2.あの日の続き
「おいサイレス、今おかしな悲鳴が聞こえなかったか?」
そう声をかけられそちらへと視線を動かせば、自分達の座るベンチの後方から歩いて来るいつもの二人組の姿。おかしな悲鳴を上げ挙句失神した、膝の上で眠るこいつの顔が相手から見えないうちに素早く制服の上着を脱ぎ、頭を覆ってから「知らねえよ」とだけ返す。
ったく、こいつは行動力のわりに純情すぎる。体に触れるような行為はダメ、給餌し合う事すら無理、しっぽを巻き付けただけで失神するようじゃあこの先に進む事なんかいつになるやら。そう一人で行き場のなくなった感情を持て余していた所へと、見知った顔が近付く。
「ん?膝枕か?変わらず仲が良さそうで何よりだ。ところで私も同席させてもらいたいのだが、かまわないか?」
変人との呼び声高い貴族、黒魔術士の異端児ローデリック・ロータス・ラムイはそう言いながら生温い笑顔を浮かべ勝手に向かいのベンチに腰掛けている。お前は貴族だろう、得意の空気を読めと言いたい。
だがこちらが口を開く前に、自分の要件をさっさと話し出すのは貴族らしいといえるだろうか。
「なあ、その膝で眠っている学園きっての才女で特待生の地位を確固たるものとしたエマ嬢は、我がラムイ家の養子になる話は考えてくれているかな。なに、ギルドでは死亡したと非公表だが記録されているんだ、何も難しく考える必要はない。うちの家名を名乗るだけで堂々と生きていけるんだ。このまま彼女のような優秀な人間がコソコソと卒業するなんて、サイラスもおかしいと思うだろう?」
「......非公表なのによく知ってるな」
「調べさせた。優秀だろう?」
貴族の家名を名乗るという事で生じる責任や重い重圧に対して、自分がここで問うた所で何も変わるものでもない。聞いた所で賛成もするわけがないが、ひとまずその話は横に置いておく。
優秀だと言われ目線で示した先にはベンチの後ろに立つ侍従の姿。そのままローデリックに座るよう指示され、しずかに横に腰掛けるのを見るとどちらかと言えば学園内では友人のように気安い関係なのだろう。許可されたとはいえ普通、侍従は貴族と肩を並べて歩いたり同席したりはしない。
常に笑顔を絶やさず柔らかな物腰のこの侍従は最近、黒魔術だけではなく白魔術にも適性を見せた学園でも珍しい存在の一人だ。優秀な成績を収めてはいるがそれが全力ではないのだろうとも以前から感じていた。まあ、実力を隠していようがいまいが自分には関係ないとも正直思っていたはずが、こんな形でその優秀さを感じるとは思わなかったな。
その優秀な侍従はといえば、持っていた国の歴史書位に厚みのある紙の束を、説明も無く隣のローデリックに手渡している。受け取った方は即座に目を閉じ何か術を発動させたようだ。目の前で次々と流れるように紙のめくれる音が響く中、これが本の内容を読まずに理解する術か、と感心すると同時にふと疑問が浮かぶ。
今の話の流れで手渡されたもの。表紙には何も書かれていないようだが、まさかそれ全部、こいつを調べた報告書なのか?
