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エンシャント・クルーレ① ー『鳥』の章。異世界上司は美くびれ・美乳・美尻の最強くのいち!? 超絶忍術チートバトル!!ー  作者: 藤村 樹
狂乱の宴

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美しき氷の都『越津氷渡(えっつひわたり)』

 ーー十日間ほど歩いた末、俺たち旅の一向は目的地にたどり着いた。

 本土最北の地、『越津氷渡(えっつひわたり)』。


 藩の境界線をまたいだ途端、猛烈に寒い。いや、ここにたどり着くまでもだいぶ寒かったけど、マジでシャレにならんくらい激烈に寒い。

 この寒さは、氷渡藩が隠しているという『巨像』の効果なのだろうか。

 冷気の範囲は多少揺らぎはあるものの、明確に寒さの『境界線』があるような気がする。


 それにしても、ほんとうに美しい街だ。

 空には常にオーロラがたなびき、雪で覆われた街を照らしつづけている。


 年じゅう雪が融けないらしく、通常の和風の屋敷もあるが、庶民の住居のなかには完全にかまくらで代用してしまっている家庭も多い。

 なんだか冬の北欧の景色に、和風の屋敷が紛れこんでしまったかのようなミスマッチ感が、なんとも面白い。


 さて、景色に見惚れるのはよいが、まずはどこに行けばよいのだろう? やっぱり最初は滞在先となる宿探しかな? 

 どうするつもりなのか生駒さんに訊ねてみると……。


「宿探しも大事だが、その前に行くところがある」

「行くところ……ですか?」

「行くところがあるというより、会うべき人物がいるというべきだ。『氷渡城』に行こう」


 都市の中心に建つ、巨大な城。そこは大名家である真白家の居城である。

 都市の中心と言っても、四方を巨大な凍てついた湖に囲まれているので、城のまわりには雪が積もった湖面が広がるばかりである。

 元いた世界でいうとフランスのモン・サン=ミシェルみたいな感じといえばいいだろうか。

 正面には巨大な橋がかかって街とつながっているが、特に背面には広大な湖が広がっている。


 そして今、城から出て、橋を渡ってくる人物がひとり。その人物のことを、俺たちは橋の終点で待ち構えていた。


「コツ・コツ・コツ……。我に何用か?」


 濡れるような色気のただよう、眉目秀麗な男。

 彼の顔や体のあちこちには綺麗な鉱石や宝石が埋めこまれているが、特に指先には七色に光る小石が埋めこまれており、しゃべりながら指先の小石をぶつけて鳴らすクセがあるようだった。


 ……彼の名は、石鼓(いしこ)鶺鴒(せきれい)

 婚姻の祭司として、国内でもっとも権威のある石鼓家の嫡男。


 彼が此度の婚姻の打ち合わせを終えて城から出てくるのを、俺たちは出待ちしていたのだ。

 婚姻の式典がこの氷渡城で開催されることは公表されているが、その詳細に関しては明かされていない。『大鷲狂乱』の隠謀を阻止するためにも、情報を収集しておきたかったのだ。

 生駒さんが代表して、彼へと挨拶をした。


「婚姻の祭司として名高き石鼓鶺鴒殿とお見受けする。此度の婚姻の式典に関してお訊ねしたいことがあるのだが、お時間をいただけぬだろうか」

「コツ・コツ・コツ。貴殿こそ、武家の名家・明神家の嫡男であるな。明神家の婚礼は、我が家の者が何度か取り仕切ったことがある。だが、斯様な武の者が、なぜここに?」


 鶺鴒さんは眉目秀麗なイケメンだが、その表情や声からは感情がいっさい読みとれない。

 話していると、まるで石を相手に話しかけてるような気分にさせられる人だ。


「コツッ! コツッ! 悪いが、婚姻を結ぶ一族の関係者以外には、式典の詳細を明かさぬしきたりでな。ご遠慮願いたい」

「ごもっともなことだ。だが、その式典を妨害するかもしれぬ不穏な因子があるといえば、いかがかな?」

「コツンッ。コツンッ……? なるほど、情報交換というわけか。全てを教えることはできぬだろうが、話は聞こう」


 ……あ! この人、石を鳴らす調子でそのときの気分が分かる!

