悔いなき決断
銃声が辺りへと響く。
戦場においての、闖入者。
カードでいえば、厄介者であり、切り札になりうるジョーカーの登場か。
そうして、事は、既に発生してしまったあと。
泣いて縋ろうと、後悔しようと時は戻せない。
この決断を果たして彼が後悔するのかどうかは、この後の全てで決まる。―――決まっていく。
さて、誰にも、予測されなかったとはいえ、ここに存在するものたちは、人外であろうと、人であろうと、信じられない反射神経の持ち主。各々が、対処を始める。
まず一番最初に、
老魔族は、杖に込めた、あらゆるものを消し去る魔力を向ける対象を、カンタから、エンケルへと直ぐに変えた。
次にアレクサンダーが、動いた。
無詠唱で、簡易的な閃光と、突風を発生させる。
閃光は、老魔族に対しての目眩ましを、突風は、杖の照準を少しでもずらすことだった。
他の魔法では、間に合わない。中級も上級も、発現までに事態は収束していると無意識に判断した結果、初級魔法しか選択肢が残っていなかった。
魔族には到底効果がないとは、分かっていたが、それでも動くしかない。
今自分が出来ることを。
…しかし、アレクサンダーには、分かっていた。
恐らく、エンケルが死ぬ。
最後に、魔族の女と、カンタが動く。
魔族の女は、黒魔法の遠隔操作で、朱槍を引き戻しつつ、カンタへと向かう。殺すために。
そして、カンタは、魔族の女の殺意が自分に向いていると感じた上で、剣を投げた。
どこに?
勿論、老人の放つ魔法に向けてだ。
理由は、明快。エンケルへの攻撃をパリィするためだった。
魔法攻撃がパリィ出来るかなど、分からない。
しかし、出来るか分からないから、友人が死ぬのを指を加えて眺めるのか?
何のための俺だ。
俺はパリィするために、ここにいるんだろッ!!!
―――なぜだろうか、老魔族の放つ魔法のタイミングと辿る道筋が、不思議と分かったような気がした。
そして、剣を手放すということは畢竟それすなわち、己へと向かう槍を無抵抗で受けるということだと、分かっていた。
反射などとれる筈がない。この剣を投げているのだから。
槍女ならパリィ出来る。けれど、それではエンケルが死ぬ。
死体が跡形もなく焼き消えると、蘇生魔法が通用するのか、自分は知らない。それもある。が、やっぱり、
友達だと言ってくれた人間が、
そして、自分が友達だと思ってる奴が目の前で死ぬのは、
「嫌だろうがッ!!!ッ、アァァアアッ!!!」
俺の体に槍が刺さっていくのがスローモーションで見えた。
受け身もとれず、地を転がっていく。
槍は引き抜かれ、魔族の女は、こちらを無表情で見つめている。
血が噴き出しては、地面を赤に染めていく。
意識が急速に遠ざかっていく。
―駄目だ。エンケルは、どうなった。戦場で、意識を手放すなんて殺してくれといっているものだ。止血しなければ。魔力を集中させ…
カンタの意識はそこで完全に閉じた。