わざわざそれを自分たちの前で確認している理由は知らないが、正直気分の良いものでは無いな......そう考えていると視線の先に気が付いた侍従が悪びれもせず、肩をすくめて勝手に話し始める。
「悪いね、これも仕事なんだ。でも遅かれ早かれ調べる事になったと思うよ?もはやその名を在学中だというのに歴史に刻んだと言っても過言じゃない。学園の教師陣とも肩を並べる豊富な知識量、中でも注目すべきはその発想力だね。近々魔力を持たない者も多い騎士科であえて魔道具を用いての実験をするそうだし?普通なら無理だと一笑されて終わりのはずが、可能性を現実にしてしまえるだけの魔道具制作技術、それに彼女なら何をしでかすかという期待感。おそらく周囲の期待を裏切らない結果になるだろうけど、個人的にも今から楽しみで仕方ないよ。極めつけは術士の壁をも壊した変革者だってさ。次々に常識の垣根を取り外すその姿から最近じゃ学園内でも熱狂的なファンがいるとか。サイレスは聞いたことない?」
「知らねぇな」
「まあ、本人も知らないかもね」
周りに興味が無さそうなのは以前からだし、と言うのには同意して頷き返す。そんなやり取りをしている間にすべて目を、いや脳か?通し終わったらしいローデリックが、感心したように「すごいな」とつぶやき閉じていた瞼を上げた。
「ここに書かれているのはすべて本当か?本当なのだろうが疑わずにはいられん内容だ。この学園を留守にしていた一カ月の間、外でも随分活躍したそうじゃないか。ギルドでは所属する冒険者パーティの連携や役割分担の意識改革、無茶をしがちな中堅クラスが自分たちの未熟さを認識する等全体的に質の向上が目覚ましいそうだ。魔道具の強化にカウンターとかいう自動攻撃効果の付与、魔力を持たない者にも魔道具の使用確認が取れたとある。なるほど、既に実績があっての提案ならば騎士科の連中が乗り気なのも頷けるか。それにあの弁当の味も街で食べられるそうだな!拠点にしていた宿屋では新メニューの開発と食品管理に衛生だったか?そこにも彼女の魔道具が成果をあげていると報告もある。医者にかかる患者の減少に効果があったとか、他にも......、おいサイレス、ここまで聞いて表情が変わらないのは把握していたのか?」
報告を聞きながら自分が知っている情報とほぼ差異は無いと確認していると、俺の表情に違和感を持ったローデリックがそう突っ込んできた。特に否定するのも面倒で答えないが、俺自身が足取りを追う中で得た情報の方がさらに詳細だ。正直もっとぶっ飛んだ事もやっている。本来ならパーティ単位で討伐するようなレベルの希少価値も高い魔物を、ほぼ傷つける事無く倒せるまで繰り返し挑むとか。
そういえば途中から荷物も減り、長期の依頼で不在が目立った事から無限収納を作ったらしいという内容は今の話の中には無かった。おそらく学園にも報告してないんじゃないか?大方本人も作った事を忘れているだけだろうが、まぁいいか。
「......随分しっかり調べてあるって驚いてるよ。あんたの侍従が優秀なのは成績だけじゃないんだな」
「当然でしょ、と言いたいところだけど。幸運にも彼女が休暇中に訪れた街はラムイ家の領地だったからね。集めやすかったのは事実だし、それだけだよ」
「だがその短期間でこれだけの量だ。今後も多大な功績を今後も残すだろう彼女を我が家だけではなく、他の貴族共も放って置くわけが無い、という確信をこれで得たな。調べた端から彼女の情報には規制をかけ、すぐには漏れる事はないだろうが......」
2人の説明に静かに納得していると、ここだけの話だがと前置きして声を落としたローデリック。
