべく降り注がれていった!
『天衣夢想・結想夢晶核』!!!
何もない宙から、無数に生成されていく高純度の精神結晶体。
無数の結晶体は全方位から孔成へと降り注がれていき、彼の飾り羽根を傷つけていった!
「ぐぬうううううぅっ!!」
ーー私の『艶孔雀』で、防ぎきることができないだと……ッ!?
「その結晶は僕の人生に懸ける想いの全てだ。見た目の美しさだけに囚われたその飾り羽根では防ぐことはできないよ、孔成!」
「ぬああああああぁっ!!!」
ーー最終的に、孔成は全身を結晶体によって撃ちのめされ、その場に倒れ伏した。
だが、彼は攻撃を耐えきり、飾り羽根を傷つけられながらも、かろうじて生き残ることとなる。
一方、攻撃に全ての力を出し尽くした啄木もその場に片膝をつき、激しく咳きこんでいた。
啄木の身を案じ、猿鳶も分身を解除して彼のもとへと駆けよった。
「ゴフッ!! ハァッ、ハァッ! ……おのれ啄木、よくも私の美しき羽根を傷つけてくれたな! 死に損ないの分際でぇっ!!」
「ゲホゲホゲホ! ヒューッ、ヒューッ」
「啄木、大丈夫かっ!!?」
「ヒュッ、ヒュッ。……ええ、大丈夫です、先生。孔成は、この手で、僕が……ゲホゲホッ!」
華羽孔成を撃破するまで、あと一撃。啄木は猿鳶の手を借りて、ふらつきながらも立ちあがった。
と、そのとき。建物の屋根を伝ってやってきて、彼らの傍らに降りたった者がひとり。
彼らの前に、姿を現した者とはーー。
今回の場面は次回に続きます。




