地下水路での戦い ~いわゆるチートスキルってヤツ~②
◇
俺と天音はうなずきあうと、ともに走りだした。飛んでくる氷の槍を避け、どんどん河繆氷へと迫っていく!
「ガキャキャキャ! ふたりで来ようが無駄だ! 俺の水の壁はキサマらには絶対に破れん!!」
俺と天音の行く手をさえぎるように、うすい水の壁が立ちあがった! うすい水の壁は柔軟にかたちを変え、俺たちの攻撃に対応してくる。
水としての柔軟性と、瞬間的に凍りついたときの剛性。この柔と剛の組み合わせこそが、ヤツの鉄壁の防御の秘訣なのだ。
……だが、そんな氷水の壁、俺たちの前じゃ無意味だぜ!!
「天音、今だっ!!」
「うん! 行くよ、夜鷹くんっ!!」
天音が先に飛びだし、懐から『天声の笛』を取りだす。そして彼女はその笛を、思いっきり吹いた!
「音響忍術、『伝震波衝』!!」
「なにっ!?」
天音が笛を吹くのと同時に、耳をつんざくほどの高温があたりに響きわたる!
彼女から放出された音波は水のなかをどこまでも進んでいき、振動を衝撃として伝えていった。衝撃を与えられた『過冷却水』は、ことごとく凍りついていく!
河繆氷を護る水の壁は、全て動かぬ氷の塊となった。そして俺は氷の壁を足場にして駆けあがり、ヤツへと襲いかかった!!
「これで終わりだ、河繆氷ォッ!!!」
「ナメるなよ、小僧どもがァッ!!!」
俺は河繆氷の命を奪おうと、クナイを振りかぶった!
……と、そこでふと気づく。
河繆氷が持っている氷の槍。近くで見ると、柄の細かい溝を青く清らかな水がめぐり流れていることが気づく。
俺とヤツを隔ている空間を通じて、とてつもないほどの冷気と妖気を秘めていることが伝わってきた。
ひと目見ただけで、分かる。ヤツが持つこの氷の槍は、バケモノ級のヤバい武器だ!!
……負ける。俺がこのまま刃を振りおろせば、確実に負ける。あんなんクナイでどうせぇっちゅうねん。
と言うかよくよく考えたら、俺はクナイ以外にまともな得物を持っていない。準備を怠るとは、いったい何をしとるんだ、夜鷹くん!
これじゃ戦場に丸裸で行くようなもんだ。……いや、じっさい服は着てきてるから丸裸ではないんだけども……。
とにかく、せっかく転生してきたのにもう死ぬなんて、シャレにならん。
などと俺が脳内で不毛な自責と後悔を繰りかえしていると、『魂珀の腕輪』から救いの声が聞こえてきた。それはひどく冷めた声音だったが、今の俺には天使の温もりのように感じられた。
『まったく、あんたってホントおバカね』
「ひづき!?」
『でもまぁ、格上相手に臆せず立ちむかった勇気を評して、褒美をあげるわ。手を差しだしなさい。……あなたの固有武器よ』
ひづきがそう言うと、『魂珀の腕輪』の宝石が光を放ちはじめた。俺は反対側の手をその光に差しのばすと……。
光のなかから、1本の剣を掴みとった!!
それは、闇夜を飛ぶ鷹の風切羽のように。疾く、鋭く、強く。闇に紛れた獲物を、決して逃したりはしない。……これが、俺の固有武器。
『宵食みの翼』!!
「うおおおおおぉっ!!!」
「ぬりゃあああぁっ!!!」
河繆氷が繰りだす槍の威力は凄まじく、あらゆるものを凍てつかせ、そして砕いたことだろう。
だが、翼を得た今の俺を、そんな氷の棒で捉えることなどできはしない!
翼で振りはらうようにして槍を弾きかえし、そして、真上からヤツの体へと刃を振りおろした!!
