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エンシャント・クルーレ① ー『鳥』の章。異世界上司は美くびれ・美乳・美尻の最強くのいち!? 超絶忍術チートバトル!!ー  作者: 藤村 樹
狂乱の宴

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霧かすむ碧き瞳と異人の血

 俺たちは数日間街に潜伏して情報を集めたが、『大鷲狂乱(おおわしきょうらん)』に関する情報は何も得られなかった。怪しい人影を見たという情報すらないのだ。

 こうも手がかりがないのでは、本当に隠謀が企てられているのかなどと疑いたくなるレベルだ。


 そうこうしているうちに、婿側である信楽家の関係者たちが現地入りしてくる日を迎えてしまった。

 信楽家の一行は華やかな山車(だし)をいくつも引き、数百人の従者が同行している。まるでパレードのような賑やかさだ。


 山車には結納として大量の金銀財宝が積みこまれて、見るもまぶしい。

 また、山車には旗も立てられていて、燃えさかる炎のような紅蓮の旗は、高山藩を象徴する色であるらしい。


 迎えいれる側の氷渡藩の人々としても歓迎ムードであるようで、歴史的な婚姻と変革に、期待で胸を膨らませている様子が伝わってきた。

 まさしく街は、お祭り騒ぎであったのだ。


 俺たちは遠巻きに、パレードの様子を眺めていた。高山藩の人たちが武力行為に及ばないよう、監視する目的もあった。

 しかし、小太郎はお祭り騒ぎに興奮してしまったらしく、大声を出してはしゃいでいる。


「山車だ! 屋台だ! お祭りだっ!! 生駒さん、ボクも遊びに行ってきていい!?」

「はしゃぐな、小太郎。俺たちは遊びにきたわけじゃない。それに、戦うことになるかもしれない連中だ。迂闊に近づくな」

「え~! ちょっとぐらいいいじゃん、ブーブー!!」

「ハハハ……。それにしても、ホントすごい賑やかさですね、生駒さん。山車にあんな金銀財宝も積みこんじゃって。豪勢だなぁ」

「高山藩の権勢のアピールも兼ねてるからな。実際、高山藩は国内でも有数の兵力と財力をもつ藩だ。もっとも、湖水殿と鶴姫殿の圧倒的な『個』の力は、数をも凌駕するが」


 と、数ある山車のうち、もっとも豪華で大きなものが一番前へと出てきた。

 まるでお城の天守閣のようなやぐらが乗ってあり、そのやぐらには巨大な和太鼓と、ひとりの男が立っていた。


 男がバチで太鼓を思いきり叩くと、空気の振動は凍てつく空気をどこまでも伝って広がり、民衆の目は一斉に彼のほうへと向いた。


「カハハハ……。俺サマの到着だぞ、出迎えはまだか?」


 ……赤みを帯びた黒い髪と瞳。赤みは明滅したり、瞬いたりしており、まるで火がくすぶる薪のようだ。

 同じく、赤い光がくすぶる黒刀を腰に差しており、剣士であることが分かる。


 男は不遜なまなざしで、氷渡の人々を見おろしていた。


「生駒さん、あの人は……?」

「あれは信楽(しがらき)ヒクイ丸。高山藩の領主の息子で、此度の鶴姫殿の婚姻の相手だ」

「!!」


 あの人が、鶴姫さんの結婚相手! 

 鶴姫さんの凛として涼しげな雰囲気とは、正反対のように見える。


 ……けど、あの人もかなり強いな。生駒さんと同じくらい……いや、もしかしたらもっと上……?

 生駒さんとツグミさんはBランク上位に相当する武人なので、あのヒクイ丸という男はAランクに食い込んでいるかもしれない。

 まだその実力は未知数だが、さすがは武膳高山藩の頂点に立つ家の者といったところか。


 ヒクイ丸が前に出たのと同時に、氷渡城からも出迎えの人々がぞろぞろと群れをなして出てきた。

 こちらの人々もきらびやかだが、抜きんでて美しく、白く輝く女性がひとり。


『八百万の伍』、真白鶴姫(ましろつるひめ)さんだ。

 鶴姫さんは数人の従者に囲まれながら前へと進んでいき、先頭へと立った。


 それを見たヒクイ丸もやぐらから飛びおりる。彼は深い雪をものともせずにズンズン進んでいく。

 どうやら彼が一歩踏みこむごとに、足元の雪が融けているようだ。


 そうして彼は鶴姫さんの前まで歩んでいくと……いきなり彼女の体を抱きよせた!

