VS.信楽ヒクイ丸① ー火を喰らう者ー
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西園寺ツグミ・早乙女ヒナの両名が蛇腹婉駝と激闘を繰りひろげていたころ。
祝宴場では明神生駒と信楽ヒクイ丸も交戦していた。ふたりとも刀の使い手どうし、彼らは激しく斬りむすんでいる。
生駒はいったん距離を取ると、刀を鞘に納め、深く身を沈みこませた。
「コオオオオオォォ……!!」
大きく息を吸いこんで、精神を統一させると……刀を鞘から一気に抜きはなった!!
「武藤開心流抜刀術 第参式、『閃』!!」
閃光の瞬きのような、疾く鋭い一撃!
それは速さはもちろんのこと、威力も兼ね備えた必殺の抜刀術なのであった。
「グッ! てめぇっ……!!」
ヒクイ丸はなんとか刀で受けとめたものの、危うく押し負け、斬り伏せられるところであった。
大きくノックバックしたものの、かろうじて持ちこたえる。
だが、すでに生駒は次の攻撃の態勢に入っている。流れるような動作で刀を再び鞘に納め、力を溜めこんでいた。
「俺の攻撃はまだ終わりではないぞ……! 第玖式、『龍』!!」
次に鞘から抜きはなった刀のひと振りは、およそ居合斬りとは思えぬ複雑な軌跡を描いた。
まるで宙を自在に飛びまわる龍のような、流れる曲線。これぞ心の赴くままに刃先を運ぶ、武藤開心流の極意である。
「チィッ!」
予測不可能な太刀筋に翻弄されるヒクイ丸。かろうじて刀で捌ききったものの、腕や脚を掠められ、血の華が噴きだした。
ヒクイ丸はすかさず反撃を試みたが、生駒は油断なく距離を取り、再び剣を鞘に納めた。
ーー行ける! 俺とヒクイ丸の剣の腕は同等くらいだが、抜刀術がある分、こちらが上だ。この勝負、もらった!
技の手応えから、自身の勝利を確信する生駒。
……だが、ヒクイ丸は自身が劣勢であるのにも関わらず、不適な笑みを浮かべていた。
「カハハハハ。意外とやるじゃねぇか。だが、俺がこの程度でオシマイだなんて思ってねぇだろうなぁ!?」
「なに……!?」
「俺は忍じゃねぇから、火遁は得意じゃねぇ。だが、火種ならそこらじゅうにあるから問題ねぇ。てめぇら、火をよこせ!!」
「ッ!!」
ヒクイ丸が合図すると、周囲に控えていた法術師たちが一斉に呪文を唱え、彼に炎を浴びせかけた!
笠をかぶり、黒い法衣を身にまとった男たち。彼らは皆、ヒクイ丸の部下である高山藩の者たちだ。
法術師……呪文や護符によって周囲の自然に働きかけ、奇跡を起こす術を扱う者たち。
自身の外部に働きかけるという点で、忍よりもドルジェオンの『魔導師』に近い。肉弾戦は苦手だが、遠距離からの攻撃に特化している者が多い。
ヒクイ丸は味方からの攻撃を受けて、全身を炎に包まれた。
だが、彼は苦しむどころか、炎のなかで高笑いをあげていた!
生駒が仰天し、目を凝らしてまぶしい炎のなかを見てみると……ヒクイ丸はなんともうまそうに、ムシャムシャ炎を食べていた!
「カハハハハ!! これだ、これだ! 体が熱く煮えたぎり、力が湧きあがる!! 炎がめちゃくちゃうめぇッ!!!」
火がくすぶる薪のように赤みが明滅する彼の黒髪は、炎を食べるほどに赤みを増し、真っ赤に燃えさかっていった。
上着も燃えつきてしまい、彼の上半身が露わとなった。たくましい筋肉はますます膨れあがり、今にもはち切れそうなほどにパツパツとなった。
ーーこれが信楽家の者たちが保有する固有スキル、『火喰い』。炎を食せば食すほどに、爆発的に戦闘力が向上する。
荒くれ者たちが集う武膳高山藩において、その頂点に君臨しつづけることを可能とした驚異の特異体質である!