「ぐあああぁぁぁ……っ!!! 申し訳ございませぬ、陸雲さまァッ!!」
「夜鷹くん、やった!!」
河繆氷は断末魔の叫びをあげて倒れ伏し、そのまま息耐えた。
俺の背後、氷の壁の向こう側では、天音の喜びの声も聞こえてくる。
……恐ろしく強いヤツだった。
『流河氷』を防ぐ手段がなければ大抵の相手は一撃で殺されているだろうし、俺も天音がいなければヤツに一撃すら与えることができずに敗北していたことだろう。河繆氷に勝てたのは、多くの幸運が重なったおかげだったのだ。
と、俺が勝利の喜びに耽っていると『魂珀の腕輪』から再びひづきの声が聞こえてきた。映像の向こう側から、彼女は水路に落ちた河繆氷の槍を覗きこんでいるようだ。
『! その槍、持ち主の魂が分譲されてるわね。夜鷹、その槍と『宵食みの翼』の刀身を重ねあわせてみて』
「刀身を重ねあわせる? こうか……?」
ひづきの言われるままに氷の槍を拾い、俺の剣を重ねあわせると……。
氷の槍と俺の剣が融合し、一本の剣と化してしまった!!
基本的に見た目は『宵食みの翼』のままだが、今は流れる氷河の気配を秘めているのが分かる。
「いったい、何がおこったんだ!?」
『武器が『合成』されたのよ。そして、武器に宿った持ち主の魂のスキルは『宵食みの翼』を通してあなたにも使用可能となるわ。……あなたが獲得した、新たなスキル』
ゲット・プライズ!
『水属性ブースト』・『氷結属性ブースト』・『過冷却』獲得!!
新たに獲得したスキルにより、水遁・氷遁系の忍術の威力が飛躍的に向上した。さらに、河繆氷の固有スキルである『過冷却』も使用可能となった。
水遁の術にもっと習熟すれば、凍りつく水の壁や、『流河氷』も再現できるようになりそうだ。
……河繆氷の固有武器『流氷河槍』は俺の『宵食みの翼』と合成され、刻みこまれていた魂のスキルも統合されたのだ。
「スキルの統合? すげー!! これが俺の固有武器の能力なのか!?」
『まぁ、その武器はあなたの魂の特性に基づいて創られたものだから、あなた自身のスキルと言えるわね。あなたたちの大好きな、『チートスキル』とでも言ったところかしら? クスクス……』
うーん、チートスキル。なんとも心地よい響き。
異世界転生モノとかで憧れてたけど、こうして自分の手にしてみると実に趣深いものである。
だが、この『宵食みの翼』にはまだまだ秘められた力があるような……。なんだかそんな底知れぬ可能性を感じさせる、我が愛しの相棒なのであった。
『あ、でも武器を『合成』したのは私の能力だから。あまり勘違いはしないことね。そんじゃ』
「あっ、おい……」
ひづきは再びブツンと映像を切り、いなくなってしまった。
まったく、コイツはそういう言い方でもしないと居なくなれないのだろうか? 顔は可愛いが、じつに困った女の子である。
と、そんなこんなしているうちに脇道から加茂吉が走って戻ってきた。手には『かもねぎ刀』、後ろには河繆氷の部下たちもひき連れている。ものすごい形相だ。
「のあ゛ああああぁっ!!! 夜鷹、天音、助けてくれぇっ! ゼヒューッ、ゼヒューッ!! 死んでしまうからあああぁっ!!!」
どこをどう走ってきたか分からないが、彼は無事に五体満足で戻ってきたようだ。
バシャバシャ飛沫をあげて不様に走っているが、なかなかの速力。さすが忍者、足が速い。それにしてもものすごい形相だ。
「くそっ、なんて逃げ足の速いヤツなんだ……」
「! おい、見ろ! 河繆氷様がやられてるぞ!!」
「なんだと!? そんなバカな!!」
加茂吉を追いかけてきた河繆氷の部下たちも、自分たちのボスがやられたことに気がついたようだ。まさか河繆氷が負けるとは思っていなかったようで、一気に浮き足だっている。
……実際、部下たちも残っていたら俺と天音は河繆氷に勝てなかっただろう。引きつけてくれていた加茂吉には感謝だな。
「あんなガキふたりに、河繆氷さまが負けたっていうのか……!?」
「くっ……! 本営に戻って、報告だ!!」
来た道を戻っていく部下たちの背中を俺たちは見届けていた。どうやら、地下水路からの敵の奇襲を無事に食いとめることができたようだ。
「……さて、これからどうする?」
「ゼヒューッ、ゼヒューッ!! ……俺はっ……! 休み゛たいっ……!!」
「バカね、休めるわけないじゃない。まだ城じゅうから戦いの音が聞こえてくるわ。敵の浸攻は終わってないのよ。私たちが今いるこの場所から向かうべき場所は……」
天音の意見を聞いて、俺たちは真上を見あげた。この地下水路は、『巨像』が安置されている御堂へとつながっているーー。