表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/7

1.始まりは公式戦から

ご無沙汰しております。お久しぶりの投稿です。

完結済み、毎日更新です。


 はじめは名前すら知らなかった。

 試合が始まっても「術が絶対当たらない特待生」の噂通りの実力を確かめただけで、それまでは怒りも妬みも困惑もなに一つ無かった。ただ、その特待生と同じクラスだという呪術返士の男から声をかけられた時、特待生に関する噂がどの程度なのかと興味を引かれた。それだけで受けた試合だった。


 だが後々、軽い気持ちで受けるんじゃなかったと後悔した。公式戦だというのに事前告知無しの申し込みに対して、同じパーティに誘われたのは俺と変人黒魔術士。共にそれぞれのクラスで上位の成績を残していたのに、向こうはその場に居合わせた人数合わせの即席パーティだったと試合後に聞いた。無理やり片棒を担がされたようで気分は最悪だったが、その大半を占めるのは自分自身の行動にだろう。今思い返してもあの時の胸糞の悪さといったらない。

 呪術士として優秀だと周りに言われるだけあって一通りの呪術は体得していた自分が、相手パーティへ攻撃することが出来ない、そこに次第にムキになっていた。共に三対三のパーティで向かい合い、前には呪術返士が一人、後ろに二人と同じ構図だというのに、開始直後から力の差はどんどん明確になる一方だった。まず向こうへ放った呪術は普通ならばこちらへ返される時点で脆くなり、本来の一割にまで効果が落ちるはずが、特待生はほぼ五割以上に維持して返してくる。こちらの呪術返士が漏らした呪術を自分がくらい続けると舌打ちが自然と漏れ、低く見積もってもあり得ない効力をさらに自身で解呪するのは輪をかけて気分が悪い。当然自分だけじゃなく同じパーティで呪術にかかったやつがいれば解呪するが、こちらには回復してくれる白魔術士はいないからジワジワと体力が削られる。こんなもの、もう一人呪術士が向こうのパーティにいるようなもんだろクソっ。


 そう考えながら、なぜだか妙にその特待生から目が離せなかった。何か不思議と引かれるものを感じながら、それが何か分からない。......だが今はそんな事よりも試合中だ。集中しろと頭を振って気合を入れなおしていた。

 何が悪い?何が違う?と被ったフードの中から注意して見れば、特待生は同じパーティの二人よりもかなり前にいて、一般の呪術返士よりも至近距離から術を返している。効力が維持されるのはコレのせいなのか?他に前にいる理由があるとすれば、返しそびれた呪術の被害が味方にいかないよう、万が一に備えているのかもしれない。何もかもが普通(こっち)の呪術返士と違う、とそう思った時、それまで面白そうな顔をしていた変人黒魔術士が本を一冊取り出し、特待生へと投げつけていた。律儀にも両手で受け取る特待生の油断を誘うためにかと思ったが、それ以上特に攻撃する事は無くただ笑っている。同じパーティの呪術返士の「もっと攻撃してくれよ!」という声を無視する姿には違和感しか感じなかった。あの本になんの意味があったか分からないが、確かに手の塞がっている今はチャンスだろ、と俺は練り直した呪術を次々と放っていく。しばらくして、本を受け取る前と様子の変わらない特待生から視線を変人魔術士へとやると、先ほどよりも楽しくて仕方ない、という表情で黒魔術を一通り、ほぼ同時展開しては休むことなく打ち込む姿が目に入る。さっきからこいつの行動は一体、何の意味が......


 そう考えた時、今までとは比にならないような悪寒にも似た違和感に襲われ、呪術を練っていた手が止まった。首のあたりが逆撫でされているかのようにザワザワしてたまらない。目の前では相変わらず特待生が同じ位置に立って、いる。その後ろの二人をみれば落ち着かない様子で、特待生の事を見守るかのように

 こちらの攻撃に一人で対応しているようにすら見え......ようやく気が付く。


 っなんなんだ!?さっきから、()()()()()()()()()()()()()()!!


 変人魔術士の楽しそうな理由がこれなら、まさに通り名そのままの人物だと片隅で考えながらなんとか動揺を隠し、途中で止めた術をもう一度重ね、強度を上げていく。さらに輪をかけて俺たちからの攻撃を受け止めている、目の前の異常な特待生から視線を外せない。身代わりになっている様子もない、先ほどまで行っていた呪術返しをするそぶりもない、何も分からない事がこんなに嫌な気分だと初めて知った。緑のローブを被った背の低い呪術返士の特待生。そのローブの裾が風で揺れた時、腰のあたりで赤く光る魔石が目に入った。ただの魔力増強用の魔石がなぜこのタイミングで光る?と思った瞬間には、地面にうつ伏せになっているという今まで経験したことのない不可解な状態になっていた。理解する前に止まらない吐き気に襲われ、呪術を浴びたという結末がすぐに考えられなかった。これは、俺の呪術か?毒、麻痺、めまいと順に危険度の高いものからなんとか解呪していく。同じように地面に倒れた他の二人の事は頭になく、ただただ目の前に立つ特待生から目が離せなかった。

 なんなんだ、なんなんだこいつ......!最初と比べてもどう考えても威力が上がってる。まるで術がそのまま撥ね返されたような、いやだが、呪術返しの精度が短時間でこんなに上がるなんて事があるのか?だけどこの重ねられた呪術は、明らかに自分の練ったもの。しかもこの皮膚を刺す痛み、やけどや凍傷は呪術じゃない、黒魔術だ。あいつの術まで返ってきたのか?何が起きた?なんでこちらの今までの攻撃が同時に返ってきてるんだ!?


 ひどい耳鳴りと全身の痛みの中、考えがまとまらないまま一つまた一つと解呪を続けていると、目の前に立つ特待生が頭のローブを脱いだのがぼやける視界の隅に見えた。それは試合終了の合図。まさか、終わったのか?

 ......ふざけんなよ、こんな終わり方、こんな無様でみっともない姿で、このまま負けたりなんかしたら、()()()()()()()()......!

 なんとかふらつく体を起こし、腹立ち紛れにこちらへ背中を向けた緑のローブへと呪術を投げる。今考えても何の呪術だったか覚えていないが、かすんでハッキリ見えない視界にもそれは確かに特待生へと当たったのを確認した。その直後に目の前が暗くなって、気が付けば医務室のベッドに寝かされていた。


 目が覚め、自分のやった事を思い出し、審判の教師にも試合後の呪術使用に厳重注意を告げられてなお信じられなかった。なぜ試合終了後にまで呪術を使ったのか思い出せないが、その術が原因となった特待生の状況を聞かされ、さすがに言葉が出なかった。変えようの無い事実に頭は何も考える事が出来ず、なんとか解呪の方法を探さなければ、とそれだけを考えていたのを覚えている。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