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エンシャント・クルーレ① ー『鳥』の章。異世界上司は美くびれ・美乳・美尻の最強くのいち!? 超絶忍術チートバトル!!ー  作者: 藤村 樹
新たなる風

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最後の『八百万』

 夜鷹が尾長骨鶏を撃破し、将軍の居城へと歩みを進めていたころ。

 各地の戦場では新たな動きが見られていた。


「ぜヒューッ!! ゼヒューッ!! 助けてくれ天音、もう、限界だあああぁっ!!!」


『かもねぎ刀』を振りかざし、大量の敵に追いかけまわされている加茂吉。

 罪のない民衆に襲いかかる敵兵を引きつけるだけ引きつけて、逃げまわっているのだ。


『かもねぎ刀』の引き寄せ効果は以前より強まり、かなり多くの人数を引き連れている。だが、そんな彼にも体力の限界が迫っていた。

 しかし、加茂吉がじゅうぶんに敵を引き寄せたところで、物陰から生地天音(いきじ あまね)が姿を表した!


「音響忍術、『破笛丸(はてきがん)』!!」

「!? なんだと!?」

「ぐわあああぁっ!!」


 天音が無数の超音波の塊を撃ちだし、敵を一網打尽としてしまった! 彼女の技の威力も、以前より数段強くなっている。

 だが、それでも何人かの強者は天音の攻撃を凌ぎきり、討ち損じた者たちがいた。


柔産毛(やわうぶげ)


 それらの者たちの背後には早乙女ヒナが音もなく忍び寄り、首筋を斬っていく。

 柔らかな刀身で首筋を斬られた者たちは痛みを感じることもなく、静かに絶命していった。


「スゴいスゴいスゴい! みんなスッゴいよー!! 私たち同期が力を合わせたら、無敵ねッ!!」

「フッ。ようやく俺の教えが(みの)りとなってきたようだな。全てはこの、センパイの指導の賜物のとさえ言えるだろう!」

「ゼヒューッ、ゼヒューッ、ゼヒューッ!! 俺は、死にそうだった!!」


 道端には、傷ついた人々も数多く倒れていたが……。

 

「ご無事ですか? 今手当てするから、もう大丈夫なのです!」

「うぅ……ありがとう……!」


 志木原綾乃(しぎはら あやの)が傷ついた人々のもとへ駆けより、医療忍術で手際よく手当てをしていく。

 その天使のようなほほえみで、手当てをされた人は男女を問わず彼女のファンになっていることはナイショである。


 ……緊急事態であったため、ギルド登録者たちは部隊を編成する時間すらなかった。

 各々自由に出発することとなったので、美鈴たちアカデミーの同期はいっしょに行動することにしたのだ。


 それぞれアカデミー時代からの付き合いでお互いのことは知り尽くしているので、息のあった連携を見せている。

 彼女らは最若手でありながらにして、この緊急事態において大活躍していたのである!


「ねぇねぇ、あっちの区画にも行ってみようよ!!」

「うん。……でも、この声。苦しげだけど、悲鳴とはちょっと違うような……?」


 耳のよい天音は怪訝そうな顔を浮かべながら……。一行は他の区画へと移動していったのであった。



 ーー美鈴たちがその区画に移動したとき、眼前に広がっていたのは、想像もしていなかった光景であった。


「あ~っ! あ~っ!」

「アッ、アッ、アッ……」


 都じゅうで暴動が起こっている最中。この界隈では路上だろうが窓を開け放していようがお構いなしに男女が、あるいは同性の者どうしが身を絡ませ、交わりあっていたのである。

 この異様な光景に、さすがの美鈴たちも絶句してしまった。


「ちょっと、何よコレ……!?」

「こいつら、こんなときに何してんだ!?」


 ……ここは、花町。都で最も美しく、男女の欲望が渦巻く場所。

 だが、いくら花町とて、こうも明け透けに、見境なく営みが行われるはずがない。しかも、街じゅうが戦場になろうとしている、こんなときに。


「うおおおいっ!! みんな死ぬのが怖くなって、頭がおかしくなっちまったというのかああぁっ!!?」

「ううん、違うよ加茂吉くん。コレはたぶん、術かスキルの効果なのです」


 混乱する加茂吉に対して、優等生タイプの綾乃が答えた。

 あちこちであられもない行為が行われていても、彼女は意外に思われるほどに冷静さを保っていた。


「みんなが一斉に同じ異常行動を起こすのは集団催眠、あるいは幻惑術、人心掌握系スキルの特徴なのです。ここにいる人たちは操られてると思うのですが……。でも、花町一帯の人々が、こんな一心不乱になるほど操られてしまうなんて、ものすごく強力な術なのです!」