「彼女が守られているのはこの学園に在籍している間だけだ。分かっているのか?サイレス、先日彼女と共に国境で行っていたドラゴン討伐の一件にしてもそうだ。あんな依頼は一般の冒険者が一人で請けられる物ではない。本人がどこまで自覚しているかは知らんがそれを請け負えるだけの力量を保持しているとギルド内部では評価されているという事だ。相手国は呪術実験中の魔力暴走だと言い訳して謝罪と賠償金の話が両国でされているが、こちらの国が事前の動きを当然把握していた上で交渉を優位に進めるべく交渉の席についているんだ、相手の下手な言い訳を額面通りに受け取るわけがない。あんなもの攻撃もしくは侵略のきっかけ以外理由が無いのは明白。当然だがギルドからの情報を元に調査され討伐者の記録も残る。国がそんな人材を黙って放置するとは思えん。我が家が情報に規制をかけるといっても限界がある」
そこでスッと手をあげて「侍従の立場の僕から言わせてもらうと」と前置きしてこちらも口を開く。
「情報収集の後、まずラムイ家当主である旦那様へ報告した際に何も言われなかった事こそ、既にラムイ家では彼女の事が把握済みって証拠だよ。つまりは国にも当然報告されるのも時間の問題って話ね」
「まぁ当然だろう。祖父の周りにも優秀な人間は多くいる、私がお前たちに声をかけている事も既にご存じだろう。......だからこそなんの権力も後ろ盾も持たぬ彼女が、貴族共の面倒ごとに巻き込まれ疲弊する前に私が声をかけているんだ。本来学生であればこういった事は親を通じてするものだが、この点に関しては既に死んだことにしてまで縁を切っているのは良かったとしか言いようがないな。あの母親ならば金を積まれれば相手が誰であろうと売っていてもおかしくない。それが隣国であろうがだ。だからそう警戒するなサイレス、養子だなんだと言うが本人の意向は当然聞く。友人なんだ、甘い汁だけ吸うような真似など周りにさせないと誓う。なんならお抱え魔道具士でも問題はない。問題があるとすれば、今、彼女の後ろ盾となりうる存在が無い事だ」
分かっているだろう?と言いたげに自分と視線を合わせてきたローデリックが、少し首を掲げてこちらをうかがっている。女子生徒であれば赤面して見惚れるような顔だろうが、俺からすれば正直お前はいつからこいつの友人になったんだ?という感想しか浮かばない。あいつの母親にしても自分が言うことは何もない。今はもう煩わされることが無いのであればそれでいい。
「獣人のサイラスならまだしも、ここ学園内において誰が見ているのかすら人間の彼女には分からんだろう」
生徒の誰が親へ報告しているか、どの爵位のどれだけの人間が関心を向けているか。
自分には分かっていると言いたげな態度の目の前の男から視線を外し、未だぐっすりと膝で眠る頭を見下ろす。短くなった髪は中々見慣れないが、細くて柔らかな茶色の髪に指を通すのはここ最近の日課になりつつある。あの公式戦の後からこいつが俺に積極的に絡んできて以来何故かこの二人とも縁ができたが、目の前の貴族が魔術バカで変わり者の癖に、一部の奴に割とおせっかいな面も持つ事実は最近知ったばかりだ。こうして人の心配もしてくれる上に関係ない俺にまで情報を共有し、貴族という人種にしては話も通じる。何よりこいつは言葉にも行動にも裏が無いのがいい。いくらでも裏から手を回す事も俺を言いくるめる事もどちらも容易いだろうに、本当に貴族にしてはおかしな奴だ。
そう内心で評価しつつ、先ほどの問いに答える。
「視線ならこいつは気が付いてる」
「......本当か?」
「ああ。お前らが来る前、ここで昼飯食ってる時にも言ってたんだよ、ここは人目があるって」
「人目?......ここが、か?」
膝の上で眠るその短い髪を指ですきながら視線はそのままに頷く。周りを木々に囲まれ、背の高い植木のある場所に自分たちの座るベンチは置いてある。向かいに座るローデリック達からは高い校舎の壁が見えているだろうが、校舎に背を向ける自分には緑に囲まれた落ち着いた場所でしかない。当然ながら人目が気になる事も無いはずだというのに。言葉尻にそう含んだ言い方をするローデリックに向け、口の端を上げてみせる。
「そう、普通の人間なら気にもならないはずの視線や気配が確かにある。獣人の俺でも見逃すようなそれをどういう理由で察してるかは知らねえけど、こいつは自分に向けられてる視線に気が付いてるよ」
