恐怖!パリィ男!
人は激昂したとき、パフォーマンスが落ちるのが普通だろう。
それは、集中が乱れるからだ。
集中した時に、体感の時間が遅く感じたことはないだろうか?
己を殺さんとする刃を避ける瞬間や、首を絞められた瞬間。
人はあらゆる雑念を放り捨て、己のために没頭する。
集中こそ、物事をやり遂げ、生き延びるための必要なものだ。
それが殺しにおいても、求められるのは当然だろう。
しかし、それは、人であればの話だ。
魔族の女は、今まで感じたことのない怒りを味わっていた。
目が真っ赤になり、頭は熱い。
自分はこんなに直情的だっただろうか。
怒りが、己の意識を研ぎ澄まさせていくのがわかる。
この男に、私の槍で、死を与える。
力量は私の方が上だと男自身がわかっているだろうに、目の前の男が本気にならないのが気に入らない。
男はこちらの打ち合いには応じるが、こちらを殺そうとする意思のない剣筋だった。
振るった槍に対して、まるで合わせるように刀身を当ててくる。
全くもって意味がわからない。
今まで、殺してきた人間は、私と戦えば泣いて地面に頭を擦り付けるか、最後までしつこく食らいついてきた者しかいなかった。
こいつは何だ?
さっきから何を待っているんだ?
思考が頭を埋め尽くすが、考えるのも私らしくない。
そんなことより、我が槍術を軽んじているように思えて、我慢の限界だった。
早くこいつの頭を槍でかちわりたかった。
息を浅く吸った。
手元の槍を一回転させ、体に染み込んだ槍使いとしての構えをする。
相手の筋肉が動いた。
こちらの攻撃を受け止めるにはそぐわない動きだった。
―――槍を投げた。
女は勝利を確信していた。
自分が投げた槍が、こちらへと返されるまでは