 綾乃がそこまで推理したところで、どこからかパチ・パチ・パチと、拍手をする音が聞こえてきた。

 何事かとみんながあたりを見まわしていると、耳のよい天音が音のするほうを指差した。

 彼女が指差した先では……ひとりの男が宙に浮かんでいた。


「クフフフ……ご名答。なかなかに鋭い。だが、私が操っているというのは少し違いますね。私は人間が美しいものを求め愛する感情を、心のままに解き放ってあげているだけなのですから」

「なっ……まさかあなたは……!」


 そこにいたのは、ひとりの男。だが、男か女か分からぬほどに性別の感じられない、美しい顔立ちと声をしていた。

 そして、背中からは孔雀のように鮮やかな飾り羽根が広げられている。その飾り羽根の紋様は、まるで極楽浄土の世界を描いたかのような色彩で彩られていた。

 ……『八百万の(しち)』・華羽孔成(はなば くじょう)、その人であった。


「ちょっとちょっとちょっとー!! あなた、なんで街の人々にこんなことさせるのよッ!! ホント、信じられないわよ!!」

「そうだそうだ! 俺の大事な後輩たちに、なんてハレンチなものを見せてくれるんだ、まったく!」

「…………(もしかして、夜鷹くんがここにいたら私のことを……そしたら『既成事実』が……って、ダメよ! 私ったら何考えてるのよー!)」

「ヒナ、どうしたの?」


 ひとりでポーッと赤くなったり、頭をブンブン振ってるヒナの様子を、天音は怪訝そうに見つめていた。


「クフフフ。なぁに、ちょっとした実験ですよ。ちゃんと私のスキルが思いどおりに機能するかどうかのね。そして、私のスキルは問題なく機能することが確認できた。私の狙いを実現させるのにじゅうぶんなほど、ね」

「あなた、いったい何が狙いなのです……!?」


 そのとき、綾乃の鼻先を何かの香りがくすぐった。

 甘い香り。嗅いでいると、頭がぽーっとして、体が熱くなって、フワフワしてきて……。

 そこで彼女は、ハッとした。


「みんな! この匂いを嗅いではダメなのです! 敵の攻撃は、もう始まっているのです!!」

「!!? なんだってぇ、綾乃!!!」


 相変わらずのオーバーリアクションで驚きを表す加茂吉。

 慌てふためく彼の背後に忍び寄り、その首筋を斬ろうと狙ったのは……早乙女ヒナであった。


「加茂吉くん、危ない!!」

「!? うわっ!!!」

「ヒナっ!?」


 すんでのところで天音が加茂吉を突き飛ばし、事なきを得た。

 しかし、あと少し遅ければ、加茂吉は首筋を深く斬られて命を落としていただろう。


 みんなが異常に気づき、ヒナから距離を取る。

 彼女は宙の1点を見つめたまま、恍惚とした表情を浮かべていた。明らかに『混乱』、あるいは操られている状態である。


「クフフフ。ここにも、美の探求に魅入られた者がひとり。よほど強く心に求めるものがあるとお見受けしましたよ」

「ちょっとアンター!! 早くヒナのこと、元に戻しなさいよッ!!」

「クフフフ! 戻す必要などありませんよ。どうせあなたがたもここで私の傀儡(くぐつ)となるか、死ぬかのどちらかなのですから。ちょうどいい、時間を持て余していたので、少しばかりあなたがたの相手をしてさしあげましょう!」

「「ッ!!」」


 こうして、華羽孔成と操られたヒナ、そして他の同期たちによる戦いが始まった。

 ……しかし、それは戦いとも呼べぬほどに一方的なもの。ほんの一時も過ぎぬうちに同期たちは瀕死の重症を負わされ、倒された。

 あとに立っているのは無傷のヒナと、華羽孔成のみであった。


「ううぅ……」

「ガハッ! ……くそぉ……」

「クフフフ……。憐れですねぇ。これから私が造りだす美しき世界を見ずして死ぬことになるとは。ですが、この憐憫の情こそ、私の新たな美への探求の糧となる。華となって散るがいい!」


 そうして、華羽孔成の背から生える飾り羽根から無数の羽根が撃ちだされ、倒れている美鈴たちめがけて飛んでいった。


 もはや美鈴たちにその攻撃をかわす術はなく、死を待つよりほかはないと思われた、そのときであった。

 孔成の羽根は、見えない何かによって宙で弾かれた。


「! この術は……」


 孔成が通りの先へと目を向けたとき、そこにはふたりの男が立っていた。


「孔成。貴様、いったい何をしている……。お前が殺そうとしているのは私の教え子にして、お前の後輩たちだぞ!!」


 白髪混じりの髪に、顔に深く刻まれた皴。普段は生徒たちに向ける優しいまなざしが、今は怒りに満ち満ちている。

 最古の忍の家系にして、忍術アカデミーの名講師中の名講師。

『忍術マスター』、(うつみ) 猿鳶(さるとび)!!


