独り言
エンケル視点
独り言だと言って、カンタは話し出した。俺は黙って聞くことにした。
「おまえらと、バカ騒ぎするのも楽しいんだ。
今まで俺が働いていた職場なんかと比べてはるかに良い職場だと思う。けど、
けれど、違うんだ。
俺は一度死んだんだ。
死にかけながら、ぼんやりした頭で思ったことは、どうして我慢し続けてたんだろうってことだった。
人の目を気にして、他人の感情を優先して生きていた。
その結果が、嫉妬された同僚に屋上から突き落とされたことにどう納得すれば良かったんだ。
あいつが言った「お前が居るから俺が苦しいんだ」という言葉の意味が今でもわからない。
一体、俺の何に嫉妬をしたんだ?
俺は自分のことが好きではなかったから分からなかった。
地球で生きていく上で、我慢して前に進むことが一番の近道だったんじゃないのか?
死んだ今となってはもう、答えなんて分からない…
けれど、殺された憎しみよりも、無念よりも、
ただ、あの時強烈に思ったことがある。
―――俺は、自分のことを好きになりたかったんだ。
次があるなら、例え、周囲が自分のことをどう思おうと関係なく、自分のことを好きになれるような生き方をしたかった。
まぁ、それがパリィできるようになりたいなんて幼稚なものなんて客観的に見て自分でも可笑しいと思うよ。
けど、それが神のおっさんに聞かれて、いの一番にでた言葉だったのは事実だ。
パリィできる世界がほしいって、あの時言った言葉は幼稚かもしれないけど、そんな自分が俺は好きだ。」
そう締めくくってカンタが静かに俺を見た。
ぱりぃ?チキュウ?ってなんだ。死んだとは比喩ではないのか?頭が疑問で埋め尽くされる。だが、まずは、
「ごめん。おまえの独り言はよくわからないことが多かった。
だから、まず順を追って俺の考えを話す。」
「まずな…魔獣を吹き飛ばすなんて、
お前にしか出来ねぇよ!!!!!!!!
はぁ…悪い。真面目に話す。
カンタ、お前の変わりなんていない。
この国で、お前の代えは効かない。当然自覚していると思っていたが…
…いや、おまえ、変に常識に疎かったな。
ゾンビ戦法。知ってるよな?…知らないのか。
俺たちの国が縋った戦術だよ。白魔法の蘇生によって、ひたすら耐久戦をする。そして、魔獣が消耗するか、飽きてくれることを期待するんだよ。馬鹿みたいだろ?
でも、黒魔法が満足に使えなくなった今、それしかないんだ。
ゾンビ戦法はな、
蘇生によって死にはしないが、精神を磨り減らす。そんで、まともに会話できなくなるのが常だ。
違う部隊の俺の仲間や先輩もそれで話せなくなったしな。
というようにだな、蘇生魔法をあまりに頼りすぎてる今、
お前の剣術での吹き飛ばしで、隙を作り、魔獣を倒す1つの確立された戦法は貴重で代替えが効かない。魔獣は情報共有をしないし、初見で確実にダメージが出るお前は必要だ。…それと、
それと、お前は俺の友人でもある。そっちでも代わりなんていない。」
カンタは少し狼狽えたようだった。
こいつ…
今まで俺のこと、ダチじゃないと思ってたのか…?
…マジかよ。悲しいんだが…。
いや、今はそんなことより、伝えることがまだまだある。
「…飽きたのは仕方ねぇと言いたいが、英雄様に抜けられると困るんだよな。死人も増えるし。
こんな世界で命を削るような戦いがしたいって、やっぱりお前は気が狂ってるよ。けど、気が狂ってるから英雄たりえるのかもな。すげぇよ、お前は。
そうだな…飽きたなら、より前線にいくか、魔獣じゃなく…」
「―――魔族かしら?」
「そう、魔族とたたか…う…」
肩が熱い。肩口を見ると槍で抉られていた。
血が噴き出した。