1.遠雷
作者が夢に見た話を書き綴る話です。年に一回更新出来れば良い方だと思います。どうしても続きが読みたいと言う人は、作者を急かして下さい。
灰色の曇天の下、乳白色の湖面は凪いでいた。翡翠にも似た白色に帯状の緑が混じる数多の巨石が、湖を縁取る様に空に向けて屹立している。六角柱状の巨石の各々が、背後のビル群の、どれよりも大きいのだと、知識で知っていても、生中には信じがたい。
発破の音が遠くで聞こえる。
視界の端、巨石群の中でも一際小さい一本が、倒れていく。その足下に蟻のようしか見えない重機の群れ。五菱T-45、傍らに立つ春希が小さく漏らす。
遙かに見える砂埃も、至近ではどれ程か。飯場で見た、煤けた顔をした鉱夫たちの姿を思い出す。
崩れた石柱に鉱機が群がる。その一機一機が人など比肩にならぬ巨躯であることも、この光景の中では忘れてしまいそうだった。
目前にして、尚、実感が伴わぬ。
世界最大規模のロドリウム鉱床、南禍門。未曾有の天災の中心部だったそこは、いまや我々皇国の狙う獲物の名前でもある。
翔ける。翔ける。
強化ガラスに縁取られた煌びやかなビルを、鉄骨の骨格に廃材で壁を普請したバラックを、或いはゴミ山を、全てを蹴倒して翔けていく。
浮遊感が心を躍らせる。身は羽よりも遙かに軽く、耳裏に渦巻く風は、私を空へと唆す。中空に渦巻く空気を蹴ってさらに上へ。外壁の側面に足を掛けて、駆け上がる。
窓の中、シャンデリアの掛かったレストラン。ガラス越しに目の合った給仕の一人が、目を剥いてグラスを取り落とす。
登り切る。
空中庭園に張られた架線に足を掛ける。揺れる照明に客達が顔をあげる。一様に浮かぶのは驚愕の表情。女の豪奢な白のドレスに葡萄酒の赤が滲んでいく。
愉悦。
大袈裟に身を撓めて、さらに跳躍。
ビルからビルへ。
渦巻く風の中に、身を投げ出す。
月すら霞む厚い雲の下、街の灯りが眼下で瞬く。
躍る風が歓喜するように我が身を受け止め、さらに上方へと押し上げる。
いいよ、行こう。
全てを蹴飛ばして、ここを取り戻そう。