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エンシャント・クルーレ① ー『鳥』の章。異世界上司は美くびれ・美乳・美尻の最強くのいち!? 超絶忍術チートバトル!!ー  作者: 藤村 樹
狂乱の宴

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アリサ・デート② ー世界にひとつだけのクサい花ー


 前回の場面の続きです。


「ここよ」

「え、ここ……?」


 たどり着いたのは血に飢えた羅刹が集まる武闘場……ではなく、ごくごく普通の喫茶店であった。

 むしろ、和風で江戸時代くらいの文化レベルであるはずのこの都において、普通の喫茶店やファミレスみたいな雰囲気のお店のほうが異質であるといえる。


「さ、入るわよ」

「あ、はい!」


 カランカラン……。


「イラッシャイマセ~、オ好キナ席二ドーゾ~」


 内装もお店の外見と変わらず、普通の喫茶店やファミレスみたいだ。なんだか元の世界に戻ってきたみたいで、懐かしい気持ちになる。

 玖ノ宮さんは慣れた様子で空いてる席に着いたので、俺もそのテーブルの向かいに腰掛けた。


「よっこらせ……ん?」


 テーブルの端には、なぜか何も差していない花瓶があった。なにか妙な違和感を感じるが……。なぜこんなところに花瓶が?

 でもまぁ、いっか。初めて入るお店だし、細かいことは気にしないこととしよう。


「アリササァン、オヒサシブリネ。ゲンキ?」

「ええ、店長。ご無沙汰ね。冷たい紅茶ちょうだい。牛乳(みるく)入りね」

「あ、じゃあ俺も同じので……」

「ハァイ、ワカタヨー」


 店長と呼ばれたお店の人は、元いた世界でいうとこの南米の人に似てるように見えた。ブラジルとか。

 少なくとも、『塒国』の人とは明らかに違うように見えた。


『ドルジェオン』とか『創』の人たちとも違うけど、そうか、外国人がいるんだから、そのほかの国があってもぜんぜん不思議じゃない。

 きっと、また別の国の出身の人なのだろう。


「ハイ、紅茶デスヨー。ユックリシテイッテネー」

「ありがと」

「あ、どうも」


 俺と玖ノ宮さんはいわゆるミルクティーを受けとると……互いに黙りこんでしまった。


「…………」

「…………」


 うおー、気まずい!

 なんなんだよ、俺はいったいなんのために呼ばれたんだ?

 玖ノ宮さんは、ひたすら手元の機械をイジって、こちらには目もくれやしない。


導式(しるべしき)すまーとふぉん』。じつはこの世界には『導』を動力として、元いた世界のスマートフォンに似た機械を持っている人がいる。

 もっとも、極めて高価であり、庶民にはとうてい手が出せないので普及しているとは言いがたい。

 ほとんどの伝達は伝書バトによる文書のやり取りで行われているのが実情だ。


 とは言え、手元のすまーとふぉんで華麗にクリック & スワイプしている彼女の姿は元いた世界のギャルそのもの。

 他者に踏み入る余地をまったく与えぬ威圧感がある。


 ……俺、ギャルっぽい女の子としゃべったことないから、どう話しかけたらよいのか分からないんだよなぁ。

 元いた世界では超田舎の閉鎖的な村に住んでたから、ガラの悪いヤンキー女子はいても、都会のキラキラしたギャルなんていなかったんだよ。

 もちろん、嫌いというわけではぜんぜんないけどね。むしろファッションとか、とても可愛いとは思う。


 困りはてて手持ち無沙汰なので、仕方なく俺はストローでチューチューとミルクティーをすするよりほかなかった。

 ああ、早く飲み終えて帰りたい。ミルクティーはとっても美味しいケド。



 ーー気まずい沈黙に耐えかねる夜鷹。しかし、じつはその場にいたのは彼とアリサだけではなかったのだ。


(ククク。変装術は見破られてしまったが、変化術こそ間違いなくカンペキだ! 事実、こいつらはまったく気付いちゃいない……。こんなにそばにいるというのにね!)


 テーブルの上に置いてあった謎の花瓶の正体はなんと! 変化術で化けたアシュナであったのだ。

 変装術を見破られて屈辱を受けた彼女であったが、真面目に術を使えばさすがは国内随一の忍。

 その変身は夜鷹たちにまったく正体を悟られぬほどのものであった!


