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死者一名

老魔族視点



数秒前のこと―

銃弾など、魔族には、驚異ではないが、念のため避けておく。

敵によって突如発生した突風と、閃光で少し気が削がれた。


慢心して、殺されるなど、三下のすることだ。

それにしても、なんと、か弱い攻撃なのだろう。

愚かで、脆く、浅ましい。

―それこそが、人間。

弱いのが悪い。

かつて自分が苦しんだ在り方で、忌避した在り方に、嫌悪と憎悪が際限なく沸き出してくる。



幾度となく行使してきた人殺しの魔法を展開し、銃を向けた男へと狙いを定めた。視線は黒髪の隊長格らしき人物から一切離さないままで。

視野を狭めることによる弊害等はありはしない。なぜなら地面を走る微弱な電波によって視野外も対応可能になるからだ。


老魔族、シルト・フュッテンは、危険度が少しでも高い方から目をはなさないという当たり前のことを選択した。



己の選択に後悔したことなど幾度とあった。それこそ軽いものから今でも己を苛む後悔の類いも経験してきたが、今回の後悔はその全てと違っていた。

驚愕。

魔法杖によって緻密に編まれ、発動した瞬間、

突如として飛来した刀が魔術の軌道を変えた。



老魔族は視線を、投げ飛ばされた刀へと向けてしまう。

それが己の隙になるとわかっていて、なおそれをした。

刀は黒魔法の軌道を変えた結果、焼け焦げて地面に突き刺さった。

今まで人間として、魔族として長く永く生きてきた己が、このような形で編んだ魔法を台無しにされたことなどなかった。

「ー全くもって馬鹿げておる…が、」


男がこちらに投げ飛ばすより先にルーチェ・モンドの槍が先だと無意識に思っていたのか、己への殺意が無かったから対応できなかったのか…

馬鹿げていることを実現できる者をなんと言うのか己は知っている。

ー英雄。

日の当たるもの。人類の希望。魔族の敵。


「どうやらわしが間違っておったようじゃな。殺す優先度はお前が先だったのか。

…まぁ、死んでおるが、認識を改めておくぞ若造。」


老魔族は1度だけ視線をカンタへとやった後、二度とカンタを見なかった。

死者を警戒する必要はない。

そう、英雄候補の男は既に死んでいた。



老魔族は己が傲っていたことを認め、辺りを見回した。


そして、それがこの戦局を決定付けた。

婉曲的にカンタの稼いだ時間とカンタの行動によってもたらされた奇跡だった。


発砲者を見て、老魔族は雷に撃たれた。勿論比喩だ。



「お、お主…、名はなんと言う」

「…エンケル・ツヴァイタ」

エンケルは時間稼ぎのために名乗った。老魔族の様子がおかしくなったことに、さらに警戒をしながら。




シルト・フュッテンには、蘇らせたい人がいた。血の繋がらない孫。



銃を向けた男、

今は、死者の前に守るように立っている男、そして殺意を込めて自分に銃を向けている男

ーその男の顔は、死んだ孫の顔にあまりに似ていた。


孫の成長した姿を思い描こうとしてもその姿は定まらなかったが、

今ならわかる。この顔だ。

成長したらこのようになると思えるその顔に、老人は酷く動揺する。

顔だけじゃない。諦めない姿勢、仲間思いの優しい心を持つ目の前の男は、本当に己の孫ではないのか?

揺らぐ。

混乱。

願ったものが目の前にある激しいまでの喜びに、冷静な自分が偽物だと宥めようとするが…。

心理的な優位性が消えたことにより、老人は撤退を決めた。



雷を一撃放つ。目眩ましだ。

だが、当たれば死ぬ。エンケルに向けてなど決してしない。狙いはアレクと名乗った方だ。



そして、

アレクが雷を回避した後、二人の魔族は姿をくらまし去っていた。



出会い編が終わりました。

一章の構成は何となく頭にあるんですけど、気分しだいです。

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