「カハハハハ……待たせたなぁ! こっからがお楽しみだぜえぇッ!!」
「!!」
ヒクイ丸は剣にまとわりつく炎もそのままに、生駒へと斬りかかった!
体はひとまわり以上大きくなっているのに速度はよりいっそう速く、パワーは桁違いに増幅されていた。
互角だったはずの剣の立ち会いは、生駒が一気に押されはじめた!
「オラオラオラァッ!! おいおい、さっきまでの勢いはどうしたぁ!? また抜刀術ってのをやってみろよ! それとも剣を鞘に納める余裕すらねぇかぁ? カハハハハハハッ!!!」
「くっ……! おのれ……!!」
ヒクイ丸の強烈な一撃を真正面から受けとめ、生駒は吹っ飛ばされてしまう。
地面を擦りながら大きく後退し、壁際まで追いやられてしまった。
圧倒的に強化された力を見せつけられ、生駒は歯噛みした。
ーーなんという強化の度合いだ。攻撃力は倍増どころの騒ぎではない、完全に別人ではないか!
おまけに攻撃には炎属性が付与、刀身はうかつに剣を受ければ骨の髄まで炭になってしまうほどの熱をもっている。
まさしく、反則技だ!!
……エネルギーは、熱量。そして炎は、熱の塊である。炎を直接エネルギーに変えることができたとしたら、これほど効率的な食事法はないだろう。
炎は質量がなく、胃もたれすることがない。おまけに味もコクがあって、それでいてしつこくなく、まったく飽きがこないのである。
「カハハハハ……。この状態は爆発的に力を発揮するが、すぐに腹が減っちまうぜ。おいてめぇら、もっと炎をよこせ!!」
「「ハッ! ヒクイ丸さま!!」」
ヒクイ丸が催促すると、法術師たちは再び彼に炎を浴びせかけた。
『火喰い』状態のヒクイ丸のエネルギー消費は著しく激しいが、すぐに補給できるので燃料切れの心配はない。
法術師たちも術の発動に特化し、熟練した者たちなので、そうそう簡単に力尽きる気配はない。
いくらでもヒクイ丸に炎を提供することができるのだ。
いっぽう、単身でヒクイ丸に挑む生駒は、みるみる体力を削られていく。圧倒的なヒクイ丸の暴虐に屈すまいと、倒れずにいるのがやっとだ。
ヒクイ丸の刀が放つ熱気で気道が焼かれ、呼吸も苦しくなっていた。
「ハァッ、ハァッ、ハァッ……! くそっ……!!」
「カハハハハ、ずいぶんと苦しそうだなぁ。さっさとその身を燃やし尽くして、楽にしてやるぜ!」
ヒクイ丸はそう言うと、自身が溜めこむことができる最大量の炎を、己が剣に注ぎこんだ!!
「消し炭になりやがれ! 『炎熱武霊怒』ッ!!」
「ぐああああぁっ!!」
ヒクイ丸は一気に生駒との距離を詰めると、刀に宿った極熱の炎を惜しみなく放出した!
強烈な刀のひと振りにくわえ、その中心温度は10万度をゆうに超える。生物であれば炭化するどころか、一瞬で蒸発するレベルの熱量であった。
生駒は炎に包まれ、影さえ残さずに消滅したかに思われた。
……だが、炎が収まったとき、彼はかろうじて生き残っていた。全身に重度のやけどを負って倒れ、息も絶え絶えの状態ではあったが。
「ハァッ……ハァッ……ハァッ……」
「フン、とっさに抜刀術を放って熱気を払ったか。だが、すでに死に損ないの状態だな。無駄な抵抗で、余計な手間を取らせやがって」
すべての熱量を放出したヒクイ丸は、元の黒髪へと戻っていた。だが、瀕死の生駒はもはや身動きを取ることすらかなわぬ状態。
ヒクイ丸は悠々と刀をかざし、生駒にとどめを刺そうとした、そのときであった。
「待てぇーーッ!!!」
「……あぁん……?」
そのとき、ヒクイ丸の前に姿を現した者とはーー
今回の場面は次回に続きます。




