Cランク昇格!!
◇
戦いが終わり、幕府やギルドの関係者による立ち入り調査が入った。
大量にぶち撒けられていた血肉は、玖ノ宮さんの攻撃によって霧散し、絶鬼の消滅とともに浄化されていったので、思いのほか綺麗になった。
だが、村の家屋はほとんど倒壊し、跡地のようになっている。村人・観光客・クエスト参加者、いずれも多数の死傷者が出ていた。
村のはずれにあった色とりどりの綿花畑だけが無事に残り、今は虚しくたたずんでいた。朝焼けの光に、照らされながら。
まひわさんは幕府の奉行人に連行されていった。
絶鬼の体内に取り込まれていた彼女だったが、血肉にうまく包みこまれて、無傷で済んだ。
玖ノ宮さんも、敏感に人間の気配を察して、そこだけ避けて攻撃していたものらしい。
「鳴瀬さま……」
まひわさんは別人のようにやつれていた。守ってきたものを、すべて失い。連行される間際、彼女は縋るような目で、俺を見ていた。
人間の遺体を分解し、地に埋めた罪。妖魔を呼び寄せ、隠匿していた罪。
彼女が犯した罪が、許されるものなのかどうか、俺にはわからない。だけど……。
俺は彼女のもとに歩み寄り、彼女の手を両手で握りしめた。
「まひわさん。もしあなたの罪が許されて、解放されて……。それでもし困ったことがあったときは、俺のもとを訪ねてください。俺にできることであれば、手助けしますから」
「うっ、うぅっ……。鳴瀬さま、ありがとうございます……!」
まひわさんは涙を流しながら、奉行人に連れられていった。
彼女が先祖から引き継ぎ、守ってきた村は失くなってしまった。
彼女が罪を許されて外に出てきたとき、生きがいとか、生きる術を失って、途方に暮れてしまうんじゃないかと思ったんだ。
そのとき俺に、何ができるかは分からないけれど……。
とにかく早く、彼女の罪が許されるといいな。形はどうあれ、彼女は村を守る使命を引き継ぎ、懸命に生きてきただけなのだから。
さて、緊急クエストも終え、都への帰途についた。
行きは1日で急いで走っていったが、帰りはゆっくりと。寝込んでいたので背負って進んでいた美鈴も、やがて目を覚ました。
道中、ともに戦ってくれた仲間たちと別れを告げていく。
「椋居さん……。今回は駆けつけてきてくれて、本当にありがとうございました」
「ボクは自分の故郷の森を守るために戦っただけだよ。むしろ、脅威の存在を教えてくれてありがとう」
最初に、椋居さんの住んでる森を通り
かかったところで、彼と別れた。
彼はギルド所属の者ではないので、都のギルド本部まで戻る理由がないのだ。
「椋居さんの森がいつまでも平和なまま残っているように……。俺はまた、この国のために戦いつづけますね」
「うん。そのときはボクもまた、君とともに戦うよ。緑を大切にね」
「はい!」
彼はそう言って、森の奥へと歩いていった。歩くのが非常にノロいけど、いつになったら家に着くのかちょっと心配になる。
……めちゃくちゃノンビリ屋で最初は驚いたけど、実はすごい頼りになる人だった。またいっしょに戦える機会があるといいなぁ。
次に、飛蜂さんと別れた。
ギルド本部に着けば報酬が発表される予定となっていたが、このまま次の任務へと向かうそうだ。報酬の内容には、とくに興味がないらしい。
「カチッ、カチッ。鳴瀬夜鷹。お前が吉備川美鈴が取り憑かれたのに気づかなかったせいで、俺が割を食った。これがどういうことか、分かってるんだろうな?」
「…………スミマセン」
「うぅ~! ううぅ~!! ごめんね、夜鷹くん。私が乗っ取られたせいでぇっ!!!」
「泣くなよ、美鈴。俺のせいでもあるし、鳴瀬も怒ってないぜ」
帰りの道中、飛蜂さんからはず~~~っとチクチク言われつづけた。痛いトコ突くなぁ、この人は。
