弱者の反撃 パート2!!
前回の場面の続きです。
◇
……煙の顔の体内の、奥深くに取り込まれた綿矢まひわ。深い深い煙のなかで、彼女は絶望にうちひしがれていた。
ーー生まれついたときから、この村の長として生きることが定められていた。
初めて畑に埋めたのは両親の亡骸だ。そこから、自分が人間ではないものになってしまったかのように感じられた。
恋人も、自分の手で埋めた。将来を約束したが、すぐに死んでしまった。
この村で生きていくのは辛くても、彼さえいればきっと幸せだと思えたのに。
全てはこの村を守るために生きてきた。だが結局、村は滅び、新たに訪れた鳴瀬さままで目の前で殺されてしまった。
いったい、私はなんのために生きてきたのだというの?
もういや、もう無理。こんな人生、もう……。
「いやあ゛ああああああぁっ!!」
自身の体内であげられた叫びに呼応するかのように、煙の顔は歓喜の表情を浮かべた。
『!! クァックァックァッ、すばらしいぞ、まひわ! 絶望、怒り、憎しみ。鳥肌が立つほどの負の感情だ。この負の感情こそが、我が肉体と精神の糧となるのだ!!』
煙の顔のもとへと『苛戯裏』が引き寄せられていく! 煙の顔が肉付けされ、その恐ろしい形相が露わとなった!
個々がCランク以上の個体が1箇所に集まることで、急激に呪力が上昇していく。先ほどまでとは比べものにならない、真の脅威を感じる!
『クァックァックァッ! 真の地獄を見せてくれようぞ、人間ども!!』
そのとき、気を失って倒れていた美鈴が目を覚ました。
寝ぼけ眼をこすってムクリと起きあがり、あたりを見まわした。
「んん~…………ハッ!」
目の前には異形の怪物、自身が手に握るのはベットリと血糊のついたクナイ。脇腹に血の染みをつけながら、敵へと立ち向かっている夜鷹……。
うっすらとだが、意識を乗っ取られているあいだの記憶がある。
それは薄膜を張ったようにボンヤリとしていて、まるで他人の記憶を覗き見ているかのような感覚であったが、間違いなく自分の記憶だ。
自分が夜鷹を刺してしまったのだ。
操られていたとは言え、自分のこの手で……。
「人を操ってヒドイことをさせるなんて、許さない。それも、大切な仲間を傷つけさせるだなんて……!」
彼女は立ちあがる。胸のなかに、煮えたぎるほどの怒りを抱えて。
そして彼女はその怒りを、そのまま口から吐きだした!!
「私になんてコトさせんのよ、このバカぁーーっ!!!」
『なにっ!?』
固有忍術、『宙砲』!!!
『グオオオオオオッ!!!』
美鈴は口から強烈な破壊光線を吐きだし、煙の顔のど真んなかを撃ちぬいた!!
その威力は凄まじく、肉付けされていた煙の顔を貫き、村の半分が消し飛んでしまうほどであった。
ーー通称、『チュン砲』。
美鈴は怒りが頂点に達したとき、1回の戦闘で1度だけ、超威力の破壊光線を放つことができる。
1度放つと数日は寝込んでしまうが、その威力は直撃すればAランクの者をも脅かすほど。
現在の彼女はDランクだが、もしこの技を使いこなすことができたなら、彼女はまだまだ上位を目指せるだけの素質を秘めているのだ!
「ハラホロヒレハレ……」
「美鈴っ!」
技を発動し終えて、力なく倒れる美鈴。とっさにセンパイが受けとめ、彼女を抱きかかえた。
『おのれぇっ、小娘の分際で……! だが、この程度で我を倒すことなどできぬわっ!!』
中央に大穴が開いていた煙の顔だが、みるみるうちに血肉が盛りあがり、塞がっていく。
さらには、分厚い骨の殻が顔面を覆って顔を隠してしまった。禍々しい、骨の兜だ。
美鈴の攻撃は大ダメージを与えたが、敵を守りに入らせてしまった。
だが、このチャンスを逃すつもりはないぜ!!
「嘴黒クン! なんとかアイツの動きを封じてくれないか!? 俺があの兜を叩き割って、アイツにとどめを刺す!!」
「! なんだとっ!? てめぇにんなことできるってのかよ!?」
「ああ! 俺を信じて任せてくれ、頼む!!」
俺の頼みに対し、嘴黒クンは嫌そうな顔をしながらも印を組み、『導』を練りあげてくれた。
見たことがない、複雑で独特な印だ。カッコいい。
「……クソッ! この俺をいいように使うたぁ、あとで覚えてろよ! 鳴瀬っ!!」
術の発動とともに、彼の体が影に包まれていく!
