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コヒモドキ

作者: 石羽 宙

 僕は、恋煩いをしているらしかった。


 彼女のことが、たまらなく愛おしくて、好きで、大好きで。


 気がついたら彼女のことを考えているというのが、僕の日常であった。





 僕が彼女に初めて出会ったのはいつだっただろうか。正直、覚えていない。


 小さい頃から彼女が僕のそばにいたことは確かだが、僕の記憶の中ではっきりと刻まれている彼女の「姿」は、僕が10歳の時が最古のものである。


 彼女は、いたるところで僕に笑顔を振りまいていた。彼女は可愛かった。キラキラしていた。


 僕と彼女は、これまでずっと、遠く離れることなく共にあった。


 僕は、ずっと、ずっと、彼女のことが好きだった。


 でも、彼女に対する「好き」という心の警告(アラート)が、他の、寿司やら猫やらといった“もの”に対する「好き」とは違う感情だと気がついたのは、僕が15の時だった。




 僕は時間あらば、彼女のことを考えたり、あるいは眺めたりしていた。意識せずとも、気がついたらそうしてしまっていたのだ。


 僕は、彼女の色々な側面を発見した。


 可愛い。美しい。愛おしい。かっこいい。不思議。あたたかい。神秘的。たまに見せるギャップ。全ては、「好き」という言葉、感情に収束し、勝手に僕の口角を上げる力が生まれる。


 ずっとそばにいてほしい。離れないでほしい。本気でそう思った。


 僕の目に映る彼女の輝きが消えることはなかった。


 そして、今でも──。





 17歳になった僕のそばには、今もまだ彼女がいてくれている。


 僕は彼女が好きすぎて、それは多くの友にも知られていて、でも誰も僕に冷やかしを浴びせることなく(たまには「また彼女のことかよ」とぼーっとしている時に言われはするが)、あたたかく見てくれている。


 最近、僕は矛盾した感情を抱くようになってきている。どういうことか。


 僕は、彼女のことが大好きすぎて、「この世で僕よりも彼女のことを愛している人はいない」という自信を常に持っている。


 そんなことを思いながら、無意識に彼女の名を、漢字、ひらがな、ローマ字、その他色々な形式でノートの端に書いていることが多々ある。


 なのに、そう思うと同時に、「日に日に彼女に対する恋心が膨らんでいく」とも感じている。つまり、「昨日の僕より、今日の僕の方が彼女のことを好きだ」と毎日感じるのだ。


 全ての瞬間(とき)に、「僕が誰よりも(つまり明日の僕よりも)彼女を愛している」と感じつつこう思うのは矛盾している。


 なぜこんなことになっているのか。知らない。わからない。


 僕にあるのは、彼女への深い恋情だけ──。



 だが、この僕の恋煩いは、どうやら僕の友たちが言う(あるいはおそらく世間一般に言われる)「恋」とは少し(他人から見れば「全く」らしいが)違う側面を持っている。それを、僕も認めている。


 僕には、一般に恋心に付随するもの──むしろ恋心と同義なるものかもしれないもの──が一切ないのだ。


 独占欲。そして嫉妬。


 この感情が、僕には全く理解できないのである。



 僕は彼女のことが大好きだ。


 だから、彼女の良さをみんなに知ってもらいたいと思う。


 みんなにも、彼女のことを好きになってほしい。そして、彼女への愛を語り合うのもいいなぁ。


 彼女のことを好きな人が僕以外にいるのなら、僕はその人と友達に、親友になりたい。なれると思う。




 こういう本音を友の前で吐くと、「おまえおかしいんじゃないの?」という風な反応が返ってくるのを何度も経験しているが、僕が何度もこう話すうちに、この考え方を受け入れた(理解を諦めた、という表現のほうが正しいと僕もわかっている)友もいる。


 でも、やっぱり僕にはわからない。独占欲というのは一体どのような感情なんだ。僕からすれば、むしろそっちの方が、「おかしいんじゃないの?」と言いたくなるがそれは流石に口にしたことはない。




 あともうひとつ。僕のこの恋は、話に聞く友の恋と決定的に違うところがある。


 ──彼女は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()──


 そしてそのことを、僕は十分承知している。


 叶わぬ恋。そう思われるかもしれないが、僕はそう思わない。


 彼女が僕のそばに存在してくれている。()()()、僕の恋は叶っている。


 他の人とは違っていても──それでも、彼女だけがずっと、僕の中で特別な存在なのだ。とにかく、とにかく、好き。この一言に全て集約されているのである。





 最後に、一番重要なことがある。


 訂正。一番重要なのは彼女が魅力的だということであるから、これから述べることは二番目に重要なことである。


 彼女は、可愛くて、綺麗で、笑顔が眩しくて、心臓を締め付けてくる、尊い、…と、とにかく、言葉では到底表せないほど素敵で、僕が誰よりも愛する存在だということは、ここまでで分かってもらえただろう。


 でも──











 でも、彼女は──────



 ──────人間ではなかった。










 それどころか──────



 ──────息の音をあげたことのない、形すら持たぬ存在であった。











 でも、彼女は、僕と出会った時からずっと、僕のそばにいるし、僕の頭の中でこれからもずっと生き続ける。


 僕にとって、人生のパートナーは、彼女なのだ。そう僕が決めた。


 彼女が僕の心から離れていくことはない。

 できない。

 僕が、そうさせない。






 僕は、恋煩い──モドキ──をしている。

この作品の「彼女」には明確な「モデル」があるが、それは明かさないでおこうと思う。

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