逆転の秘策
◇
ようやく狂乱から受けたダメージから脱した俺は、湖水さんに加勢しようと駆けだした。
ーーすげぇすげぇすげぇ! 湖水さん、めちゃくちゃ強くてカッコイイぜ。
俺が湖水さんの力になれさえすれば、狂乱に食らいつけるかもしれない……!
「湖水さん、加勢しますっ!!」
「「!!」」
狂乱はぬかりなく湖水さんと交戦しながら、迫りゆく俺のことを一瞥した。
「ふぬぅ。この男の手助けがあったとは言え、あの一撃を受けてもう立ち直るとはのぅ。思いのほかイキのいい小童じゃ。だが、若者を勢いづかせるのは危険! 悪いが一気にカタを付けさせてもらうぞ!!」
そう言うと狂乱は舞うように『騒乱鳴子』を振りまわし、自身の周囲の空間を激しく震わせていった。
「祭り囃子じゃ、騒ぎたてよ!! 『狂夜騒祭』!!!」
狂乱が『騒乱鳴子』で空間を叩くやいなや、空気中の見えない分子や原子が激しく振動、互いに共振現象を起こして更に振れ幅を増幅させていく!
距離が離れるほど無限に増大してゆく破壊エネルギー。その技は数十キロメートル四方を更地にすることが可能なほどの威力を秘めていた。
あとに残るのはまさしく、狂乱の夜が過ぎた跡を見ているかのような光景である。
「夜鷹くん、全力で防ぎますよ!! 『白水面』、『弐ノ口』!!」
「はい、湖水さん!! 結界忍術、『円羅護環』!!」
俺と湖水さんは並び立ち、協力して防衛を図った!
湖水さんは自身と俺の前に『湖面』を形成して水を噴出し、狂乱の技との相殺を狙う。
一方、俺は中級結界忍術を発動させた。初級結界忍術『羅亀沙』の強化版であり、円環の結界を張ることができる。
「はあああああぁっ!!」
「ぐうううぅぅっ……!!」
……あまりにも激しい、力の奔流。衝撃に飲みこまれて、存在ごと消えてしまいそうだ。
俺と湖水さんは何度もうちひしがれそうになりながらも、なんとか狂乱の攻撃を最後まで耐えきることができた。
だが、ふたりとも既に体はボロボロで、ほとんど全ての力を使いきっていた。
「ハァッ、ハァッ、ハァッ……。大丈夫ですか、夜鷹くん」
「え、ええ。なんとか……ゴフッ!」
俺は先ほど腹を打たれたダメージも残っており、また血を吐いてしまった。
普段から色白な湖水さんも、今は色白を通り越して顔面蒼白な状態だ。どちらも、限界に近い。
対して、狂乱は俺たちを見おろして高笑いをあげている。
あれだけの威力の技を放っておきながら、まだまだ余力があるのだ。なんという怪物……!
「阿伽伽伽! よく持ちこたえたほうだが、終わりじゃな。さて、白戸湖水よ。今からオヌシも封印して、諸国列強への見世物となってもらうぞ!」
クソ、化け物オヤジめ! また好き勝手なことを言いやがって。
俺は悔しさで歯噛みしながらも、必死に頭をめぐらせていた。何か一矢報いる方法はないか……。
だが、勝負をあきらめていないのは湖水さんも同じだった。
「夜鷹くん。私は全力で攻撃できるのはもって1回のみです。君はまだ戦えますか?」
「ええ、俺も攻撃できるのはせいぜいあと1回だけです。……湖水さん、どうせ負け戦なのなら、俺の作戦に乗ってみませんか?」
「作戦……?」
俺は思いついた作戦を、小声で湖水さんに伝えた。湖水さんは驚きでその碧い瞳を、大きく見開いてみせた。
「なんと……! しかし、夜鷹くん。それでは君が……!」
「大丈夫です、湖水さん。俺を信じて、任せてください」
湖水さんは俺の話を聞き終えると、『導』を操作した。あたりにユラリと霧が立ちあがりはじめた。
「……分かりました。夜鷹くん、君に私たちの命を預けましたよ」
『湖上の狭霧』!!
