侮辱
カンタと魔族の戦闘は拮抗していた。
いや、少しだけ、カンタ側が圧されていたが…
「魔族は人に非ず」
この世界の常識を持つ人間にとって、魔族との戦闘で拮抗できる者がいるなど信じられないことだった。
黒魔法に制約がかかった人間にとって、
好きなだけ魔法を放てる魔族を相手にすることは神殺しと同じくらい困難だと幼子でもわかるだろう。
故に、魔族と戦闘することは極力避けることがこの世界では推奨されていた。
戦闘が避けられるならばと、国の半数の人間を生け贄に差し出した国があった。
戦闘が避けられるならばと、国の一部を差し出した国王がいた。
それが受け入れられるかは魔族のご機嫌次第だったが。
そして、今よく行われる対策としては、
蘇生魔法が使える者たちを地下へと隠し、魔族が地上の国民を虐殺し飽きて何処かへと去った後に蘇生させるという対策が主流となっていた。
これも、地下を抉る大魔法を魔族が気紛れで放たないことを期待するものである。
至るところから血を流すカンタを
魔族の女はわけがわからないといった顔で見ていた。
「お前、ふざけてるのかしら?」
「ふざけてなどはいない。試しているだけだ…」
カンタはただパリィがしたかった。
相手の攻撃を自分の意思と判断によってパリィしたいのだ。
そのために、不必要な傷も負ってしまったが、そんなことはどうでもいい。
もちろん、オートパリィの不発動条件が知りたいという打算や折角見つけたパリィ相手を殺したくないという気持ちもあるにはあるが、その気持ちはパリィをしたいという気持ちには勝らない。
剣を握りしめる。
頭のなかでは、槍の受け流し方を模索していた。
殺すために戦うのではなく、
快楽という、己のパリィをすることしか考えないことは、
己の槍に自信をもち、戦いに矜持のある魔族の女にとって
「ッ! それが、私を、舐めてるってことよォッ!」
嘗てない侮辱に等しかった。