そしてその影は無数の字体となって宙に舞いあがり、煙の顔へと貼りついていった!
陰影忍術、『延影忌譚』!!
影の字体は、その字によってさまざまな効果を現し、貼りつく影字の数が多いほど強い効果を示す(さまざまな字を同時に操り、物語にすることも可能)。
今、嘴黒が発現した文字は、『縛』。本来、闇・邪属性の『苛戯裏』に彼の術の効果はうすい。
しかし、術への耐性を無視して身じろぎすらできぬほどに、敵の動きは縛りつけられていた!
『ぐぬぅっ、動けぬ! なんだ、この術は……!!』
俺も煙の顔に渾身の一撃を叩きこもうと、自身の『導』を練りこみはじめた。
と、そこで『魂珀の腕輪』からひづきの声が聞こえてきた。
『夜鷹、あなたの攻撃力じゃあの骨の兜は砕けないわよ。どうする気?』
「わかってる! ひづき、『宵食みの翼』に固有武器を合成して、そのあと分離することは可能か!?」
「ええ。制御範囲内にある、同格以下の固有武器なら可能よ。あまりに格上だと、逆にそのまま飲みこまれてしまうけどね」
「よし、それなら大丈夫だ! センパイ、『殻割り棒』を貸してくれませんか!?」
「! コレか? いいぞ、ホレ!!」
俺はセンパイが投げてくれた『殻割り棒』を受けとると、自身の刀に重ねあわせた。
「ひづき、合成してくれ!!」
『仕方ないわね、特別よ』
ひづきの術により、俺が重ねあわせていた2本の刀が融合し、ひとつとなった。
これで、俺の『宵食みの翼』に『殻割り棒』の固有スキルが組みこまれた。これで俺の攻撃は外殻を持つ敵に2.5倍のダメージ……!
『その程度のスキルの上乗せで、我が無敵の守りを崩せるとでも思うたのか? この骨の兜は、無尽蔵に強化することができるのだぞ!!』
見る間に骨の兜は厚みを増し、強化されていく!
このままではますます守りを固められて、いよいよ手出しできなくなってしまう。
……だが、そこで敵の強化はピタリと止まった!!
「君が地下に『腸』を張りめぐらせて、貯蔵していた人間の血肉を供給していたことは知ってるよ。樹々が教えてくれたからね。でも、地下での戦いなら僕は誰にも負けない」
木霊忍術、『土竜槍』!!
ーー『苛戯裏』は『腸』を輸送用のパイプとし、地下に貯蔵していた血肉を高速で運びだし、必要な場所に供給していた。
椋居大樹は樹の根を槍として、地下の『腸』を突き刺したのだ!!
『ぐぬぬぬ。おのれ、こやつらぁっ……!!』
「嘴黒クン、椋居さん、ありがとうっ!!」
俺は、煙の顔めがけて駆けだした。
センパイから『殻割り棒』を借りても、嘴黒クンに敵の動きを封じてもらっても、椋居さんに敵の強化を阻止してもらっても。
それでも今の俺の攻撃力では、あの骨の兜を打ち砕くことはできないだろう。
莫大な呪力によって強化されており、並大抵の打撃や術は通用しないからだ。
そこで、俺はもうひとつのスキルを発動させることとした。
『小鬼人拳』……パンチ攻撃の威力が1.25倍。10回に一度、クリティカルヒットで10倍の威力!!
俺は次の一撃、自分の拳に全身全霊、すべての『導』を練りこめることに決めた。
クリティカルヒットでなければ、敵の守りを破ることはできないかもしれない。
……10回に一度という確率を、高いと思うか低いと思うか?
普通の人なら、そんな危険な賭けはしないかもしれない。
だが俺は、1パーセントでも勝機があるならそこにすべてを賭けるぜ!
「覚悟しやがれ、バケモノッ!!!」
『おのれえええええええぇっ!!!』
『殻割り棒』×『小鬼人拳』!!
決まった!
土壇場でのクリティカルヒット!!
『グアアアアアアアアッ!!!』
俺の拳は骨の兜を砕き、その下に隠れていた煙の顔へとめり込んでいったーー