「コボ、コホ。久しぶりだね、孔成。よかった、間に合って。今ならまだ、君の暴走を止められる……」


 銀髪で、色白の美青年。その存在感は立っているだけでも消え入りそうに弱々しい。

 だが、宿敵へと向ける彼のまなざしの鋭さは、かつて天才忍者として名を馳せた才能の片鱗を垣間見せていた。

 元・『八百万の漆』、宗方啄木(むなかた たくぼく)!!


 このふたりの登場によって、華羽孔成は一気に劣勢に立つこととなる。

 ……しかし、彼の顔に浮かぶのは、恍惚にゆがむ、狂気の笑みであった。


「クフフフ……。なんと美しき宿命なのか。私が全てを手に入れるこの日に、目障りな者どもを自らの手で葬りさることができるとは!!」


 華羽孔成 対 慈猿鳶・宗方啄木。因縁の戦いが今、始まる。



 ーーここは将軍の居城へと続く大通り。

 左右を白い城壁で仕切られた砂利道。通りに沿って植えられた桜並木の蕾が今か今かと開花の時期を待ちわびている。


 この美しい大通りでは、将軍の親衛隊が厳重に防衛の陣を張っていた。さすがに反乱軍の進行も、いまだこの大通りには及んでいなかった。

 だが、この厳戒体勢のなかどこから忍びこんだのか、まるで散歩のような気楽さで歩く者がひとり。


「さぁて、こんだけ騒げば民草も満足だろ。怪我人が増える前に、とっとと終わらせるとするかねぇ♪」


 ……慶兆が軍を動かしたのは、反乱を起こす大義名分があったことを民衆に示す必要があっただけ。

 革命を達成したあとに民衆が納得するよう、理想の英雄像を演出する必要があっただけなのである。


 しかし、圧倒的な『個』の力の前では数は意味を成さない。

 結局のところ、彼女が将軍の居城を攻め落としさえすれば、それで全ては終了するのである。


『八百万の壱』、雲雀(うんじゃく)アシュナ。この国最強の忍である。


「アシュナ殿、そこでお立ち止まりくだされっ!! ……はふんっ……」


 相対する者どうしにあまりに力の差がありすぎるとき、強き者に接近されただけで気絶してしまう現象・『衝座(しょうざ)』。

 将軍の親衛隊に所属する者たちは幕府軍のなかでも選りすぐりの精鋭たちであるはずだったが、アシュナの前では一介の雑魚にすぎなかった。


 このまま彼女はなんなく将軍のもとへとたどり着き、目的を達成するであろう。

 そうして、この歴史的な革命騒動は終止符を打たれる。その場にいた誰しもがそう思った、そのときであった。


 将軍の居城の真上、天空高くそびえ立つ風車の先。どこまでも澄みわたる青空に、突如として暗雲が立ち込め、雷鳴が鳴り響きはじめた。

 暗雲はたちまちドス黒い雲となり、雷電を孕みはじめた。……そして、ひと筋の雷が空を切り裂き、地へと落ちた!!


「ゴルァアアアアアアアアアアッ!!!」


 雷とともにアシュナの前に現れたのは、獣のように獰猛な顔つきの男。虎の毛皮を身にまとい、肩には干からびた猿の頭を載せている。

 全身から雷電をほとばしらせているこの男は、アシュナへと敵意を剥きだしにして、彼女のことを睨みつけた!


「雲雀アシュナぁっ!! てめぇをこの手でぶっ潰す日を心待ちにしてたぜぇ。ここから先は通さねぇぞ、ゴルアァッ!!!」

「ふふん、ずいぶん久しぶりだねぇ♪ あたしも前からお前に言いたかったことがある。……猿なのか虎なのか、統一しろよ!」


 ……最強の忍を前にして、全く怖じけつかぬ度胸、引けを取らぬほどの闘気。

 獰猛な本性を剥きだしにして吠える姿は、まさしく獣そのもの。


 彼こそが『八百万の弐』、鵺野天神(ぬえの てんしん)!!

 この国に3人しか存在しないSランク、その最後のひとりである。




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