刺された所が赤くジンジン腫れて痛むような感じだよ。おかげで隣の美鈴も涙目じゃないか。パッチリおめめをウルウルさせててカワイイ。
だが、いよいよ別れ際というところで……。
「ブブブブ……。だがまぁ、そのあとの戦いぶりは見事だった。鳴瀬夜鷹、お前の強さはDランクをはるかに超えている。Bランクのなかでも遜色ない。上位ランクに上がってくるのも、そう遠くはないだろう」
「! 飛蜂さん……」
「ランクがひとつ上がるごとにクエストの難易度も、ライバルたちのレベルも跳ねあがるからな。せいぜい体を壊さぬよう、気をつけてがんばれよ。ブブブブ……」
そう言うと、飛蜂さんは振り返りもせずに、立ち去っていった。
……そう言えば飛蜂さんは薬師、つまり医師や薬剤師の家系だって言ってたなぁ。元いた世界でもお医者さんには偏屈に見える人が多いけど、じつは優しい人なのかもしれないな。
上位ランクに上がっていけば、また同じクエストのなかで出会うこともあうだろうな。
ギルド本部に到着して、今回の緊急クエストの報酬が発表された。
目だし帽から、ミミズクのように長い眉毛とまつ毛。副ギルド長の御影ミミズクさんが、長ぁ~い目録を持って読みあげはじめた。
目録にはクエスト参加者の名前と功績、そして報酬の内容が書いてあるのだ。
今回の緊急クエストは、事前に想定されていたよりもはるかに危険で、重要なものであった。
当然、与えられる報酬も大きく、CランクやDランクの人たちにとっては普段、考えられないほどの豪華さだ。
名を呼ばれた人々は、次々に喜びを露わにしている。そして、名を呼ばれるのを待つ群衆のなかには、嘴黒クンの姿もあってーー。
「次に、嘴黒咲紀仁殿」
「はっ!」
副ギルド長に名を呼ばれて、嘴黒クンが前に出た。
会場も、一気にざわめきたった。大型新人として、期待されてる証拠だ。
「嘴黒殿。其方は新人にして、Bランクに恥じぬ活躍を示した。今回はBランクに留まるが、もうひとつ大きな手柄をあげれば、Aランクは確実。ひきつづき、精進なさいますよう」
「……承知!」
嘴黒クンが褒章を受けとると、会場からは大きな拍手が湧きおこった。
報酬も、ここまで発表されたクエスト参加者たちのなかで最も大きなものだ。さすが嘴黒クン、スゴいなぁ。
……あれ、でも、まだ俺の名前が呼ばれていないような……。
「次に、鳴瀬夜鷹殿!」
「! はい!」
名前を呼ばれて、慌てて前に出た。
どうやら、呼ばれるのは俺が最後みたいだ。会場はうってかわって、シンと静まりかえった。
「鳴瀬殿、其方はDランク昇格直後でありながら、『苛戯裏』の討伐において中心的な役割を果たした。『八百万』玖ノ宮アリサ殿の助力があったとは言え、その働きは殊勲に値する。以上の功績を讃え、貴殿をCランクへ昇格とする!」
これには、会場がざわついた。あちこちで、なにやらウワサする声が聞こえてくる。
「おいおい、Dランク昇格直後だろ? ひとつのクエストで昇格なんて、ありえるのかよ!?」
「嘴黒といい、あの鳴瀬とかいうヤツといい、今年の新人はどうなってるんだ!」
「俺、もうランク抜かれた……」
う~ん。目立ちすぎるのはよくないが、なんだか悪くない気分。元いた世界では、こんなことなかったな。
副ギルド長のミミズクさんは、俺にだけ聞こえる小さな声で話しかけてきた。
浮かれていたところに話しかけられたので、ちょっとドキッとしてしまった。
「鳴瀬殿。確認された情報により、貴殿がすでにBランクに食いこむだけの実力を得ていることは認識しております。ですが、ギルドは貴殿が周囲を納得させるだけの実績を積み、自力で這いあがってくるのを望んでいます。精進なさってください」
「……はい!」
俺はありがたく頭をさげて、褒章を受けとった。会場では、その日1番の拍手が湧きおこっていた。




