2.龍
外法たる貴女を許しては於けない。そう、強く思った。
暗闇に紫色の燐光が揺らめく。
視覚がソレをとらえる。
皮膚が風を捉える。
視線を動かす暇すら惜しむ。
聴徑のみを頼りに、左。
肉とも石ともつかぬ。泥砂を摑むような感触。
靡く風の中に僅かな嘆息。知っている。弄ばれている。
それでも振るう。曲刀が空を噛む。
「………………嗚呼、そうか。或いはアレが始まりというヤツだったのか………………」
跳躍。
強化された靭帯が、それでも足りぬと悲鳴を上げる。
全身に施された強化関節が悲鳴を上げる。
筋肉が音を立てて断裂していく。
それが、瞬く間に、回復していくことも。
「………………我らは愚かだった、と。今になってはそう思うよ。だが、重要なのは後世の評価なのではない、そういう意識も、無かった言えば嘘になる」
剣戟が木霊する。暗闇に、鋼鉄が己を噛む火花が散る。
甲高い鋼の音。
重い、体躯の軋み。
「………………君は、君の子供に、目玉が二つ、鼻が一つ、口が一つ付いていると信じているタチかな。では、それから"外れた"時、君はどうする?」
肉が軋む。
骨が軋む。
脳髄は焼き切れる寸前だ。
次撃を捉える場所が。
或いは、コレを受ける術を。
演算する事で私は、いっぱいだ。
「………………考えて。貴女の子が立てもしなかったら?目が無かったら、或いは五つあったら?」
深い溜め息。
「………………ねぇ、だってさ。優れていたって、劣っていたって。どっちだって、違うってだけでさ。僕らは交われないんだ」
もう、ききたくない
だから。
龍を。