 と、そこへ、店長が再び夜鷹たちのテーブルへと戻ってきた。手には、数本の花束を持っている。


「アリササァン。コナイダ故郷二カエッタトキ二、キレイナ花見ツケタ。トテモキレイダカラ、見セタゲル。ナゼカ花瓶アルカラ、ココニ挿シトクネ」

「この花瓶、店長が置いたんじゃないの?」

「知ラナイ。誰カオ客サンガ置イテッタノカナ?」


 そう言って、店長は花束を花瓶に無造作に突っこんだ。


(あんっ。茎の先っちょが変なトコに当たってる。しまった、体のソコを花瓶の口にしなければよかった。こちょばゆい……)


 その花は、極彩色の花びらをもつ花であった。

『塒国』に生える植物には見られない強烈な色彩ではあったが、たしかに綺麗で、目を引くものであった。だが……。


「へー、綺麗で珍しいわね」

「ホントですね……て、うわ! くっさ!! なんスか、コレ!?」

「故郷ノジャングルノ奥地デ見ツケタ、百年二一度生エルトイウ伝説ノ花ダヨー。コレ見ツケタラ、ラッキー」


 その花はとてつもないほどの異臭を放っていた。

 例えるなら、ドリアンの匂いを十倍濃くしたような臭気。こんなものを鼻のそばに突きつけられたら、悶絶してしまうことだろう。

 当然、花を挿されたアシュナもーー。


(くっはあああぁぁぁ!! くっっっっっさ!!! なにコレ、腐りきったナマモノみたい。花瓶に化けてるから鼻を押さえられない。ヤバい、吐きそう……)



「…………?」


 なんか花瓶がぷるぷる震えて、汗みたいな水滴が浮かんでるような……。

 まさか、そんなことあるわけないよな。なかに入ってる水が冷たくて結露してるのかもしれない。

 ぷるぷる震えて見えるのは蜃気楼かなんかだろう、きっと。


「ちょっと店長、くさいからこの花、持ってってよ!」

「気二イッテモラエナクテ残念。コノ匂イモ慣レルト、クセニナルンダケドネ……」


(あっ、どこ触ってんだコノ野郎。しまった、標的(よだかたち)から離れてしまう。ああ、でも離脱できてよかった。もう吐くのガマンできない……オエッ!)


 店長は少し悲しそうにしながら花瓶を持っていった。

 せっかくの好意で持ってきてくれたものだけれど、くさすぎたから仕方ないね。


「ここの店長、異邦人だし変わり者なのよね。こんな雰囲気のお店、ここしかないからたまに来てるんだけどさ」

「アハハ、そうだったんですね。いやぁ、衝撃的な匂いだったなぁ」

「…………」

「…………」


 玖ノ宮さんは再び、すまーとふぉんの操作へと戻ってしまった。

 くそぅ、せっかく話すきっかけができたと思ったのに。なんでまた黙りこんじゃうんだよ、ちくしょー!


 俺はほかになにか話すきっかけがないかと、あたりを見まわした。

 すると、お店の天井に据えつけられた『導式てれびじょん』から音楽が流れてきた。


 これまた『導』を動力としたテレビなのだが、やはり高価で普及はしていない。

 エレキテル店の店頭のてれびじょんには、いつも人だかりができているのだ。


 てれびのなかの、司会の人のナレーションも聞こえてきた。


『続きまして登場しますのは、今、都で人気絶頂の宮野(みやの)絵心有(えみゅう)さんです! 『恋の無銭飲食』、どうぞ~!!』


♪のっぴきならぬ物価高騰

 そんなに高くしないで価格設定

 とても手出しできそうにないわ

 あなたのココロ 無・銭・飲・食~♪


 明るい音楽とともに現れたのは歌って踊れるアイドル、宮野絵心有ちゃんだ。

 人気があるだけあって、その容姿は元いた世界のトップアイドルにもまったく引けを取らぬほどにかわいい。


 腰をフリフリ、一生懸命歌って踊る姿はなんとも尊く、推したくなる気持ちも分かるというもの。

 みんな大好き、エミューちゃん!