 片腕で彼女の背中をグイッと。自分の女だと言わんばかりで、それはもう強引に。

 鶴姫さんは、背中をのけぞらせたままむりやり引き寄せられた形となった。


「カハハ! 会いたかったぜ、愛しの君よ。もうすぐ、お前は晴れて俺の女だ!」


 そうしてなんと、ヒクイ丸は鶴姫さんの口唇を奪おうとした!


 しかしそこでようやく、鶴姫さんは手をヒクイ丸の口元に当てて制した。

 この間、彼女は無表情を貫きとおし、なんの感情の変化も見られない。まさしく、氷の美女といった風体だ。


「ジャリッ、ジャリッ! ヒクイ丸殿。婚姻成立前の男女が、公然で必要以上に接触することは禁じられております。自粛してくださいますよう」


 いつの間にか現れた鶺鴒(せきれい)さんが、警告を発した。

 ヒクイ丸は素直にひきさがり、鶴姫さんからパッと腕を離した。


「カハハ、そうであったな。だが、これほどの美女だ。逸る気持ちも分かるというものであろう?」

「コツン、コツン。その点に関しては同意いたしますが、新郎として節度のある態度をお心がけください」

「カハハハ! 分かった、分かった。俺サマは器がデカイからな。貴様の言うことを受け入れてやろう!」


 ひとまずその場は丸く収まったようで、信楽家と真白家の一同は揃って橋を渡り、氷渡城の城内へと入っていく。


 ……う~ん、それにしてもあのヒクイ丸という男。いかにも悪い感じのイケメンだったなぁ。

 でもまぁ、ああいう雰囲気が好きな女性も多いのだろうなぁ。キケンな魅力、とでも言うべきか。


 と、城に入る一同のなかで、一番後ろを歩く人物の背中が目についた。

 ……後ろ姿だけでも分かる。大勢の人々のなかでも、圧倒的な力を秘めた実力者。

 その男の姿を認めた生駒さんは駆け寄り、彼を呼びとめた。


白戸湖水(しらとこすい)殿っ!!」


 名前を呼ばれて、その人は振りかえった。

 流水のように流れる(あお)き長髪をもち、整いすぎた目鼻立ち。

 湖上をただよう霧のように淡く儚い雰囲気を身にまとわせているイケメン。

『八百万の陸』、白戸湖水さんだ。

 

「あなたはたしか……幕府直属軍所属、明神生駒殿。今回、幕府軍に要請は出していないはず。どうしてここに?」

「湖水殿、お久しぶりです。『不壊城』での戦い以来ですな。今回、我々は幕府の意向とは関係なく動いております。実は、折り入ってお願いがございまする」


 生駒さんは、俺たちが『大鷲狂乱』が隠謀を企ているという情報を嗅ぎつけ、遠路はるばるこの地までやってきたことを説明した。


「湖水殿。『大鷲狂乱』は我が師の因縁の相手。我々は奴らを追っておりまする。願わくば今回の式典のあいだ、我々もこの城の警備に加わらせてはいただけぬか?」

「フム……。幕府に忠誠を誓うあなたたちが無断行動を起こすとは、よほどの因縁とお見受けします。そもそもにして氷渡藩は常に人手不足であり、反対する者はいないでしょう。あなたたちのような強者であれば、尚のこと」


