討伐数59体目!
「ギャァァァァァッ」
これで59体目の魔獣を討伐した。
共に倒した討伐隊の仲間たちが雄叫びをあげていた。
エンケルがこちらに駆け寄ってきた。
勝利の興奮を隠しきれていない。
俺がアレク隊に無理矢理入隊させられてから一年になろうとしていた。
折角、厳しい試験を合格して入ったギルドにも全く顔を出せてない。
自分が一目惚れした、もはや黒歴史となったあの上官と共に働くことになったのは本当に嫌だった。
職場に元カノがいるようなものだと思ってほしい。
気まずい。
だからこそ、あの契約書を破棄しようとあの手この手を使った。
隊長に決闘を挑み、滅多打ちにされては、アレク隊の仲間と共に酒を飲み、
隊長に賭け事を挑み、素寒貧にされては、アレク隊の仲間と共に酒を飲んだ。
こんなのはほんの一部だ。
なお、アレク隊の隊員たちが、アレクサンダーが決闘に負けなしであり、賭け事も馬鹿強いことを知った上で俺を煽っていたのを後で知った…。
エンケルなんて、あいつ、隊長に全額賭けてやがったんだ。
負けて地面に沈む俺に、
「ははは!酒を奢ってやるよっ!賭けに勝った金でなァッ!!!はっはっはっ」
と高らかにのたまったこと、まだ許してねぇから。
どうせなら、俺に全賭けしろよな…次は勝つから!俺が!!!
他にも色々試したんだが、契約書は勝ち取れなかった…。
そして、1年が経とうとしている。
これまで、59体もの魔獣をオートパリィでノックバックしてきた…
溜め息が止まらない。
飽きた。
どうせ、こんなこと俺以外にも出来るんだ…
俺要らねぇだろ、これ…
この流れ作業に飽きてきた。
討伐隊辞めたい…
辞めて、
パリィする生き方を諦めて、他の生き甲斐を見つけるしかないのか…?
見つけられる気がしない
再度溜め息が溢れてしまう。
我ながら決心するのが遅いものだ。
そうと決めて、肩を誰かに叩かれた。エンケルだった。
「勝ったな!!カンタ!」
どうやらこいつは魔獣の討伐が完了したことの興奮を俺と共有したかったらしい。
「なぁ……討伐隊、辞めたいんだが…」
「はぁ?こんなときに、何言ってるんだおまえ?」
エンケルは呆れたように俺を見ていたが、次第に顔が変わっていった。
「…マジで言ってる? 理由を教えてくれないか?」
「魔獣討伐するの何て誰でも出来るだろ?それこそ俺じゃなくても今までやってこれたんだろ?
俺なんて要らないじゃねえか?そうだろ?
後、俺がやりたかったのは命を削るような戦いだったんだ。
まぁつまり、魔獣の流れ作業に飽きたのが一番の理由だよ。」
「…少し、考えをまとめさせる時間をくれ。」
エンケルは俺の言った言葉を真面目な顔で吟味しているようだった。そんな様子に、少し驚いたが納得もした。
こいつは普段茶化しているが、誠実な男だ。
ハッとするような所で機転もきくし、凡人が選ばない選択をすることもできる。討伐隊にいて然るべき人材なのだと共に過ごして分かった。
凄い男だ、そして、尊敬もしてる。…本人には言ってないが。
だからだろう、地球で生きてきたことを話す気になったんだ。
口が滑ったとも言うのか?それとも、俺が心を許してきたからなのか
「俺の独り言なんだがな、まぁ、聞き流せよ…。」
エンケルが信じようが信じまいが構わない。俺は、俺のことを話し出した。