ラジオのはがき職人の災難
『はがき職人』……ラジオや雑誌にはがきを送り続け、その界隈で有名になった人の事を指す。
そんな人の身に起きた、災難のお話。
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俺の名前は、『詩緒呂木 界人』。
この名前は、ラジオにはがき投稿するときの『ペンネーム』だ。
かれこれ、高校生の時から……いろいろな番組にはがきを送ってきたんだ。
様々な番組に投稿しては読まれ、徐々に『はがき職人』としての知名度を上げていった。
……ただ、この界隈には一つ、不可解な云われがある番組がある。
それは週末に放送される、10分程度の『悩み相談番組』の事だ。
その番組に3回連続で相談を受けると、その相談者が事件に巻き込まれるって話。
まあ、俺自身……そんな話はあくまでも噂だろうと思っていた。
思っていたのだが……SNSで知り合ったリスナー仲間が、その番組に続けてはがき投稿をしたところ、3回目の放送が終わったのを最後にSNSの更新が止まったのだ。
その仲間の知人が、そいつに電話しても出ないらしいし、仕事場にも出ていないみたいだ。
―――何かあるのかもしれない。
この界隈の『はがき職人』として、この噂の真実を確かめよう。
そう、俺は思った。
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『ここ最近、疲れが取れません。どうしたらいいんでしょうか』
最初の質問は、ありきたりだがこの話題で。
週末、その番組にて俺の悩みが紹介された。
『界人さんって、結構有名な方よねぇ?リスナー界隈じゃ』
その番組のMCである、新沢心結さんが始めにそう話す。
あはは、おっかない噂がある番組の人にも認知済みなのか。
『そうね、お香でも焚いてみてはいかが?リラックス出来れば、疲れは取れますわよ』
至って普通の回答だ。
……まあ、やるかやらないは別として。
『では、本日のお悩みはこれまで。また来週』
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次週、『告白をしようと思っているのですが、一歩が踏み出せません。どうしたらいいんでしょうか』と送った。
まあ、事実無根なのだが、これで釣れるだろうか。
『今週のお悩みは、先週頂いた界人さんから頂いた質問です――』
お、また読まれたみたいだ。
『そうねぇ、告白かあ。……振られるのも恋のうちだし、正々堂々と言えば良いんじゃないかしらね。当たって、砕けろぉー!ってね』
うーん、これまた普通の回答。それに案外心結さんってお茶目だし。
『それでは、本日のお悩みはこれまで』
……本当に、何にもないのかもしれない。
真面目に、単なる噂話だろう。
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そして、その次の週……俺は踏み込んだ事を聞こうと思った。
『この番組は、リスナー界隈でちょっと有名な番組らしいのです。3回連続で悩みを送ると、そのリスナーが事件に巻き込まれるかもしれない――と。俺は、そんな話は信じないのですが、友達は「嘘だ」と言います。どうしたら、説得ができますか?』
長めになってしまったが、どうか。
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皆様、ごきげんよう。
本日もお悩み相談に乗りますよ。
それでは、本日のお悩みは『詩緒呂木 界人』さんから。
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今日もまた、俺のはがきが読まれた。
はがきを読んだ心結さんは、少し黙った。
それから、『また、この話を聞こうとするのね』と小さい声で呟いたのを聞き逃さなかった。
『そんな、物騒なお話は無いわ。そのお友達に、「何も無いですよ」って伝えてくださいね』
心結さんは何事も無かったように、そういった。
不可解だ。
………『また、この話を聞こうとする』って、どういう意味なんだろう。
『それでは、また来週』
そう、心結さんは言って番組は終わった。
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「何も、起きないよな」
放送を聴き終え、俺はそう呟く。
その時、俺の携帯が鳴った。
番号は、その番組のだ。
恐る恐る、電話にでる。
「……も、もしもし」
『貴方……覚悟しなさい……』
その声は、心結さんの声だった。
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その日以降、『詩緒呂木 界人』のペンネームを聞くことは無くなったそう。