 湖水さんは言葉遣いは丁寧だが、どこか浮世離れしたような感じで、まるで独り言を言っているみたいな喋りかたをする人だ。

 いったいどこを見てるんだろ、この人。


「フッ。強者とはご冗談を、湖水殿。我々が束になっても、貴殿には敵いますまい。ですが、快く受け入れていただいたことを感謝いたします」

「こちらこそ、あなたたちのご協力を感謝します。警備の詳細に関しては、追ってご連絡差し上げます」


 俺らの後ろに控えてる海燕さんもヤバいほどに強く、恐らくAランクでも上位、もしかしたら『八百万』にも匹敵するかもと思っていたが……。

 どうやら『八百万』は、さらにその上を行くようだ。もはや異次元の世界すぎて、どれくらい強いのか想像もつかない。


「私は城内に戻ります。それでは」

「お待ちくださいっ、湖水さま!」

「ツグミ?」


 湖水さんを再度呼びとめたのは思いもかけぬ人物、ツグミさんだった。

 いつも冷静沈着な彼女が、今は感情も露わに訴えかけている。


「湖水さま、不躾にごめんなさい。けど、今回の婚姻、あなたは何も思うところはないのですか!?」

「……それは、如何なる意味でしょうか」

「戦場で、あなたが鶴姫さまと共に現れるところを何度かお見かけしたことがあります。おふたりの圧倒的な力には、いつも驚かされるばかりでしたけど……! その度に、あなたと鶴姫さまのあいだには主と家臣の間柄を越えた、深い絆でつながっていることを感じてきました。その絆が、愛情が、嘘だったとは言わせませぬ!!」

「ツグミ……」

「ツグミさん……!」


 ツグミさんは湖水さんに、懸命に訴えつづけていた。

 ヒナもなにか共感するところがあるのか、必死に涙をこらえながら、彼女のことを見守っている。


「私は、あなたと鶴姫さまはいつか結ばれるものとばかり思っていました。そんなおふたりのことを羨ましくさえ思っていたのに……。湖水さま、あなたは本当に、鶴姫さまの結婚を止めなくてもよろしいのですか!?」

「…………」


 湖水さんはうつむき、目をつむったままツグミさんの話を静かに聞いていた。

 その表情からは何も感情を読み取れないが、どことなく悲しげに見える気がした。

 悲しみを深い深い水の底に沈め、霧で覆い隠しているかのように。


「越津氷渡と武膳高山の統合は、領民たちの永年の悲願。それが、鶴姫さまの御成婚によって現実のものとなるのだ。今さら止める理由などあろうはずもない。それに……」


 そこでようやく湖水さんは双眸をひらき、こちらを見返した。深く澄んだ、碧き瞳。


「主と家臣の間柄だからというばかりではない。私と鶴姫さまとのあいだには、どうしても結ばれ得ぬ理由があるのだ」


 そこまで言うと湖水さんは踵を返し、城内へと戻っていった。

 湖水さんと鶴姫さんとのあいだには、いったいどんな事情があるというのだろう。


「なるほど……そういうことか」

「! 生駒さん、今の話だけで分かったんですか?」

「ああ。恐らくだが……」


 生駒さんは、自分の瞳を指し示してみせた。

 キリッとしたまなざし。彼の黒く力強い瞳が、俺のことを見つめていた。


「彼の深く澄んだ碧き瞳。あれは北方の大陸の人種の色だ。湖水殿には、異邦人の血が流れてるんだよ」


『純血主義』。

 外国人の血が混じることを極端に嫌い、自国の血統を守ることに傾倒する考えかたのこと。

 その傾向は高貴な身分の家柄であるほどに強く、大名家である真白家ともなれば、尚更である。


 つまり、湖水さんは実はハーフであったというわけだ。

 外国人の血が流れているので、大切な藩主の娘と結婚させることなどできないというわけである。


 元いた世界から来た俺の感覚からすれば、なんだそんなことと思ってしまうが、この国の人からすればとても大事なことなのだろう。

塒国(とやのくに)』のように、海外の強国と争っている島国であれば、仕方がないような気もする。


 湖水さんも心の底では、悲しくて仕方がないに違いない。

 藩の領民たちのため、仕える主の血筋を汚さないため……。愛した女性がほかの男と結ばれるのを見守るのは、どれほどツラいことなのだろうか。


 俺たちは湖水さんの悲しき背中が城内へと吸いこまれていくまで、言葉もなく見届けていた。




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