 コツコツ言うだけに、コツをつかんだ気分だ。この人、どうしてこんな感じになっちゃうんだろ。面白いなぁ。

 俺たち一向と鶺鴒さんは場所を変え、近くの茶屋へと足を運んだ。


 かまくらのなかに造られた茶屋。建物のなかにはちゃんと囲炉裏もあって、内部は暖かい。

 柚子のような風味の薬草茶は美味しくて、すすると体があったまる。お茶というより、レモネードみたいな味だ。


 体も暖まってきたところで、俺たちは話の本題へと入っていった。

 こちらが相談をもちかけた側なので、まずはこちらが持っている情報を話すこととなった。

 生駒さんが代表して、俺たちがわざわざ『越津氷渡』まで足を運ぶことになった経緯を伝えてくれた。


「コツ……コツ……コツ……。なるほど、裏で『大鷲狂乱』という男の陰謀が絡んでいるというのだな。たしかに、今回の縁談には不可解な点が多い」


 ーー今回の婚姻は『越津氷渡』の大名家・真白家と、『武膳高山(ぶぜんたかやま)』の大名家・信楽(しがらき)家との婚姻である。

 だが、やはり両家は永年にわたって血で血を洗う争いを繰り広げてきた宿敵であり、交わることは今まででは考えられないことであった。


 それが急に縁談にまで話が発展したのは、野蛮な信楽家が、急に態度を軟化させたからであった。

『北の二雄』である氷渡藩と高山藩が統合されれば、たしかにとても喜ばしいことではあったのだけれども。

 これだけの大変革が起こるともなれば、裏で相当の圧力がかけられたであろうことは想像に難くないのであった。


「コツンッ。此度の婚姻に、政略が絡んでいることは間違いないだろう。だが、公家や武家貴族どうしの婚姻に政略が絡むことは何も珍しいことではない」

「鶺鴒殿。此度の式典、取り止めにすることはできぬだろうか? 何か、取り返しのつかない大事件に発展してしまうような、そんな予感がするのだ」

「ゴツッ!! それはならん。たとえ如何なる隠謀が絡んでいようと、依頼された婚礼は必ず完遂する。それが、我が石鼓家のしきたりだ」

「オイッ! 生駒さんはボクのお師匠さまだぞ! お師匠さまがやめろって言ってんだから、素直にやめろよな!」

「小太郎、静かにしてろ!」

「イデッ!」


 小太郎がしゃしゃり出てきたが、生駒さんの制裁のゲンコツで沈められる。

 頭におっきなタンコブを作ってて、ちょっと可哀想。


 鶺鴒さんは、立ち上がり、その場を去ろうとした。これ以上、俺たちと話をするつもりはないようだった。

 だが、彼は店を出る間際に立ちどまり、こちらを顧みた。


「コツ・コツ・コツ……。悪いが、式典を取り止めることはできぬし、詳細を教えることもできぬ。だが……」


 鶺鴒さんは、再び指先の石を鳴らした。 


「コツッ。婚姻の式典の際には、一時的に上空の結界が解除される。大名家どうしの婚姻ともなれば、各地方の藩主たちから祝い状が送られてくるのを無視するわけにはいかないからな」


 氷渡城の上空にたなびくオーロラは、ただの自然現象ではない。あれは、藩土に満ちる冷気を『導』の操作によって結界にしたものなのだ。

 上空から城に接近しようとしても、凍てつく冷気を帯びたオーロラに当てられて墜落してしまう。この結界の維持も、藩主である真白家の役割のひとつなのだそうだ。


 ……たしかに、高山藩の婿方の人々は数百人規模で氷渡城を訪れるだろうが、その人数ではいかに奇襲を仕掛けても、城を陥落させることはできないだろう。

 なにせその城には『八百万』のうち、湖水さんと鶴姫さんのふたりも控えているのだから。


 となると、外部に援軍あるいは伏兵がいると考えるのが普通なのである。

 さらに、城の周囲は凍った湖に囲まれていて、兵を隠しておけるような場所はない。

 離れた場所から飛行、あるいは転移輸送陣で兵士を送り込むしかないのだ。

 いずれにせよ、城の結界が解除される婚姻の式典中は、敵が外部から侵入する絶好のチャンスであるというわけだ。

 

「コツンッ。『大鷲狂乱』という男もまた、武の者であるという話だったな。俺が力に訴えて城を強襲するなら、必ずその瞬間を狙う。……とは言え、『大鷲狂乱』が何を狙っているのか分からぬし、参考程度にすることだな」

「鶺鴒殿……。かたじけぬ」

 

 鶺鴒さんはもう振りかえることなく、お店を出ていった。生駒さんは頭をさげて礼を述べ、彼の後ろ姿を見送った。

 

「……さて、それでは宿探しにでも行こうか」

「そうですね、生駒さん。俺たちも行こうぜ、ヒナ……ってアレ!? いない!」

「ツグミとヒナは鶺鴒のあとを追いかけて走って出ていっちゃったぞー。雷みたいな速さだった」

「ええ!?」


 小太郎が呑気に出口のほうを指差しながら教えてくれた。

 ちなみにこのガキは海燕さんと生駒さん以外に「さん」付けをするつもりはいっさいない。


 それにしても、ツグミさんとヒナは鶺鴒さんのあとを追いかけていってしまって、どうしちゃったのだろうか。

 何かしらトラブルになっていなければよいのだが……。



 鶺鴒はお店を出てすぐ、ツグミとヒナに捕まっていた。外では、粉雪がぱらついている。


「コツ・コツ……。貴殿らも、我に何か用件が?」

「ハァ、ハァ……。石鼓鶺鴒殿、折り入ってお願いがございます……!」

「私たちの恋を、叶えてくださいっ!!」

「コツンッ。……ほう? 我に、恋愛成就の指導をしろとな?」


 ーー婚姻の祭司として名高い石鼓家だが、その手腕が発揮するのは婚姻が成立したあとのことばかりではない。


 彼らは恋愛成就の導き手でもあり、恋に迷う若者たちからは現人神(あらひとがみ)のように崇められているのだ。

 彼らの手にかかれば、どんなに奥手な者でも意中の人を射止めることができるという。

 もっとも、指導しようという気になってもらえたらの話ではあるが。


 額を雪に擦りつけながら土下座をするツグミとヒナ。そんな彼女らを見おろしながら、鶺鴒は指先の石を鳴らした。


「ジャリッ! 我の教えは生半可ものではないぞ。願いを叶えるためには、死よりも辛い修行が待っていると思え。それでも、付いてくるつもりはあるのか?」

「「付いてきます、師匠ッ!!」」


 こつして、『ツグヒナ同盟』は強力な後ろ盾を得たのであった!!




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