「......本当に想像以上だな。という事は何か策も用意しているんだな?」
「当然、と言いたいところだが......どうだろうな?正直知らねえし聞いてもいない。まぁ俺が何かするまでもなく、こいつの魔道具が優秀過ぎて周囲の助けは必要としてないだろ」
そう口にして認めてしまうのは正直言うと面白くはないが、俺にも理由が分からない以上安心しろとも言えない。そのうち自分から卒業後の身の振り方だって話してくれるだろう。まぁ大好きな魔道具をこれからも作りたいのだろうから、国から何か言われようと話半分に聞いて済ますのは目に見えているが......それよりも自分自身の事だ。
優秀すぎる彼女の横で、自分がまるで役に立たないと認めるのは中々に難しい。これでも入学から呪術の成績はトップではいたんだが、呪術返士の質も高く、魔道具作製の技術も正真正銘歴代トップのコイツと同じか、と言われたら疑問しかない。驕っていたつもりは無いが、周囲の実力が低いだけでその中にいた自分はたいした実力なんて無かったんじゃないか......?と内心比べてしまい劣等感を刺激される事が増えたのも事実だ。
だがそれを含めても彼女の強さと魔術の美しさに惚れたのは自分自身で、隣に立つ事に後悔なんて、あるはずがなかった。
あのドラゴンを前に一歩も引くことのない姿勢、事前に用意していた大規模な魔術の威力と美しさ、あの小さい体と武器のどこにそんな力があるのかと思うような深い一撃、完璧に防いで見せた相手からの攻撃。
その一連の動きの中、彼女の表情は驚くべきことだが笑っていた。それを見た瞬間文字通り頭からしっぽの先まで全身が震えた。
あの呪われたドラゴンを解呪したのは確かに自分だが、同じようにあのドラゴンを作り出せと言われても今の自分には無理だと、力の差はハッキリ分かった。何人もの呪術士の手によって作られた、明確な目的を遂行するために作られた傑作。他国にはこんなにも技術が進んでいるのかと正直怯んだというのに、自分とは違いまったく恐れもせずに飛び込む彼女はそんな他国の呪術士に並ぶ、いやそれ以上の実力を結果として目の前で残したのだ。それなのに......
一人で立ち向かっておきながら俺のおかげだと、そう最後は安心したように笑っていた。手放しで喜ぶ彼女を前に内心ではさらに惹きつけられ、それと同時に味わっていたのは清々しいまでの敗北感だった。
勝てないと正直思った。それでもせめて、横に並びたいとは強く思ったのを覚えている。
......焦りが無い訳ではないが、自分自身で成長しなければならないのは分かりきっている。できる事なら卒業までに何か他に、武器となるものを見つけなくてはと最近はそればかり考えている。
呪術返士でありながら黒魔術への特性を持ち魔道具の才能を遺憾なく発揮する学園きっての才女。黒魔術と呪術の混ざる創作魔術を次々と生み出す天才変人貴族。黒と白の魔術を操る奇才の従者。
そして呪術以外への適性が一切ない、それだけしかない自分。
自分の周囲にいる術士としての才能あふれる彼らとの差は無視できない焦りを生んでいる。自分は一体いつになったら、何の憂いもなくその横に並べるのだろうか。
「......あー、ッゴホン」
そうわざとらしく咳をするのが聞こえ、それまでの思考は一旦隅へ追いやると、エマから視線だけを外し向かいのベンチへ意識を向ける。見れば咳をした従者は何やら明後日へ視線をやり、ローデリックの方は最早こちらに遠慮する事もなく直接ニヤニヤとした笑みを向けてくる。
「......なんだ?」
「くくっ、いやなに、お前の変化があまりに面白くてな。以前はそこで眠る特待生の彼女同様何もかもに興味がない様子だったが、随分変わるものだ」
「はぁ......?こっちはどこ見てんだ?」
「ああ、私と違い照れくさくて見ておられんだけだろう、気にするな」
