槍、隊長、老人 そして俺
打ち返された槍は、私の投槍の速さを超えていた。
ッ!
槍を掴みきれず、数歩ほど下がってしまった。
手から、摩擦による熱で煙が出ていた。
…は、
「はぁああぁぁあ!?あんたのそれどうなってんのよッ!黒魔法で私の槍をうけながしたってわけ!?」
歯軋りし、地団駄を踏んだ。
「いや、黒魔法ではない…
俺の実力だ…
あぁ、何度でも言おう。黒魔法ではない…黒魔法ではない…」
満身創痍の男は満足そうに、しかし黒魔法ではないとそこだけやたら強調してきた。
私たち殺しあいしてるんだけどォ
…何なのコイツ
何なのよッコイツわぁッ!
何かを狙っているように見えたけど、それが受け流しなんて頭おかしいんじゃないの
なにより、
モンドの槍を返すなんてそんなことがあるわけないッ!
……?
―モンドって何だっけ
そして、私は頭が真っ白になった。
「殺す殺す殺す殺すぅうぅうっ!あぁあああッ!」
突然魔族の女が、豹変した。
少なくともカンタにはそう見えた。
魔力の波が、風を作り、木々を震わせた。
…女が自分の思い描く魔族らしくはないと思っていた。
会話が通じること、黒魔法を使用してこないこと。
なにより、槍による戦闘が人間らしすぎた。
うまく言えないが、魔族が槍に誇りをもつのか?戦闘の駆け引きや卑怯さが全くない。
これではまるで相手が、に「探しておったのじゃよ?」
いつの間にか、
俺と魔族の女の間に老人が立っていた。
そして、
一見すると優しげな老人といった風貌の魔族の男が、魔族の女の腕をへし折った。
折れた腕は力無くぷらぷらとしていた。
彼女の自慢の槍は泥の中に落ちた。
「あっぐヴっ…」
「ほら、ルチェちゃんや、先走ってごめんなさいとは言わぬのかのう?
ん?
返答が遅いんじゃが、わしらが姿を見せる時期を早めさせたことを反省してはおらんのかのぅ」
老人は槍を踏みつけた。
「ぁ… ごめんなさいっごめんなさいぃっ」
「お主は新入りじゃし、頭も軽いし、弱い…
使えぬやつよ
…じゃが、そんなところも気にはせぬよ。同族だものなぁ。」
老人はくつくつと笑った。
「泣いておる様が哀れで、愉しいのがお前の良いところじゃ。
どおれ、もう片方の腕も折ってやろう。
いや、断ち切ってやろうかの。槍も持てなくなるお前はさぞ哀れで可哀想じゃし。」
「やめろォッ!」「ッ!ルーチェ!!!」
俺の静止の声と、アレク隊長の声が被さった。
「っアレク隊長!」
アレク隊長は、目にもとまらない速さで魔族の女をかっさらった。横抱きにされた女は、暴れている。
「離せっ!」
隊長は、ルーチェと言ったが、顔見知りなのか?
いや、魔族に顔見知りなど、誰もいないだろう…
「ルーチェ、私だ。…アレク、いや、あなたのアレクサンドラですわ!」
…これは、顔見知りをこえて恋人か?
いや、何だこれ、見た目は女同士だから倒錯感がすごいが…
アレク隊長の目がマジだ
えぇ…
あ、
魔族の女が隊長の腕から無理矢理抜け出して、老人の元に戻った。
すげえ速さで戻ったが、隊長脈なしなんだなぁ
うーん、ドンマイ!!!
「…カンタ。なぜ、笑顔で私を見る…
…後で絞める。」
「ははは…はぁ
…それより、これどうするんです?」
あまり考えたくはなかったが、そろそろ現実を見なければならない。
目の前に、二人の魔族がいる。
―これは、勝ち目が無い。