 俺も思わず画面の向こう側にいるアイドルの姿に見惚れて、心の声が漏れてしまった。


「いやぁ。エミューちゃんって、可愛いですよねぇ。ついつい応援しちゃうなぁ」

「(ギロッ!!!)」

「!!? ……って、このあいだ誰かが言ってたような。ハハ……」

「…………(ジィ~)」

「…………(ダラダラ)」


 お、俺、なにか怒らせるようなこと言ったかな!?

 今一瞬、とてつもないほどの怒りを感じた。触れるだけで切れてしまいそうなほどの怒りだ。

 ちょっとてれびに映ってるアイドルが可愛いという話をしただけなのに。


 ……危険だ。あまりにも、危険。

 大した話もなさそうだし、なにかテキトーに理由をつけて、この場を早く立ち去ることにしよう。じゃないと、命に関わる。


「ああぁ、そうだぁっ! 今日は仏滅天中殺大殺界の運勢最悪日でした!! ちょっとお祓い受けて滝打ちしてきますね!!」

「このあいだは、悪かったわね」

「そうそう、このあいだから運勢が悪くて……へっ!?」


 ……ん? なんの話だ!?

 悪かったって、運勢の話じゃないよな……。


 俺は立ちあがろうとしているところを止められたので、中腰の変な姿勢のまま静止することとなってしまった。


「このあいだは言いすぎて悪かったって言ってんのよ。ホラ……誰にでもあるでしょ? なんとなく虫の居どころが悪くなることが」


 ああ。生理痛って言ってましたもんね、バッチリと。

 まぁ、男の子としては素直に教えてくれたほうが「嫌われたのかな?」とか気を揉まずに優しくできるんですけどね。


「いえそんな、命を救ってもらったのはこちらのほうですし、むしろお礼を言わなきゃいけないくらいですよ。機嫌が悪いことなんて、それこそ誰にでもありますし……」

「そう? 優しいのね……。あ、でも! まさか私のこと助けたつもりになってないでしょうね!? たしかに不意を突かれて反応は遅れたけど、自分でいくらでも対処できたんだから!」


 ……『苛戯裏』に後ろを取られたときのことを言ってるのかな?

 ついつい飛びだして手を出してしまったけれど、たしかに玖ノ宮さんは反応できていた。

 わざわざ俺がサポートする必要なんてなかったのだろう。


 でも、必死に言い訳する玖ノ宮さんが、ちょっと可愛く見えてきたような……。


「いい!? ちょっと先に反応できたからって、私より上だなんてカンチガイしないことね。私は『八百万』! この国イチバンの忍のひとりなんだから、甘く見ないことねーー」

「甘くなんか見てません!!」

「!!?」

「玖ノ宮さんの攻撃……あんなスゴい攻撃、はじめて見ました! あれだけ激しい攻撃をずっと撃ちつづけてて、メチャクチャカッコよかったですよ!!」

「!! ッ……!、!!、!!!」

「俺も玖ノ宮さんみたいな強い忍になりたいと思いましたもん……。俺の理想、俺の憧れの忍のひとりです!!」

「!!!! …………ア、ア、アリガト」


 ……もともと中腰になっていたせいもあって、つい前のめりになってしまった。

 勢いに任せて情熱的に語ってしまったので恥ずかしい。

 俺自身、最近では忍として強くなるのが楽しくて仕方なくなっていたので、つい熱くなってしまったのだ。


 気がつけば玖ノ宮さんの顔が目の前にあって、困惑したような表情をしていた。

 俺の忍としての意気込み・熱量が伝わったのか、彼女の顔も真っ赤に燃えあがっている。熱血!


「あ、スミマセン。つい熱くなっちゃって」

「べ、別にいいけど……」


 そこでようやく、俺は自分の席に腰をおろした。

 玖ノ宮さんは熱血で頬を赤らめたままだが、すまほをイジらずにこちらを見てくれている。

 今度は話の相手をしてくれそうな様子だったので、気になっていたことを聞いてみた。


「ところでアシュナさんとは、どんな関係なんですか? なんか顔見知りな雰囲気でしたけど」

「ああ、アシュナは私の親戚よ。ちょっと遠縁だけどね」


 ーー玖ノ宮家は公家、すなわち上級貴族だ。しかも『塒国』でも有数の名家で、特に神事祭礼の際に大きな役割を果たしているらしい。

 玖ノ宮さんはこんなギャルみたいなナリをしていて、めちゃくちゃイイトコのお嬢さんであったわけだ。

 まぁ、これだけの美貌と強さなので、只者でないとは思っていたが。


 そしてなんと、アシュナさんにもその高貴な血が流れていたというわけなのだ!