「いや普通気まずいでしょう、ローデリック様も目の前とはいえジロジロ見るものでは無いです」
何の話だ?と考えていると「そろそろ行くか」と侍従に声をかけ、笑みはそのままにローデリックが席を立つ。かと思えば「ああ、それと独り言だが」とこちらを見ずに足を止める。
「隣国との交渉の結果かは知らんが、そこの王族の何番目かが来月からココへ留学に来ると、家からそう知らせが届いていたな。わが子を送り込む事で侵略する気はないというアピールか、逆に貴族の子供も通うこの学園を押さえ人質と取るつもりか。......学年は一つ下だが、半年間の留学中は用心しておくに越したことはない。特にエマ嬢は無関係ではないぞ。何か困ったら言ってこい」
言うだけ言ってすぐ「ではな」とカラリとした笑顔をこちらへ向ける姿を見ていると、案外自分の事も友人という枠に入っているのかもしれない。おそらく心配しての発言だろうそれに無言で手を上げて応えておく。
と、その姿が見えなくなってすぐ、足の上で身動ぎする感触があった。
「......ぅ、?」
「起きたか?」
上からかけていた上着をどけて顔を覗き込めば、眩しさに目を細め何度も目を瞬かせる無防備な姿が見えた。しばらくすると自分がどこにいるのか分かったのだろう、ガバッと体を起こして周りを見回し「どれくらい眠ってました?」と口を開いた。
「20分程、か」
「!? な、なんですぐ起こしてくれないんですか?」
そう弱弱しく言った後に赤面し、頬を両手で押さえ俯くものだから何がそんなに恥ずかしいんだ?と横顔を眺める。心配しなくとも人に見せるつもりは端から無い。あいつらが来た時起こす事も考えはしたが、閉じた目元に出来た隈に気が付きやめた。
相変わらず遅い時間まで魔道具を触っていたんだろう、せっかく学園に帰って来られて好きな事に没頭してるんだ、休めるときに休ませてやるべきだと、そう思っての行動だったのだが。
何か問題でもあったか......?
考えながらも一先ず自分の上着を持ち上げる。
「別に誰にも寝顔を見せたりしてねぇけど」
「......!っですからそういう事ではなく! っほ、他でもないサイレスが見ていたのが問題なんでしょう!?」
「......」
俺の言葉に赤面する姿を見て、思わず手が伸びかけた所で思いとどまりグッと手を握り我慢する。
こうやって自分を意識してくれているのは正直嬉しい。気持ちがこっちに向いていると確認出来るのはいいんだ。
もどかしいのは俺からの好意に戸惑って、一定以上近付くと距離を取ろうと今にも逃げ出しそうな姿勢になる事だ。これが地味に、なんというか傷つく。
俺に見られてたから恥ずかしいとかホント、触らせないくせに好意は伝えてくるの何なんだ?俺は態度で返したいんだよ、俺の事を以前から観察してたって言ってたくせして獣人の生態に疎いやつだな。
......余裕?あるわけない。こいつが真っ赤になって反応するのは喜ばしいが、それ以上の接触を拒まれる度に正直悲しくもなる。そんなに嫌か?俺の当たり前はそんなに困るのか?
そうイライラにも似たもどかしさを抱えながらも、自分の気持ちのままに行動するのを最近はためらってしまう。当然だが相手の嫌がる事をしたいわけではない。
......なぁ、両想いのはずだろう?
思わず聞きたくなるそれを頭の中から振り払い、俺は話を変えるべく先程ローデリックが言っていた内容を半分投げやりな気分で話し出す。他国の王族、という所に少し反応したのを見て、こいつも卒業までの面倒事を想像したのだろう。落ち着きをすっかり取り戻した様子で「できれば関わり合いになりたくないですね」と一言呟くと、すぐさま自分の考えに没頭しているのか動きがなくなる。年相応な反応をするかと思えば大人のように慎重に、一つの情報から先を読み行動する、エマのことを自分はどこまで理解できていると言えるだろう?
午後の授業の開始を知らせる鐘が鳴るまでその横顔を眺めながら、俺のしっぽは今は力なく地面に落ちたままだった。