湖水さんが術を発動させると、たちまちあたりに深い霧が立ち籠りはじめ、視界が奪われた。
水遁系の撹乱忍術。宙をただよう霧は視界を遮るだけではなく、気配や『導』の流れをも覆い隠す。
しかし、視界を奪われても狂乱に動揺する素振りは見られない。
「阿伽伽伽。霧に隠れて、不意打ちでもするつもりか? だが、霧のような粒子の操作はワシの得意中の得意。こんな靄など片手で振りはらってくれるわ。破ッ!!」
狂乱が片手で振りはらう仕草を行うや、霧はたちまち晴れていく。霧の粒子の『振動』を操作し、思うがままに操っているのだ。
そうして、霧のなかから湖水の姿が露わとなったとき、狂乱はすかさず襲いかかった!
「男がコソコソ隠れておるでないわ! はじけ散れぇいっ!!」
狂乱が湖水へ『騒乱鳴子』を振りおろそうとした、そのとき。彼は異変に気がつく。
……見当たらないのだ。湖水とともに身を潜めていたはずの、鳴瀬夜鷹の姿が。
ーーあの小童は、どこに行った!?
……もちろん、俺は消えたわけでも、逃げだしたわけでもない。
湖水さんの固有スキルである『潜湖』。これは『白水面』の能力の延長にすぎない。
『湖面』の奥に広がる亜空間をちょっと借りて、身を潜めさせてもらっているだけだからだ。
さらに『白水面』は『湖面』を形成するまでは、普通の水と区別がつかない。霧の水滴に紛れこませれば、そのまま宙に舞いあがらせることもできる。
そう、俺は狂乱の背後上空、ヤツの死角へと舞いあがっていた。
そして、狂乱へと向けて『湖面』が開かれ、俺は『湖面』の縁へと足をかけた。ヤツはまだ、こちらの位置に気がついていない。
……だが、たとえこのまま俺が飛びかかったとして、それでも狂乱は反応し、俺をはたき落とすことだろう。
俺程度のスピードでは、到達するまでのあいだに察知・対応されてしまうからだ。ヤツは、あまりにも強すぎた。
しかしそこで俺は、湖水さんの力を全面的に借りることとした。
「行きますよ、夜鷹くん。『白水面』、『壱ノ口』!!」
「なんだとッ!?」
俺は湖水さんの術で優しく温かな水にくるまれたのち、猛烈な勢いで撃ちだされた!!
「う お お お お ぉ っ !!!」
言葉では表現できぬほどのスピード、そして背中に感じる圧力。今、俺は背中に海と見紛うほど莫大な量の水を抱えているのだ。
湖水さんの全力に押しだされて、俺は大鷲狂乱へと襲いかかった!!
だが、しかし……!
「甘いわぁッ!!」
「「ッ!!!」」
これほどまでに工夫をほどこしても、狂乱を出し抜くことはできなかった。
ヤツは即座に振りかえり、鳴子で俺を思いきりぶっ叩いてみせた。
「ゴフッ……!!」
「夜鷹くん!!」
「小童、キサマに用はない! このまま死ねぇいッ!!!」
俺はまたも『騒乱鳴子』に叩かれ、今度こそ上体をぶっ飛ばされそうになった。このままだと、腰から上が砕かれて粉々になっちまう!
……だが、これでいい。叩かれるまでが想定の範囲内だ。
マジで、このスキルの応用性の高さには頭がさがるぜ。初めて戦った強敵が河繆氷ってヤツでホントによかった……!
スキル発動、『過冷却』!!!
「なにっ!!?」
衝撃を受けた水を凍らせるスキル、『過冷却』。
俺のことをくるんでいた水が、狂乱に叩かれた箇所から急速に凍りついていく。
と、同時に『氷結ブースト・改』を発動。
……これはあくまで、湖水さんの力を借りた俺の攻撃。『過冷却』の効果によって、水属性だけでなく氷属性も併せもつようになる。
『氷結ブースト・改』により、俺が扱う氷属性の攻撃は威力が5倍……!!
「ぬ お お お お ぉ ッ !!!」
ただでさえ並みはずれた圧力特性をもつ湖水さんの『白水面』、『壱ノ口』。
俺のスキルによって威力が5倍となり、さしもの狂乱も振りあげた鳴子が押しかえされていく。
攻撃を押しかえされて身動きが取れなくなっている狂乱に、俺は『宵食みの翼』で斬りかかった!
「これでどうだぁッ!! 大鷲狂乱!!!」
「ぐああぁっ!!!」
俺は大鷲狂乱が振りあげていた鳴子を持つ腕を、深く斬りつけたのであったーー。