「玖ノ宮家が本家で、雲雀家は分家もいいとこなのに、アシュナみたいな突然変異が生まれてウチの面目は丸潰れよ。だから、アシュナは本家の長老たちから疎まれてるの。まぁ、この国でイチバン強いのは認めるけどね」

「そうだったんですね……。でも、玖ノ宮さんとアシュナさんはそんなに仲悪くなさそうに見えますね?」

「私には家のメンツなんて知ったこっちゃないし、小さいころは遊んでもらってたから。イジめられて、よく泣かされたけどね」


 なるほど、玖ノ宮さんから見れば、アシュナさんは「親戚のお姉ちゃん」であったわけだ。

 ホントは今ももっといっしょに遊びに行きたいけど、家の事情が許さないんだろうな……などと、勝手に想像してみる。

 さっきはアシュナさんを安易に追いはらわなければよかったかな。そういえば今ごろ、アシュナさんは何やってるんだろ。


(※お店の路地裏

「オ゛エエエエエエェェェ……ッ!!」)


 と、玖ノ宮さんはすっくと立ちあがった。


「今日は付き合ってくれてありがと。私、お花の稽古があるからもう帰るわ」

「あ、こちらこそ、いろいろ教えてくれてありがとうございました!」

「……私、こんな家の生まれだから、こういうお店にいっしょに行く友達とかいないの。今日だって公務の合間を縫ってこっそり抜けだしてきたし……」

「あ、じゃあまた機会があったらお話ししましょうよ! 忍術のこととか、教えてもらいたいですし。忙しいでしょうけど、暇なときにでもまた声かけてくださいよ」

「え……いいの?」

「もちろんですよ」

「ホントにホント?」

「本当です」

「じゃあ、絶対ね」

「え゛?」


 玖ノ宮さんは強気に胸を張ると、ビッ! と人差し指を俺に突きつけた!


「暇ができたらまた定期的に声かけるから、私が呼んだらすぐに来ること! あと、私のことは名字じゃなくて名前で呼んで! いい?」

「ア、アリサさん……?」

「さん付けはダメ! 敬語も禁止!」

「分かったよ…………アリサ」


 そこまで言ったところで、ようやくアリサは満足したようにうなずいた。


 ーーあれ? 俺もしかして、定期的にデートに行く約束を取りつけられてる? 

 しかも相手は公家なのに、タメ口で話すようにだなんて……。


「あっ、もうこんな時間。帰んなきゃ」


 アリサはお店の壁にかけられた時計を見あげてそう言うと、さっそく帰り支度を始めた。

 彼女は立ち去り際、一度だけこちらを振りかえった。この日初めて見せる、満面の笑顔で。


「じゃあ、またね♪ 夜鷹!」

「ッ!!!」


 ズキュン!!


 ヤバい、最後の笑顔にやられた。あれだけツンツンしてたのに、最後の最後であんな屈託のない笑顔を見せるなんて。


 このギャップがもたらす、破壊的な攻撃力。

 こ、これがもしかしてあの伝説の……!

『ツンデレ』……?


 俺はドキドキして何も考えられぬまま、いつまでも彼女の後ろ姿を見送っていたのであった。



 ボーゼンとして見送ってたら、支払いはいつの間にかアリサが全部支払ってしまっていた。さすが名家のお嬢さま、太っ腹である。

 でも、今度からは支払わせてしまわないように気をつけなきゃな。


 基本はワリカン、できればこちらが少し多めに払う。

 向こうのほうがよほど大金持ちなのだろうけど、そこは男としての意地を見せたいところなのだ。


 さて。思ってたよりは早く解放されたので、身支度を整えて訓練に行くか、ギルド本部に新しいクエストを探しに行こう。

 そう思ってアシュナさんのお屋敷に戻ったのだが、誰かお客さんが来ているようだった。


 いったい誰が来ているのかな?

 その来客こそが、新たな事件の幕開けとなるのであったーー。




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