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9話

 あたしがローザさん達と王宮に入ると、1人の男性が待ち構えていた。


 確か、飴色の髪に深い翠の瞳のこの人はミラー騎士団長だ。上司であるためか、アレクシアさんとエレインさんがお辞儀をする。ローザさんとあたしも倣う。


「……礼は不要です、藍の君」


「お久しぶりですね、ミラー団長」


「私のことは覚えていらしたようですね、では。謁見の間までご案内します」


 騎士団長自らが案内するとは。秘かにアレクシアさんやエレインさんは息を飲んだ。ローザさんとあたしは、驚きながらも頷く。


「わかりました、お願いします」


「はい、こちらです」


 騎士団長は踵を返すと歩き始めた。あたし達は後を付いて行った。


 幾つかの廊下を曲がり、ある豪奢なドアの前で騎士団長は立ち止まる。こちらを振り返ると、団長はあたしに向かって言った。


「藍の君、こちらが謁見の間になります。人払いはしていますので」


「はい」


「では、行きましょう」


 再び頷くと、団長がゆっくりとドアを開けた。あたしはゴクリと唾を飲み込む。口の中がカラカラに乾いている。謁見の間へと足を踏み入れた。


 ゆっくりと進むと、あたしとローザさんだけになっていた。アレクシアさんやエレインさんは廊下で待機するようだ。ローザさんは、今まで掴んでいた手首を離す。


「……イツキ様、よろしいですか?」


「うん、何とか。気構えはできているよ」


「でしたら、玉座に近くなったら。跪いてください」


 小声で言われた。頷いて、ローザさんの言葉通りにする。まだ、玉座には誰も座っていない。あたしは跪くと深々と頭を下げた。陛下もとい、オルキスさんに会うのは5日ぶりだ。と言っても、実感はない。それでも後宮で一生懸命に踏ん張ってきた。


「……陛下がご入場になります!」


 玉座の傍らにいた侍従さんがよく通る声で告げる。あたしやローザさんは居住まいを正す。人の気配や足音がしてオルキスさんが謁見の間に入ったのがわかった。ゆっくりとこちらにやってきて、玉座に腰掛ける。

 少し経ってから、厳かに声を掛けられた。


「……藍の君、よく来た。面をあげよ」


 低い威厳のある声で言われてあたしはゆっくりと頭を上げた。そこには、黒の軍服を着たオルキスさんが冷たい表情でこちらを見据えていた。


「何故、女官の制服を着ている。そなたには相応の衣服を用意していたはずだ」


「……畏れながら、陛下。藍の君様の衣類は女官長が取り上げていました。仕方ないので、私の服をお譲りしています」


「……それは本当か?」


「はい、藍の君様が大層困っておられましたので」


「わかった、藍の君には私から改めて宝飾品やドレスなどを贈ろう。他にも足りない物があれば、ローザに言うと良い」


 あたしはお辞儀をしながら、礼を述べた。


「……ありがとうございます」


「藍の君、本題にそろそろ入る。そなたに女官長が無体なことをしていたのは事実か?」


「そうですね、粗末な部屋を宛てがわれました。また、私を聖女として認めないとも言われましたね」


 あたしがはっきり言うと、オルキスさんの表情がより冷淡なものになる。それに気のせいか、周りの気温も下がったような?

 いわゆる冷気みたいなのが発せられているように感じた。


「ふむ、他には?」


「私に陛下のご寵愛を期待するなとかも言われました、後は。一介の女官として扱うと」


「……成程、よくわかった。聞けば聞く程、ひどいな」


 オルキスさんは最後にポツリと呟いたが。何を言ったかまでは、あたしにはわからなかった。


「ミラー騎士団長、聞いていただろう。入って来ても構わん!」


「失礼致します」


 オルキスさんが大声で呼びかける。そうしたら、ミラー騎士団長やアレクシアさん達が謁見の間に入ってきた。


「早急に、キュリー女官長をこちらに連れてこい。今すぐにだ!!」


「はっ!」


 ミラー団長やアレクシアさん達は、騎士としての礼をする。謁見の間から皆、走って行ってしまった。タッタッと大人数の足音がしたから、廊下に待機していた他の騎士さん達も向かったらしい。


「……藍の君、今宵にそなたの元へ行く。そのつもりでいてくれ」


「わかりました」


 あたしは深々と一礼をした。自分なりに丁寧にしたつもりだ。後でカーテシーのやり方などを習わないといけないな。そう、思ったのだった。


 その後、ミラー団長や騎士達により、キュリー女官長や5人程の女官が連行された。女官長以下、見覚えのある顔ぶればかりだ。


「ふむ、これだけいたとはな。女官長、我が側妃にした非道の数々。どう贖うつもりだ?」


「……私は何もしていません、全てはあちらの女が考えたことです!」


「ほう、女とは誰のことだ」


「もちろん、あの聖女を騙る小娘です!あの者に私どもは嵌められたのです!!」


 聞くに堪えない大声で女官長は、言い募る。あたしはよくもまあ、ぬけぬけと言えるなと半ば、呆れ返った。あの淑女然とした彼女がと思う。


「陛下、陛下はあの者に騙されています、目をお覚ましください!」


「……私はとっくに目は覚めているがな、女官長」


「なっ!」


「言いたいことはそれだけか、地下牢に連れて行け」


「……そんな、あんまりです。私はただ、この国のためを思いましたのに!!」


 女官長はそう叫びながらも騎士達によって、地下牢に連れて行かれた。あたしはただ、見ることしかできなかった。



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